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そぼろと牛乳、そして日光

 日差しの強い朝。マンション4階の外階段から世田谷線を見下ろした。線路に生い茂る瑞々しい緑に見とれていた。


 友人と仲直りをした。その友人というのが、私にとってはかなり深い友人だった。名前は「そぼろ」という。

 彼と仲違いをしたのは20歳のころ。私は高校生のころから自分の気持ちが分からなくなり始め、それがピークを迎えていた。「自分は何者なのか」。「自分はどうやって生きていきたいのか」。ジェンダー的な迷いもあったと思う。高校、大学とバレーボールにいそしんでいた自分にとって競技での経験だけがすべてで、だけどプロになれないことも分かっていて、バレーボールに熱中しながら、「何を目指し、何を大切にし、どう生きていきたいのか」を模索し続けていた。

 その期間を支えてくれたのがそぼろだった。人の話をよく聞き、自分の感情をつたない言葉で伝えてくれる。そして、一つ先のことをどうにか予見しようと背伸びをしている友人だった。私はクールぶりたいのに、感情の起伏が激しく、なんとなく勘の良い生き物だったから、彼の素朴さがうらやましかった。うらやましさが妬みを生み、絶望に変わり、それを自覚している自分は「そぼろを超えるほどの魅力を持つ人間になれるのだ」と錯覚していた。個性は自由で何色であっても良いのに、競い合うという愚かな思考の中で彼をとらえていた。

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