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その選択は自分を小さくするか、大きくするか
年明け早々、ピラティスに通い始めた僕の奥さんは、側から見ても明らかに生活にハリが出ているし、自分でもそれを自覚していた。
その傍らで僕は年末年始のダラダラ感を引きずり、弛緩し切った生活を送っていた。
奥さんがピラティスのレッスンに行っている間、こたつに入ってぬくぬくとAmazonプライムでアニメを一気見していたし、仕事に関しても「今年は暦が悪くて年末年始が短かったせいで、なかなかペースが出ないんすよ」とヘラヘラして少し怠けていた。
しかし、ネット記事にしても新聞にしても、たまたま駅で手に取ったフリーペーパーのコラムさえも、やはり新年ということでメッセージが一貫している。
「新年の気持ちを忘れずにスタートダッシュを決めよう!ゴロゴロしてるだけのお前はどういうつもりなの?」
という攻撃的なメッセージだ。
挙げ句の果てに、昨年末から読んでいた「限りある時間の使い方」という本に書いてあった、
「楽な衰退より、苦しい成長」
というキラーフレーズに右フックを入れられて、なんだか生きているのが申し訳なくなってきた。
さらに「何かを選択するときは、自分を小さくするか?大きくするか?を考えろ。じゃないとお前はそのまま歳取って無意味に死ぬよ」という死体蹴りみたいな言葉が書いてあって、「あなたもピラティス通ってみたら?」と奥さんに言われた数分後には、翌日朝イチの体験レッスンに申し込んでいた。
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申し込み後、すぐにピラティススタジオの男性から掛かってきた電話にしどろもどろに応対していると、段々とピラティスをしている自分の姿が思い浮かんできた。
丸の内で働いているようなキラキラの意識高いキャリアウーマンに囲まれて、鏡越しにだらしない身体を晒している意識低い自分を想像すると、少し吐きそうになった。
慣れない動きに付いていけなくて後ろにいる人の顔におならをかましてしまうかもしれないし、地獄のように身体が硬い自分の醜態を見たインストラクターのお姉さんにクスクス笑われてしまうかもしれない。
「やっぱりやめます」と思わず言ってしまいそうになったけれど、同時に「自分を小さくするか?大きくするか?」という問い掛けが頭をよぎり、それを打ち消した。
よくよく調べてみると、ピラティスは姿勢が綺麗になるし、腰痛などの根本治療にもなるらし、頭の動きも活発になるらしい。
長年猫背でまるまりながら、ぎっくり腰を繰り返し、ボーッとしている自分にとって、必要不可欠に見える。
恥をかいて小さくなる場面は多いかもしれないけれど、ピラティスは自分を大きくすると確信してそのまま電話を終えて、その日はすぐに寝た。
翌朝のレッスンは、朝の7時からなのだ。
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翌朝、目覚めた瞬間、心が折れかけた。
超寒いし、超眠い。
別に朝ではない回もあったのに、なぜよりによってこの回を選んだと、猛烈に後悔した。
それでも体験レッスンとはいえお金も発生するので、なんとか布団から這い出した。
最低限の身だしなみを整えて、軽食を食べて、外に出る。
寒いのでピラティスのスタジオまで、ジョギングしながら向かうことにした。
かなり急な坂道があって、駆け上がっていくと膝がガクガクしてきて、心が折れかけた(2回目)。
なんとか坂を登り終えて、商店街を端から端まで駆け抜けると、スタジオに着く。
ドアを開けると、想像通りのピラティスインストラクターのお姉さんが迎え入れてくれた。
事務スペースのようなところで体験レッスン前のレクチャーを受けていると、「おはようございます」と言いながら受講生たちが次々と中に入ってきた。
想像通り、女性しかいない。
レクチャーを終えて、レッスン場所に誘導される。
大きな鏡に映る、所在なさげに立っている自分の姿をみて、心が折れかけた(3回目)。
これからピラティスします!というウェアを着た女性たちに囲まれて、なんだか可哀想に見えた。
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いくらキョロキョロ逃げ場を探したところで、もう手遅れだった。
インストラクターのお姉さんの元気な挨拶で、レッスンが始まった。
さすがに観念して、身を委ねることにした。
背骨を意識する。
骨盤を動かす。
「え、どうやって?」と反射的に思ってしまうような動きを促されるたびに、周りを見回しながらなんとか真似てみる。
たまに、お姉さんが掛けてくれる言葉の意味がわからず、1人だけ違う動きをしてしまったけれど、恥ずかしがる自分をみている人は誰もいなくて、そのことに気付くとふっと気持ちが楽になった。
みんな、自分のことに集中している。
そうこうしているうちに、レッスンの1時間はあっという間に終わっていた。
自分の身体の動きにだけ注意を払って1時間を過ごしたことなんて、いままであっただろうか。
わからないことだらけだったけれど、不思議と思考がスッキリとしている。
身体もポカポカして、気持ちよかった。
レッスンを終えて、お姉さんから正式入会するかどうか、尋ねられる。
見せられた料金表を見て一瞬怯む。
身体を動かすことにこんなにお金をかけるのか、他のことにお金を使ったほうが。。などと考え始めた瞬間、
「自分を小さくするか?大きくするか?」
という問い掛けがまた頭を駆け巡った。
家でダラダラする時間を、心身ともにリフレッシュさせることができたら、大きくなるかまではわからないけれど、小さくはならない気もする。
お姉さんに入会することを伝えてスタジオを出ると、気持ちの良い青空が広がっていた。
早起きしなかったら、この気持ち良い空を見上げることはできなかっただろう。
気分が良くなって、帰り道もジョギングすることにした。
走りながら、自分の選択が、自分を小さくするか、大きくするかを自問自答するのは、なかなか良いかもな、と思った。
反射的に楽な方向に直進する癖のついた自分の肩を揺さぶって、今まで行けなかった場所に連れて行ってくれるかもしれない。
輝く方へ / グッドモーニングアメリカ
<太・プロフィール> Twitterアカウント:@futoshi_oli
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗を経て、今は広告制作会社勤務。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。
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