泉岳寺に散らばっている思い出
大学生の頃、実家からキャンパスまでを自転車で通っていた。
第一京浜沿いをひたすらまっすぐに突き進み、一度だけ左に曲がって少し行ったところに大学があったのだ。
20分程度の道のりだったけれど、走るのは少し大変な道だった。
車と並走しながら少しきつめのアップダウンを乗り越えて、最初の難関は品川駅だった。
駅付近の歩道は歩行者でゴミゴミしているし、車道は車が多い。車は容赦なくスピードを落とさずに車道から建物の駐車場に入ってこようとしたりするので、なかなか危険だった(それで一度轢かれかけたこともあった)。
次第に諦めて、自転車を押しながら歩くようになった。
品川駅を過ぎると少し落ち着いたオフィス街になって、走りやすくなる。
建物付近に停まっているキッチンカーや弁当の移動販売をキョロキョロ見渡しながら走った。
その間に通り過ぎたのが、泉岳寺だ。
僕は泉岳寺に印象に残っている思い出がふたつある。
一つは、大学時代から少し時間を巻き戻した高校3年生の秋。
9月に高校生活最後の文化祭が終わり、いよい受験まっしぐらになっていた。
比較的受験勉強のスタートが遅くてのんびりしていた同級生も、雰囲気がちょっと変わってきた中で、僕は逆行してだらけ始めていた。
夏の模試の結果がそこそこ良くて、第一志望は難しそうだったけど、第二志望も第三志望も射程圏内の成績。
「浪人しなくて済みそうや」と思った瞬間、やる気が一気に削がれていた。
昔から見通しが立つとだらける癖があって、それは今も治っていない。
ただ、周りと対照的にギアが入らない自分に対して、すごくモヤモヤもして、焦りもしていた。
そんな矢先、中学時代の友だち・ヒロから、文化祭で軽音楽部ライブをやるから観に来ないかという誘いが来た。
僕は少し迷ったけれど気分を変えた方が良いと思ったので、同じく中学時代の友だちである森谷と一緒に観に行くことにした。
ヒロの高校は泉岳寺にあって、森谷と京急の品川駅で待ち合わせをして、2人で向かった。
ヒロは、体育館でライブをした。
そこそこ人が入っていて、僕と森谷は後ろの方からヒロのライブを眺めた。
真剣な顔をして、客席の方を向かずにずっと俯き加減でギターを弾いているアリの制服姿が印象的だった。
その時の周りのバンドメンバーや、ライブを観た後に森谷と何をしてから帰ったかは思い出せないけれど、ヒロの演奏している姿は今もなんとなく目に浮かべられるくらいには記憶に残っている。
演奏していたのは、ナンバーガールだった。
もう一つは、ばあちゃんが死んだ後のことだ。ばあちゃんのお墓は泉岳寺にある。
法事で訪れた日を途切れ途切れに記憶にあって、母親とした会話やさくら水産に寄ったことを少しずつ思い出すことがある。
お墓参りをしながら、ヒロがライブで演奏していた曲が頭に流れてきたこともあった。
数年前、仕事で泉岳寺に行ったとき。
ヒロが演奏したナンバーガールを森谷と観たこと、大学のキャンパスに向かって自転車を走らせたこと、ばあちゃんのお墓参りをしたこと、いろんなことが頭に浮かんできた。
全て大切なことで、これからも泉岳寺に行くたびに思い出すんだろうなと思う。
透明少女 / NUMBER GIRL
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