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手を伸ばすより手で包む方がずっと力がいるってことだ
「もし万が一行方不明になっても絶対に捜さないで下さい。ごめんなさい」
2017年6月初旬。その様な主旨のメッセージを父に送り画面を伏せ返事を待たずスマホを置いてアパートを出た。初めての沙漠旅行。場所は地球の裏側、南米チリ・アタカマ沙漠。
様々な保険会社にあたってみたが沙漠での遭難を補償してくれるところは見つからなかった。仕方なく普通の海外旅行保険に入ることにした。
もし遭難して捜索されてしま
ビールのCMに出てくる人たちみたいになりたかった
ほどほどに明るくて、やりがいのある仕事に打ち込んでいて、迷いや辛いこともあるけど、本当に笑い合える仲間たちがいる人たち。
気が付けばいつも1人でいる。何度もこれではいけないと仲間を作ろうとしては、やっぱり駄目だった。
みんな、いったいどうしてるのだろう。ちゃんと人と関係性を築いて、何もかもが過ぎて行くことを飲み込んで、笑って生きている人たちがただ眩しい。
年を追うごとに、この歌詞への共感が鳴
昨日の電話以来 錆びつく胸が痛い
何年かくらい前から、心が乾いた時に聴く曲がある。モーモールルギャバンというバンドの「悲しみは地下鉄で」という曲である。
この曲の核となる(と僕は思っている)一節はこの部分である。
人間ってなんですか
食えるんですか
金になりますか
ここでいう「食える」とは「生活が出来るくらいお金を稼げる」という意味である。つまりこの歌詞は「人間をすることはお金になりますか?」という問いかけである。
しかし
僕の話を聞いてくれるのですか?
「編集会議で奥村さんの旅行の報告を4頁で掲載することに決まりました」
という主旨のメールをある雑誌の編集部から受け取った時「ええ!?」と吃驚した。声に出ていたかも知れない。打ち合わせで「インタビューとご自身で書かれるのとどちらが良いですか?」と編集者の方が僕に聞いた。
(いいか…ひろみ、こんなことはもう一生起こら無いぞ…分かってるな…?)
僕は即座に「書かせて下さい」と答えた。
文字表現に
⑳中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠
ガタンッ ガタンッ
トラックは劣悪な未舗装路を北に向かって進んでいた。窪んだ地面を通る度にトラックは大袈裟に跳ね、声にならない衝撃が背中に走った。私は自転車とその他乗客の荷物と共にトラックの荷台に仰向けになり、町へと運ばれていた。
(これから一体僕はどうなるんだろう。)
なんて思うことは、この先恐らくもう無い。このトラックは町まで確実に私を運び、町からはバスが首都まで運んでくれるだろう。長い
⑲中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠
そのゲルには14歳くらいの可愛らしい女の子と、その兄弟二人とお父さんとお母さんが暮らしていた。ゲルの壁となる布が一部分地面から捲り上げられていて、そこから光が差し込みいい風が入って来る。家族は突然現れた私を大歓迎してくれた。
お父さんに地図を見せながらこれまでの旅のルートを説明していると、娘が興味を持って近寄って来た。年頃の女の子にしては珍しい。村の学校で日本語を習っていると言う。彼女の笑顔は
⑱中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠
情けなさを噛みしめながら歩いた。風が正面から強く吹いていて、視界の先には丘陵地帯が私を待ち構えている。これまでそういった場面は沢山あったはずだった。普通の人間なら慣れて強くなっていき、何とも思わなくなるのかも知れない。しかし私は違った。沙漠に入ってここまで47日間、900km以上歩いた。その経験は私を分厚くするのでは無く少しずつ削っていった。
明日一日歩いて遊牧民が見つからなかったとしても、そ
⑰中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠
「この先に遊牧民はいますか?」
この旅で一体何度言ったか分からない質問をたまたまオートバイで通りかかった男に私は浴びせた。彼は「いる」と答え、去っていった。彼のゲルは、ここからは遠いバヤンゴビという村にあるらしい。その後、見つけたと思ったら廃墟となっていたゲルで私は水を全て腐っていないか点検を行った。この先がもし無人地帯になっており、水を得られずに戻ることになった時、水が飲めないものになってい
⑯中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠
ボグド村に到着し、出会った村人の庭にテントを張らせて貰い、夜を明かした。私はモンゴル語がほとんど出来ない。身振り手振りでコミュニケーションを取っている。小さな子供が、何かを伝える時の動きがオーバーになる理由が分かった気がした。言葉が足りない分、身体を使って表現を補っていたのだ。モンゴルに来てからずっと「なんか自分子供みたいだな」と思っていたのだ。これは未知の環境であればモンゴルに限った話では無い
もっとみる⑮中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠
さらに近付いていき双眼鏡で確認すると、山羊と羊の群れであることが分かった。よく見ると丘の上にもいる。合わせて20匹くらいだろうか。自転車を置いて双眼鏡を持って空身で丘を上り、辺りを見渡す。しかしゲルは見当たらない。あの数の山羊、羊の群れで主がいないなんて有り得るのだろうか。詐欺師のラクダならともかく。野生化したのだろうか?水はどこで得ている?遊牧民から捨てられたばかりなのか?
角度が急な、砂混
⑬中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠
朝、目が覚めるとぐっしょり汗をかいていた。深く眠れた実感があり、自分の中に活力が戻って来ているのを感じた。ビニール袋とトングを持ったビャンバさんが「オムス!オムス!」と言いながらゲルに入って来た。何だろう?外について行くとゲル周辺に私がした下痢便を回収する作業が待っていた。水状だった便は乾燥して固体になっている。15個程回収した。
遊牧民は、主に家畜の糞を燃料にして、火をつくり、料理をし、暖
⑫中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠
「なんでそんなことをするの?」
私がしている旅はただ辛くて無益なだけの様に思えるのか、人によくその様な質問をされる。「ただ辛くて無益なだけ」というのは、ほぼ当たっているだけに自分でもはっきりと分かっていないこの疑問を人から投げかけられると、私はその都度答えに窮する。
あなたは今、何をしているだろうか?この文章を読んでいる。ではなぜ、この文章を読んでいるのだろうか?
たまたま見つけたから。人
⑪中央アジア、モンゴル・ゴビ沙漠
真昼の沙漠でするパンク修理ほど、やるせないものは無い。多い時は、一日に3回もパンクした。まず後輪タイヤがパンクし、修理して、次に前輪タイヤがパンクし、修理して、また後輪タイヤがパンクする。という具合である。この時私は、もう後輪タイヤの修理をせずに進むことにした。パンクの穴が小さく、3~4km進むごとに一回空気を入れれば、なんとか騙し騙し進めそうだったのだ。
普通に考えたら、パンクしている状態で