大海

旅する旅人

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    桜が咲いたら

    牛乳を電気ケトルに入れて沸騰させようとすると、注ぎ口から逆噴射を起こして部屋が凄いことになる、ということを知ったのは大阪に出てきたばかりの頃の深夜だった。狭いベランダの柵の隙間から僅かながらビル群の光が見えていて、都会にいるんだなあと2年くらいは嬉しさを感じて過ごした。日本一高いというビルが、天王寺に建つらしい。今思えば、ずっと未完成のままでいてくれれば良かった。外観が完全にパチンコ屋の、24時間やってる奇跡の様な安さのスーパーに行くのにも慣れて来た頃、風の匂いが消えた。公園

      • 来ない人を、待っている。

        高校時代からの友人と会う。 現在3時間程遅刻されているなうだが、全く腹が立たない。それは僕の心が広いからでは無い。彼と共有してきた時間。その大半が無限に時間がある様に思えた10代の頃のもので、なぜだか今だにその時間感覚が僕らの間に流れているからだ。(あと僕が無職だからということもある) 高校時代なんか、もう20年くらいは前の話だ。物質的に考えると、細胞の新陳代謝によって僕の身体は殆どまるまる違うものに入れ替わっている。それは今日これから来る彼も同じだ。 なのに僕は僕を僕

        • 「世界に対して器用に接することができるようになることを『成長』だなんて、そんな言葉で呼びたくない」

          10数年ぶりに映画『フォレスト・ガンプ』を見た。 主人公のフォレストは、知能指数が他の人よりも低い。様々な場面で「世界」とちぐはぐな行動をとってしまう人間だ。 しかし真っ直ぐに人を愛して、人を信じて、馬鹿みたいに正直に約束を守る。 時にはひたすら何万kmも走った。世界平和の為でも無く、動物愛護を訴える為でも無く、ただ「走りたかった」からだ。 無数の選択肢がある様に思えるこの世の中で「たった一つを信じること」は、難しい。 自分にとってベストな道を探し出そうとして、僕た

          • そばにいてほしい

            記憶は、どこへ行くんだろう。 私は特別養護老人ホームで働いている。昨日の夜、就寝介助を行っている時、利用者の尾崎さんが亡くなったご主人の話をしてくれた。 「女癖が悪くてね、苦労したわよ。煙草をよく吸う人でね、これで死ねたら本望だなんて言って。」 尾崎さんは現在90代。ご主人を50代で肺炎で亡くしている。 「ダンスが好きな人でね、ある日どうしてもって言うから三ノ宮のキャバレーについて行ったの。私は嫌だったのよ。ダンスなんて不良がするものだと思ってたから。」 「へえ。で

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          • sabaku diary
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            散るから綺麗な桜、みている今と、その前後の文脈

            満開の桜を見た瞬間に、胸がずきっと痛くなった。その理由を、考えていた。 オランウータンには「過去」も「未来」も無いという話を聞いたことがある。もう一生食べ物を得られない様な怪我を負っても、決して絶望することは無く、ただ目の前に「生きている今」があるだけなんだそうだ。 小さな事で落ち込みやすい僕は、それを聞いた時、オランウータンをとても羨ましく感じた。 しかし、と思う。 しかしオランウータンは、僕が見ている桜の美しさを見ることが出来るだろうか。 「桜は散ってしまうから

            眠れない夜と記憶

            何もかもが満たされた夜。 という訳でも無いのに、眠れない夜がある。 「なつかしいな。」 「ありがとう。」 「ごめんなさい。」 シュラフの中でもぞもぞしながら 今までに出会った人たちとのことを思い出していた。 思わずひとり微笑んでしまうことや、後悔や。 その記憶の全ては、ほんの少しの切なさを内包している。 いつの間にか周りからいなくなった、たくさんの人たち。 自ら手離したのだとしても またその逆であっても 最終的にそれを了解したのは自分なのだ。 みんな

            確実に出す、たったひとつの冴えたやり方

            「サバク旅行のトイレ事情」 というものを、今回はお話ししたい。 まず、小に関してはプラティパスという、 プラスチック製のぺちゃんこになる容器にテントの中でしている。 外に出てしないのは、 「狼が怖い。」 「扉を開けてテント内の暖気を逃したく無い。」 ということもあるが、正直なところ 「面倒くさい。」 というのが一番大きな理由だ。 この尿の入った容器を、寝袋の中に入れて眠る。 うっかり寝袋の外に置いておくと、朝尿は凍りついている。 では、大に関してはどう

            夢と日常

            水もある。 食糧もある。 ストーブの燃料もある。 GPSも正常に作動している。 身体に異常は無い。 それなのに、ふと漠とした不安を人に抱かせる何かが、 沙漠にはある。 「無事生きて旅を終えられるだろうか...」 「寒い。冷たい。惨めだ。もう帰りたい....」 旅は、その様な不安と不快の時間の連なりだ。 ・スタバに行く。 ・standard book storeで時間を気にせずゆっくり本を読む。 ・freaks store, BEAMSあたりをウインドウ

            夜明け前

            突然の激しい身体の震えに、僕は目を覚ました。 テント内に吊るしてある気温計は「−18℃」を示している。 慌ててガソリンストーブを焚く準備を僕は始めた。 ここまで寒いと、弱音を吐く余裕も無い。 泣き言を言っている内は、まだ余裕のある証拠なのかも知れない。 決して舐めていたわけでは無いが、 実際に冬のゴビに来て、ガソリンストーブは思った以上の存在感を示した。 まず朝、ストックの水は凍っている。 −18℃と言えば、ちょうど家庭用冷蔵庫の冷凍室の温度だ。 その水をス

            出発

            フグスグル村へ向かう車のドライバーのおじいちゃんは、 これまでの生涯で計二回程の運転実績を誇っていると思われた。 ハンドル捌きが明らかに普段から運転している人間のそれでは無い。 「この人大丈夫か....?」 助手席で僕は何度もおじいちゃんの横顔を見つめた。 3時間程かけて車は無事村に到着した。 フグスグル村は本当に小さな村で、宿は無く、 ドライバーのおじいちゃんの知り合いの庭にテントを張らせて貰えることとなった。 2月7日。モンゴルは旧正月。 家には親戚が集

            東の町にて

            フグスグルという名前の村を、旅のスタート地点にしようと 宿のフロントの女の子にそこまで乗り合いバスが出ていないかを尋ねた。 今日村へ行く車があり、 「20000トゥグルグ(1000円くらい)で行ける。」 とのことだった。 フグスグル村は彼女の故郷だそうで、「どうしてそこへ行きたいのか?」などを彼女のスマホの翻訳機能を使い、モンゴル語⇔日本語で伝達し合っていると画面に唐突に 「あなたは私と寝たいのは」 と日本語が表示された。 「ん?(どういう意味?)」 そんな

            旅立ち

            関西国際空港を発ち、北京空港でトランジット。 僕は今、モンゴルの首都ウランバートル行の飛行機に乗っている。 北京からたったの3時間、窓からモンゴルの大地が見えた。 うっすら雪の積もったゴビ沙漠。 「とにかく無事に帰って来て。」 日本で送り出してくれた皆は優しかった。 でも、僕はここで掴む。 ここで掴めなきゃこの先一生何も掴めないだろう。 「あそこを僕は旅するんだ。」 雪化粧をしたゴビの荒野を見て、少し胸が震え鳥肌が立った。 また孤独な50日になる。 飛行