あの日のこと

下肢静脈瘤の疑いがあり、病院へ行った。

あべのハルカスという高層ビルに入っているその病院は、ガラス張りになっており、そこからは大阪の街を見下ろせた。 

ゆったりとしたスペースにソファーが置かれており、病院というよりは、ホテルのロビーの様だった。私はちょっとしたセレブ気分に浸っていた。

エコー検査に私の名前が呼ばれる。私は言われるがまま、エコー室に入った。女性の看護師が言った。

「じゃあ、エコー検査しますので、ズボンを脱いでパンツだけになって下さい。」

私の頭は真っ白になった。その日に限って、私はノーパンだったのだ。

「エコー検査しますので、ズボンを脱いでパンツだけになって下さい。」と言われても、そのパンツを穿いていないのだ。

「エコー検査しますので、ズボンを脱いでパンツだけになって下さい。」と言われ、もしパンツを穿いていれば、私だって「はい、分かりました」と言って堂々とズボンを脱ぐことが出来る。

しかしこの時ばかりは「エコー検査しますので、ズボンを脱いでパンツだけになって下さい。」という要求されても、それはMISSION IMPOSSIBLEだった。

私は瞬時に思考を巡らせた。

一体どの様にして、この受難を切り抜けるか。

気が付けば、私は言葉を発していた。

「あの、すみません。今日実はパンツを穿いてなくて…。あの、乾いて無かったんですよ。」

看護師は紙パンツをくれた。

複雑化し過ぎた現代社会では「正直であること」それが何より有効なライフハックなのかも知れない。

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