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エピローグ第19話:カメラ目線と消えたバッヂ『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖


『狩場の悲劇』と同様に、『スリー・ビルボード』でも「濃厚なキス」は一度しか登場しない…

自殺する夜のウィロビーと妻アンによるキスシーンだ…

あのキスに、重大な秘密が隠されていたんだよ…

・・・・・

なんのこと言ってるのかわからない人は、きっと前回を未読の人ね。

まずはコチラからどうぞ。

なぜ花笠君が顔を赤らめているのかわからない人はコチラをどうぞ(笑)

ディープキスに重大な秘密が?

どうゆうこっちゃ?

まずはチェーホフ『狩場の悲劇』における「濃厚なキス」について説明しよう。

「濃厚なキス」を行ったのは、のちに殺されるヒロイン「森番の娘オリガ(19歳)」と、その真犯人である予審判事セルゲイ・ペトローウィチ…

なんと、オリガと伯爵家の執事ウルベーニンの結婚式の真っ最中の出来事だった…

あれ?

オリガは「自分には貴族の血が流れている。だから貴族として扱われて当然だ」と思っていたのに、執事と結婚しちゃったの?

実は執事ウルベーニンも貴族なんだ。最も低い階級の貴族だけどね。たぶん男爵あたりなのかな。

彼の家は代々隣の郡に小さな領地を持っていたんだけど、借金の担保に取られてしまい、収入源を失ってしまった。

だから伯爵家の執事として雇われていたんだよ。

執事も「領地を失った没落貴族」やったんか…

ポーランド人兄妹と一緒やんけ…

それを臭わせるための設定だろうね…

伯爵家を乗っ取ったポーランド人兄妹の素性は一切描かれないんだけど、チェーホフはヒントをいくつも用意していたんだ…

まあ、それは置いといて…

執事とオリガの結婚式は、この地域の貴族や上流階級が勢揃いする盛大なものだった。

年老いた没落貴族と、平民の中でも身分の低い森番の娘の結婚式にもかかわらず、ね。

おそらく伯爵は「自分は困った貴族に救いの手を差し伸べただけでなく、ここまでのことをしてあげる立派な男だ」と虚栄心や見栄を満たしたかったんだろう。

だけどそれが裏目に出たんだ…

上機嫌の伯爵はウルベーニンとオリガに「新郎新婦のキス」を求めた。

そしてすべての参列者の視線がオリガに集まった。

その瞬間、オリガは自分が「この地域の上流階級の人々の中で最も貧乏で醜い男」を選んでしまったことに気付いてしまったんだ…

しかも付添人を務めるギリシャ風美男子の予審判事セルゲイ・ペトローウィチが、すぐ隣で「それで本当に満足なのか?」とでも言いたげな目をしてジッと見つめている…

こんな感じで(笑)

それに耐えきれなくなったオリガは、席を離れ、そのまま式場へは戻って来なかった。

予期せぬ花嫁の失踪に、花婿のウルベーニンはもちろん、参列者は騒然とする。

オリガの付添人を務めていた予審判事セルゲイ・ペトローウィチは、伯爵領内の保安官みたいな地位でもあるため、花嫁捜索の役を買って出た。

そして伯爵家の広大な庭園の中を探し回り、以前オリガが「ここで皆に見守られながら死にたい」と言っていた岩山の洞窟の中で発見する…

ゴルゴダの丘が投影されとる岩山の洞窟やな。

『磔刑図』アンドレア・マンテーニャ

洞窟の中で、オリガは予審判事に「あなたと結婚したかった」と涙ながらに《愛の告白》をした…

それに対して予審判事は…

わたしは彼女の手をとって言った。「涙を拭いて、行きましょう……向こうで待ってるから……さ、もう泣くのはたくさん。もういいでしょう。」わたしは彼女の手にキスした……

「もういいんだ!君は愚かな真似をしたんだもの。これからその報いを受けるのさ……自分がわるいんですよ……さ、もういい、気を静めて……」

「愛してくださるわね?ね?あなたって、とても立派でハンサムだわ!愛してくださるでしょ?」

「もう行かなけりゃ、君……」わたしはこう言ったが、自分が彼女の額にキスし、その腰を抱きよせていることや、彼女が熱い息吹きでわたしを灼き、わたしの首にひしと抱きついていることに気づいて、ひどくびっくりした……

「もういいんだ!」わたしはつぶやく。「もういいんだよ!」

中央公論社版(訳:原卓也)より

なにが「もういいんだ!」やねん…

どう考えてもアカン展開やんけ…

「ひどくびっくりした」とか言ってるけど、超わざとらしい…

自分でオリガの手にキスして、次に額にキスして、さらには腰に手をまわして抱きよせてるじゃんか…

この流れだと、次は唇ね…

<続きはコチラ!>


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