深読み米津玄師_第1楽章_第11節A

米津K師殺人事件 第1楽章『アイネクライネ』第11節「ある小さな夜の歌」



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2019年4月某日 

熱海サンビーチ
海辺のカフェ 奥の部屋



それじゃあ、いっちょ行きますか。

まずはオリジナルラブの『接吻』から…

ふぅ…




海辺のカフェ 入口


ハァ…ハァ…

ちょうどいいところにカフェがあってよかった…

ハァ…ハァ…ハァ…

もうやだ…びしょ濡れじゃん…

あれ?ライブやってるのかな?

これ『接吻』よね?

いらっしゃいませ~

ただいま奥の部屋でライブやってます。

無料ですので、ぜひどうぞ~

へえ~。いいね…

よくないでしょ!

『アイネクライネ』の歌詞の深読み!

あ…そっか…

ごめんなさいね、お姉さん。

あたしたち、今からちょっと込み入った話しなきゃいけないのよ。

あまり歌が聞こえてこない席にしてもらえないかしら?

奥の部屋から一番離れた席。


は、はい…

では、あちらの窓辺の席へ…

海の見えるカップルシートになってます…

あそこね。OK。

ところで、お手洗いはどこかしら?

はい。お席のうしろをそのまま真っ直ぐ行った突き当りに…

岡江クン…

先に座って注文してて。あたし、レモンティーね。




ふぅ…

それにしても…この辺りもすっかり変わった…

確か、この店も無かったし…

月日の経つのは本当に早い…

あの夜から…もう…

12年か…




海辺のカフェ 奥の部屋


♪ 甘い~口づ~けを交わそう~
夜が~すべてを~忘れさせる~前に~
FALLIN' LOVE きつく~抱きし~めるた~びに~
 や~けに~色のない夢がつづく~ぅ ~Ah~♪


ありがとうございました…


パチパチパチパチパチ!


すげえじゃんキミ…

ふぅ…

(やけに色のない夢がつづく、か…)

(確かにそうだった…)

(この12年間…)

(ずっと…)




熱海サンビーチ
12年前


やれやれ…

皆あれだけ「今夜は絶対に寝ません!」って張り切ってたのに(笑)

晩御飯の時、かなりワイン飲んでましたから…

そのあとすぐにたくさん歩いて、酔いが回ってしまったんですね…

ところで花笠…

お前の二日酔いはもう大丈夫なのか?

はい…

ご心配おかけしました、教官…

もうすっかり大丈夫です。

今日はずっと辛そうだったな。

午前中は脂汗まで流してたし。

昨日は…お酒、初めてなのに…ちょっと飲み過ぎちゃいました…

まさかあんなに気持ち悪い思いをするとは…

頭はガンガンするし…吐き気も止まらないし…

死ぬかと思っちゃいました、私…

「この苦しみを体から今すぐ過ぎ去らせてください」って、ずっと神様にお願いしてたんですよ(笑)

しかしお前と一緒に酒を飲む日が来るとは思ってもみなかった…

最初に出会った時、お前は6歳だったっけ?7歳?

あんな小さな少女だったのに…

ふふふ。教官も大学生でしたね。

でも全然変わってない…私が最初に見た時の教官そのまま…

ははは。中身はもう三十路のオッサンだよ(笑)

ねえ、教官…

波打ち際に行きませんか?

「光の道」を近くで見たい…

そうだな…




ああ…綺麗…

見ろよ。面白い。

海岸の端から端まで等間隔でカップルが座ってる。

図ったような等間隔だ…

私たちも傍から見ればカップルですよ。

花笠…

(靴を脱ぎ、ワンピースを膝上まで捲し上げ海へ)

きゃ!冷たい!

でも気持ちいい!

教官も裸足になって入ってみてください!

すっごく気持ちいいですから!

綺麗だ…

え?

い、いや…

水面にキラキラ輝く月光が…綺麗だなって…

教官も早く靴脱いで。

ちょ、ちょっと、あいつらのとこ戻るわ…

やっぱりあのまま寝かせとくわけにいかないよな…

今夜は人出も多い…財布でも盗まれたら大変だ…

起こして、部屋に帰って寝るように言ってくる…

ここで待っててくれ…

はい…





(水面に映る自分の影を見つめながら)

ハァ…


「 クリ…チャン… 」


え?

クリちゃん…

リンちゃん…?リンちゃんなの?

どうして?

よくわからない…

気がついたらあたし…水面に影になって浮かんでた…

すごい!信じられない!

このへん…波が行ったり来たりで…何だか落ち着かない…

もうちょっと深いとこまで行ける?

うん…


ザブザブザブザブ…


これくらいでいい?

うん。やっと落ち着いた…

リンちゃんとこうして話すの何年ぶりだろ…

・・・・・

ねえ、リンちゃん…

なんで出て来なくなっちゃったの?

だって…

クリちゃんの…邪魔したくないから…

邪魔?

クリちゃん…すっごく楽しそうなんだもん…

たくさんのお友達に囲まれて…

岡江教官とも…

すっごく…仲が良くて…

え?

あたしがいなくても全然楽しそう…

っていうか、あたしなんかが出て来たら…

迷惑だよね…

そんなことないよ、リンちゃん…

私たち、ずっと一緒だったじゃない…

いいなあクリちゃんは…

好きな人と楽しい時間を過ごせて…

好きな人の…

ぬくもりを肌で感じられて…

ぬくもりって…

私と教官は、そんなんじゃないってば!

でも好きなんでしょ?

好きとか好きじゃないとか…そういうんじゃなくて…

ほら、教官とはずっと一緒でしょ…?

もうほとんど…兄みたいなもんよ…

嘘…

・・・・・

いいよね、クリちゃんは恋とかできて…

あたしはいっつもクリちゃんの影…

深い海に沈む物言わぬ貝…

リンちゃん…

あ~あ…

あたし、クリちゃんになりたい…

え…

あの時クリちゃんとして生まれればよかったな…

生まれてきたその瞬間にあたし…

死んでしまうなんて夢にも思わなかった…

なんであたしが死ぬほうだったんだろ…

・・・・・

あたし…

男の人に思いっきり抱きしめられてみたい…

そして…

キスも…してみたい…

リン…ちゃん…

ねえ…クリちゃん…

もう少し…沖のほうに行かない?

そうしたらもっと…あたしのこと…

よく…見えるよ…

う、うん…

わかった…





あいつら無事に部屋まで辿り着けるかな…

心配だから、うちらも帰るか…


あれ?

花笠?


何やってんだ!?花笠ーーーーァ!


ザブザブザブザブ…


(花笠を両手でつかまえて)

おい!花笠!


あ…教官…

「あ」じゃないだろ!

何やってんだよ!?こんな深いところまで来て!

あたし…待ってたんです…

は?

ずっと…ずっと…



ど、どうしたんだ…花笠…?


待ってたんです…

あなたの…ことを…


!?



・・・・・



…ん?


きょ、教官!?

どうして?どうして?

わ、わたし…何を…

あ、あ、あ、あ…


花笠…危な…

ちょ、ちょっ…まっ…


ざぶん!



「心中だーーー!無理心中だーーー!」

ザワザワザワザワ…






あの…

大丈夫?

え…?

あ…

何でもない…大丈夫…

2曲目、行ける?

うん…

よし。じゃ行こ。『アイネクライネ』…

~♪

ふぅ…






ハロー

だいじょぶ?

え?あ?おかえり…

さっきからずっといたんですけど。

そ、そうだっけ…

あれ?『アイネクライネ』だ…

グッドタイミングね。

さあ、名探偵の深読みを聞かせてちょうだい。

『アイネクライネ』が意味する「ある小さな夜」とやらを…

いったいどんな夜だっていうの?



つづく




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