「深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)完結篇②&読みたいことを、書けばいい。」(第228話)
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2020年 ✕月✕日
南の島
とある施設の中
トラ?
男が消えて、トラが現われたの?
そうだよ。
ビックリしたでしょ?
うん。ドッキリかと思った。
で、どうなったの?
それから… えーとね…
あれ? 何だっけ…
忘れちゃった?
そうだ!石立鉄男!
いしだててつお?
あはっ、まちがえた。
それは『パパと呼ばないで』だったねw
パパと呼ばないで?
じゃあ何て呼んだらいいのかな? ダディ?
そんな右曲がりしてるみたいな呼び方おかしいよ。
右曲がり? なぜ右なの?
パパじゃなくてチチ。チーチ。
チチ?
あ、そうそう。続きを思い出した。
「虎と見て 石に立つ矢の ためしあり」になっちゃったんだ。
それ、どういう意味?
トラに矢が突き立って、石になったんだよ。
トラが石にね!
石に? そんな馬鹿な…
馬でも鹿でもなくトラの話だってば。
トーラ!
2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
・・・・・
あんなに深読みしまくったのに?
映画版も小説版も語り尽くしたはずよ…
『LIFE OF PI』(ライフ・オブ・パイ)には、まだ解き明かされていない「何か」が残されておるのじゃ…
我々の想像を絶する「何か」が…
岡江は今、それを見ている…
岡江君…
・・・・・
教官には、いったいどんな世界が見えているんだろう…
禁断のゾーン、深読みの最深部LIMBO…
私もそこへ行ってみたい…
そんなところ…
行かない方がいい…
え?
あそこはね、救われない魂たちの行き着くところ…
そんな世界を見たところで、不幸になるだけ…
ふ、文代さんは行ったことあるんですか?
さあ、どうだったかしら…
昔のことだから、忘れちゃった…
・・・・・
だけど私も教官みたいに…
世界の真理に迫ってみたい… 深く深く…
モノゴトってね、深く考えればいいってものじゃないの…
それで人が幸せにならなきゃ…
何の意味もない…
え?
鉄郎もそうだったでしょ?
機械人間になりたいと願ったけど、それは誰ひとり幸せにするものではなかった…
深読み人間も同じこと…
文代さん… あなたはいったい…
あっ!岡江クンが!
・・・・・
戻って来ました…
・・・・・
どうじゃった? 何を見てきた?
ライフ・オブ… パイの… パイは…
ト… ラ…
は?
そして… パイは…
チチ…
ちち?
いったいどういう意味なのですか?
僕は大変なことを見落としていた…
『ライフ・オブ・パイ』で、最も重要なことを…
『LIFE OF PI 』
最も重要なこと? 何それ?
名前だ。
名前?
PI(パイ)という名前の意味だよ…
なぜ主人公が「円周率 π」と同じ名前なのか…
なぜ自分とトラが同一視されるような物語を語ったのか…
そしてなぜタイトルが『LIFE OF PI』つまり「パイの物語」なのか…
「PI」は「パレスチナ・イスラエル」の頭文字なんでしょ?
ストーリーが聖書の再現になっているから…
それもあるけど、所詮は「副産物」に過ぎない…
たまたまそうなっていただけのこと…
円周率は「割り切れない」からでは?
何だかモヤモヤして割り切れない物語だという意味なのではないでしょうか?
そんなことはない。
「パイの物語」は綺麗に割り切れている。
原作者のヤン・マーテルも、映画監督のアン・リーも、計算し尽くされた物語を展開させ、セリフも情景描写も細部の細部までこだわり、オチもストンと落としていた…
あの終わり方も納得できたでしょ?
Yann Martel & Ang Lee
確かにそうだけど…
それでは、なぜ主人公の名前が「円周率 π」だったのでしょうか?
劇中で特に「3.14」という数字が深い意味を持っていたようにも思えませんでしたし…
小学校での自己紹介シーン以降、「円周率 3.14」は、まったく話に絡んできませんでした。
そうよね。
別に「π」じゃなくて「Ψ」でもよかったと思う。
「ライフ・オブ・パイ」じゃなくて「ライフ・オブ・プシー」でも…
うふふ。それいいかも。トラはネコ科だし(笑)
何のハナシしてるんですか…
わしならオメ…
だ、だめです!それ以上言っちゃ!
はて?
「ライフ・オブ・オメガ」もしくは「ライフ・オブ・アルファ」あたりがピッタリだと思うんじゃが…
幼い頃にキリストに憧れ、その生涯をそっくりそのまま辿った少年の話じゃぞ。
この物語の主人公の名前は、アルファでもオメガでもプシーでもシータでもダメなんです…
その名前は「パイ」でなければならない…
「円周率 3.14」でなければ、そもそも物語自体が成立しないから…
物語自体が成立しないとは?
ちょっと「パイ」にこだわり過ぎじゃない?
いったい岡江クンはLIMBOで何を見たっていうの?
あそこで僕が見たものは…
丸くて…
やわらかくて…
あったかくて…
ほのかに甘い匂いがして…
何だかとっても懐かしくて…
それを口に含んだら、とろけるような幸福感に包まれるもの…
は? それって…
おっぱい、ですよね…
違う。そうじゃない…
丸くて、やわらかくて、あったかくて、ほのかに甘い匂いがして、何だかとっても懐かしくて、それを口に含んだらトロけるような幸福感に包まれるものと言ったら…
どう考えても、おっぱいでしょう。
ミルクボーイもそう言うじゃろな。
ちなみにそれは何色でしたか?
クリーム色というか、小麦色というか…
やっぱりおっぱいじゃん。
岡江クン、おっぱいの夢を見てたの?
男の人って、若い頃だけじゃなくて、こんなおじさんになっても、そんな夢を見るわけ?
年は関係ないわ!
男にとって、おっぱいは心のふるさと…
魂がそれを求め続けるのじゃ…
たとえ灰になろうとも!
そうじゃなくて…
いや、でも確かにそうなんだけど…
どっちなの?
おっぱいなの? おっぱいじゃないの?
それは…
白ハト印だった…
はと胸?
「はと胸」じゃなくて白ハト印。
それって大阪のタコ焼き屋さんですよね?
「くくる」とか展開している会社が、確か「白ハト印」をトレードマークにしていたような…
その通り。
だけど、あんなボインみたいな球形じゃないんだよね…
それにソースやマヨをぶっかけたりしない…
もっと繊細で、ぷるんとしてて…
なだらかな「お椀型」で…
ああ、そっちか!
明石の名物 玉子焼き、通称「明石焼き」のことですね!
そう。
玉子焼き、またの名を「明石焼き」…
ちょっと待って…
岡江クンは明石焼きの夢を見てたわけ?
うん。とても美味しかった…
『ライフ・オブ・パイ』最大の秘密を見たんじゃなかったの?
主人公の名前「パイ」に秘められた真実を…
そう。僕は見たんだ…
あの夢の中で…
どういうこと?
なぜか僕は「いも たこ なんきん」と看板に書かれた店の中にいた…
そして、店主らしき年配女性が現われて、僕に白ハト印の明石焼きを出してくれたんだ…
わけもわからないまま僕はそれを口にして、飲み込んだ…
その瞬間、すべての謎が解けたんだ…
主人公の名前がパイ、「円周率 π」であることの本当の理由が…
明石焼きで『ライフ・オブ・パイ』の謎が解けたと?
何ですか、それ?
このトラのおかげだ…
このトラが僕に大きな「きづき」を与えてくれた…
このトラがいなければ、僕は永遠に『ライフ・オブ・パイ』の真相に辿り着けなかっただろう…
うふふ。
瓢箪からコマ、噓から出たマコトね。
トラと明石焼きが関係あるの?
なんでトラと明石焼きが「パイ」という名前の謎と関係するの?
あれには僕も驚いた…
正直、僕の深読みを遥かに超えていたね…
き、気になります!
早く教えてください、教官!
いいだろう。
それでは話そうか。『ライフ・オブ・パイ』の真実を…
つづく
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