「ラスト・シーン」VISIONS OF JOHANNA(ジョアンナのヴィジョン)⑤ ~『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
ふふふ。
いよいよ残るは5番だけね。
どんなオチが待っているのかしら?
よろしく、深読み名探偵さん…
はい。
では5番を見ていくとしましょう。
これまでの各番は1つのシーンについて歌われていたけど、ラストを締めくくる5番は異なり、かなり特別な内容になっている。
まず、出だしは、こんなふうに始まった…
The peddler now speaks to the countess
who’s pretending to care for him
いきなり新しいキャラクターが登場ね。
the peddler と the countess って何?
the peddler とは《密売人》という意味。
そして the countess とは《伯爵夫人・女伯爵》という意味。
つまり前者が《悪人》で、後者が《高貴な人》ということになる。
だから冒頭のフレーズは、こういうこと…
悪人は、彼を助けようとする高貴な人に、疑いの目で話しかけた
悪人が高貴な人に疑いの目で話しかける?
4番の最後で《INRI》と共に十字架にかけられたから…
このシーンは《ゴルゴダの丘》ですね。
『磔刑図』
アンドレア・マンテーニャ
その通り。
悪人のセリフも、ダジャレとギャグ満載になっている。
Sayin’, “Name me someone that’s not a parasite and I’ll go out and say a prayer for him”
俺に名前をつけろ。パラサイトじゃないやつ。そしたら俺はみんなに「彼のために祈れ」と言ってやる
わかったわ!
parasite(パラサイト)と paradise(パラダイス)のダジャレね!
『ルカによる福音書』
23:39 十字架にかけられた犯罪人のひとりが、「あなたはキリストではないか。それなら、自分を救い、またわれわれも救ってみよ」と、イエスに悪口を言いつづけた。
23:40 もうひとりは、それをたしなめて言った、「おまえは同じ刑を受けていながら、神を恐れないのか。
23:41 お互は自分のやった事のむくいを受けているのだから、こうなったのは当然だ。しかし、このかたは何も悪いことをしたのではない」。
23:42 そして言った、「イエスよ、あなたが御国の権威をもっておいでになる時には、わたしを思い出してください」。
23:43 イエスは言われた、「よく言っておくが、あなたはきょう、わたしと一緒にパラダイスにいるであろう」。
そして「俺に名前をつけろ」は…
イエスと共に十字架にかけられた二人の罪人に、新約聖書の中では名前がつけられていないことへのジョークです…
あ、なるほど。
ちなみに新約聖書外典の『ニコデモによる福音書』では、二人の罪人に《ゲスタスとディスマス》という名前が与えられている。
イエスを侮辱したほうがゲスタスで、パラダイスにいると言われたほうがディスマスだ。
そして《ゴルゴダの丘》シーンは、こう締めくくられる…
But like Louise always says
“Ya can’t look at much, can ya man?”
As she, herself, prepares for him
だけどルイーズがいつも言っていたように
「あなたにはよく見えていない。見えますか?」
そう言いながら彼女は、彼女自身、彼のために準備する
かなりアヤシイ台詞ですね。
わざわざ《You》を《Ya》と言ってるあたりも…
そこがポイントだ。
《Ya》とは《Yah》、つまり《天の父ヤハウェ》のこと。
だから「あなたにはよく見えていない。見えますか?」とは…
わかった!
「エロイ・エロイ・レマ・シバクタニ」ね!
「しばく」じゃなくて「さばく」。
「エロイ・エロイ・レマ・サバクタニ」もしくは「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」…
「わが神、わが神、どうして私を見捨てられたのですか?」という意味ね。
うまいなあボブ・ディラン…
神に語りかけたイエスは、この後に復活を成し遂げ、自分が神であることを証明する…
だから「As she, herself, prepares for Him」なんだ…
そういうこと。
そして場面が切り替わる。
ボブ・ディランが何を歌っているのか、わかるかな?
And Madonna, she still has not showed
まだ姿を現さないマドンナ?
おそらくマドンナは《Louise》のことだと思います。
ルイーズは4番でモナ・リザに喩えられていましたから。
Mona Lisa とは Madonna Lisa の短縮形でした。
じゃあ…
「まだ姿を現さないマドンナ」は、イエスってこと?
その通り。
続く歌詞を見れば、何の場面か一目瞭然だよね。
We see this empty cage now corrode
ああっ!
empty cage!空っぽの収容施設!
イエスの遺体が消えた石室の墓のことです!
now corrode(今、腐ってる)は?
死後三日目なんだから、まだ腐ってないでしょ?
now corrode は now co-Lord のダジャレ。
「今や、主と共にある」という意味だね。
墓が空っぽということは、イエスが復活したということ。
だからこう続く…
Where her cape of the stage once had flowed
その場所には、かつて彼女が身にまとっていた布が無造作に置かれていた
こ、これは…
安息日のあと、マグダラのマリアはイエスの墓の様子を見に行った…
すると、イエスの墓を塞いでいた石が取り除かれていたので、マリアはすぐさまペトロとヨハネに報告した…
慌てて駆けつけたペトロとヨハネが墓の中を覗き込むと、石棺は空っぽで、イエスの遺体を包んでいた亜麻布だけが無造作に置かれていた…
『亜麻布を見るペトロとヨハネ』
ジョヴァンニ・フランチェスコ・ロマネッリ
ペトロとヨハネは、イエスの遺体が消えたことは信じたけど、《復活》したとは思わなかったのよね…
最後の晩餐でイエスが語った話の意味を、弟子たちは悟っていなかったから…
だからイエス逮捕にも驚いたし、墓が空っぽになったことにも驚いた…
その通り。
そして歌詞は、こう続く…
The fiddler, he now steps to the road
He writes ev’rything’s been returned which was owed
フィドラー登場。彼は今、道へ歩み出す
彼は記す。すべては、あるべき場所へ戻された
the road(道) は the Lord(主)のダジャレですよね。
いつも教官が口を酸っぱくして言ってる、英詩のダジャレの定番中の定番。
そして「すべてが、あるべき場所に戻る」は、イエスのこのセリフ…
『ヨハネによる福音書』
20:16 イエスは彼女に「マリヤよ」と言われた。マリヤはふり返って、イエスにむかってヘブル語で「ラボニ」と言った。それは、先生という意味である。
20:17 イエスは彼女に言われた、「わたしにさわってはいけない。わたしは、まだ父のみもとに上っていないのだから。ただ、わたしの兄弟たちの所に行って、『わたしは、わたしの父またあなたがたの父であって、わたしの神またあなたがたの神であられるかたのみもとへ上って行く』と、彼らに伝えなさい」。
だけど、なぜフィドラー?
なぜバイオリン弾きなの?
ミュージカル『Fiddler on the Roof(屋根の上のバイオリン弾き)』だよ。
あの物語における《屋根の上のフィドラー》とは《父なる神》のことだから。
『Fiddler on the Roof』は、19世紀末のロシア帝国下で迫害され、土地を追われるユダヤ人を描いた物語…
ヨーロッパの中ではどこに行っても差別されるので、彼らには危険を承知でパレスチナへ向かうか、大西洋を渡ってアメリカへ向かうかの選択肢しかありませんでした…
その頃にアメリカへ渡って来たユダヤ人移民が、ボブ・ディランの祖父母世代にあたる人たちです…
そしてアメリカのユダヤ人社会は二世三世の世代に移ってゆくと、第一世代が話していたイディッシュ語が忘れられ、ライフスタイルもアメリカナイズされていきました…
そんなふうにアイデンティティを喪失しかけていた在米ユダヤ人二世三世のために書かれた物語が、このミュージカル『Fiddler on the Roof』なのです…
だから当初は、英語ではなく、全編イディッシュ語で上演されていました…
詳しいのね、ジョー。
ピッツバーグ生まれの私の母はユダヤ系でしたから…
母方の祖父母は、まさに旧ロシア帝国のミンスクから迫害を逃れてアメリカへやって来たユダヤ人移民でした…
なるほど。
だから『ライフ・オブ・パイ』の秘密にも詳しかったんですね。
はい…
うふふ。いよいよ5番のラストシーン…
『VISIONS OF JOHANNA』のフィナーレに行きましょ。
この展開でラストシーンといえば…
JOHANNAのビジョンじゃないですけど、何だか《ある光景》が浮かんできました…
そうだろうね。
ボブ・ディランも、こう歌ってる。
On the back of the fish truck that loads
「魚が満載のトラックの後ろで」
やっぱり!
『ヨハネによる福音書』のラストシーン、つまり福音書全4巻のラストシーン…
ガリラヤ湖のほとり!
『ヨハネによる福音書』
21:1 そののち、イエスはテベリヤの海べ(ガリラヤ湖)で、ご自身をまた弟子たちにあらわされた。そのあらわされた次第は、こうである。
(中略)
21:10 イエスは彼らに言われた、「今とった魚を少し持ってきなさい」
21:11 シモン・ペテロが行って、網を陸へ引き上げると、百五十三びきの大きな魚でいっぱいになっていた。そんなに多かったが、網はさけないでいた。
『魚が大漁の奇跡』
ジェームズ・ティソ
これ…
なんか既視感ある…
『ヨハネによる福音書』のラストシーンは…
《パイの漂流物語》のラストシーン(笑)
げえっ!オータイガー!
じゃなくて、オーマイガー!
そして『ジョアンナのビジョン』のラストシーンはこう続く…
While my conscience explodes
The harmonicas play the skeleton keys and the rain
私の良心が爆発している間
ハーモニカがスケルトン・キーと雨を奏でる
ちょっと、意味不明だわ…
鍵はまたペトロのことっぽいけど。
スケルトン・キーって、マスター・キーのことですよね?
その通り。
「the skeleton keys」とは、《Master》つまり主と、《2つの鍵》をもつペトロのことだ。
『シモンよ、あなたはこの人たちが愛する以上に、わたしを愛するか?』
これ、同じ質問と答えを3回も繰り返すのよね…
聖書は同じ話が何度も繰り返される。
特に『ヨハネの福音書』はそう。
イエスが復活して弟子たちの前に現れるのは、これが三度目だ。
21:14 イエスが死人の中からよみがえったのち、弟子たちにあらわれたのは、これで既に三度目である。
同じ話は、何度してもいい…
そうやって人類は、ここまでやってきた…
だけどなぜハーモニカ?
もうひとつ奏でられた the rain とは?
聖書において《神の愛》は《雨・水》に喩えられる。
天から降ってくる、全ての命に必要な《恵み》だからね。
救世主メシアの降臨も《雨》に喩えられる。
ゴスペル音楽をはじめ、多くの歌で《雨》が登場するのも、これが理由。
この曲、ゴスペルだったんですか?
そうだよ。
ちなみにこれは余談になるんだけど…
『はじまりはいつも雨』では「君の名前」が明かされない。
《窓》の形で伝えてるんだけど、名前自体は秘められたままなんだよね。
だけど実は、別の歌で明かされているんだ…
SAY... YES…
小説『LIFE OF PI(パイの物語)』と同じオチ…
さらに余談になるけど、歌詞が暴力的な『YAH YAH YAH』は…
うふふ。もうそれくらいにしましょ。
今は『VISIONS OF JOHANNA』のラストシーン(笑)
あ、すみません… 話を戻します。
《ハーモニカ》とはルイーズ、つまりイエスのことだ。
どうして?
《モニカ》という名前は《モナ》という愛称で呼ばれる。
4番ではルイーズのことを《モナ・リザ》と呼んでいたよね?
だから《ハーモニカ》はルイーズであり、イエスのこと。
なるほど…
そして5番のラストフレーズ…
7分30秒という大作『VISIONS OF JOHANNA』を締めくくるフレーズだ。
And these visions of Johanna are now all that remain
これらジョアンナのビジョンが、今の僕に残されたもの
お疲れさまでした…
ほんと濃過ぎて疲れたわマジで。
じゃあ『ライフ・オブ・パイ』に戻ろうか。
まだ何か話すことがあるの?
残ってるんだよね…
まだ解き明かしていなかった大事なコトが…
@スナックKEMPY!
スースー... スースー...
そろそろね…
良ちゃんが次の夢を見る時間…
グスン... グスン...
ヒロクン...
ほら、始まった(笑)
アタシ... マツワ...
あみん?
ブルブル... ブルブル....
あら、震えてる…
良ちゃん大丈夫かしら…
ブルブル... ブルブル....
ナンネンデモ マツワ...
ヒロクン...
....
.
なぜ? なぜなのヒロくん?
もう半年…
何も書けていないのです…
それがどうしたっていうの?
さすがにこれ以上は、ご迷惑をかけるのは申し訳...
そんなこと全然気にならないから!
何年でも待つよ!
・・・・・
なんで笑うの!?
ヒロくんのためなら、アタシ、明日から休みなしで働く!
いっぱいいっぱい稼いで、ヒロくんが夢だった本を出せるまで、ずっとずっと支えてあげる!
そんなことしたら、不幸になるわ...
え?
忘れた方がいいのです、私のことなど…
ヒロくん…
ありがとう。幸せだったわ…
一緒にレッドカーペットを歩くって夢は、叶えられませんでしたが…
ごめんなさい…
・・・・・
今夜中に荷物まとめて出て行きます…
ブルブル... ブルブル...
ん?
ヒ、ヒ、ヒロくん…
どうしたんですか?急に震えだして?
しかもすごい汗だ…
たぶん…
インフル…
なぜそれを黙っていたんですか!
だって... ヒロくんに...
余計な心配を… かけたくなかったから…
バカ!できれば、もっと早く言って欲しかった!
そうだよね…
最後の最後にアタシなんかからインフル移されたら…
ふざけんなって思うよね…
・・・・・
いいんだよ、荷物まとめても…
気にしないで。アタシ、大丈夫だから…
ゴホッ… ゴホッ...
!
(良ちゃんを抱きかかえる)
え? なんで急にお姫様抱っこ?
え?え?
(ベッドに降ろす)
今夜はお店、休んでください。
いや、今週いっぱいは安静にしましょう。
え?でも…
私、おかゆ作りますね。
それと、栄養ドリンクも買ってこなきゃ…
嘘でしょ?
アタシ、死んじゃうかも...
安心してください…
私がそばにいますから。
あっ!
ヒロくん、今…
は? どうかしましたか?
ヒロくんが今…
トオリに見えた…
トオリ? 松坂桃李のことですか?
はっはっは!
きっと熱のせいで、夢や幻でも見たのでしょう(笑)
でも… 確かに…
余計なことは考えず、少し眠ったほうがいいですよ。
私、買い出しに行ってきますから。
うん。ヒロくん…
ブルブル... ブルブル...
アリガトウ…
ヒロクン...
よっぽど嬉しい夢なんだわ。
震えちゃうくらい幸せな。
良かったね、良ちゃん…
つづく
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