見出し画像

ゆっくり深読み 中島みゆきの『ヘッドライト・テールライト』その6

前回はこちら




ふふふ。信じるも信じないも君次第。

だけど私の話を最後まで聞いたら…

信じないわけには、いかなくなるだろうけど…


ど、どういう意味ですかユルユルさん?


そのうちわかる。

では、サントリーの缶コーヒーBOSSのCM『ヘッドライト・テールライト篇(2015)』の続きを解説しよう。

残りの2人のトラックドライバー、インパルス堤下と今田耕司の話を…


あの2人には、いったいどんな秘密が…



まずはインパルス堤下の同窓会から解説しよう。

彼の登場パートは、どんな流れになっていたかな?



えーと、まずは「Song of BOSS ヘッドライト・テールライト」のタイトルが表示される大きな橋の上で、トミー・リー・ジョーンズの乗るトラックとすれ違うシーンからですね…

東名川崎インターチェンジで東名高速道路に入るので、あれは多摩川に架かる橋でしょう…



もう出だしから完璧だよね。完璧すぎて惚れ惚れする。


え? たったこれだけで完璧とは?


インパルス堤下の初登場シーンは「川」でなければならない。

そして彼の隣には、故郷から遠く離れた異国の地でレポートをつづる「エイリアン」がいなければならない。


最初の場所は「川」でなければならない?

隣には「エイリアン」がいなければならない?

いったいどういうことなのでしょうか?


ふふふ。

インパルス堤下が「誰」を演じているのか考えれば、すぐにわかることなんだけどね。



これは、映画『BARTON FINK(バートン・フィンク)』でも重要モチーフとして使われた『Jacob Wrestling with the Angel(天使と格闘をするヤコブ)』…

つまり、インパルス堤下はヤコブなのですか?



間違えた。こっちだ。



白鵬と相撲を取る琴奨菊?


決まり手は、がぶり寄りだ。


見ればわかります。琴奨菊といえば「がぶり寄り」ですからね。


ここまで言ってもわからないなら仕方がない。

先に進もう。

多摩川を渡りながらインパルス堤下は同窓会の出来事を思い出す。

第一高校 三年二組の同窓会だ。



完全に一人だけ浮いてましたね。座の中央で。


そう。座の中央、小さな額縁のほぼ真下。



第一高校という名前ですから、それなりの進学校でしょう…

そんな学校を出てトラックドライバーをしていれば、こうなることは予想できたはず…

きっと淡い期待を抱いてノコノコやって来たに違いありません…

「実は昔○○君のこと好きだったの」「え?嘘?」「○○君は私のことどう思ってた?」「いや… まあ… 俺も… いいなあ、とは…」「ほんと?可愛いとか思ってくれてた?」「う、うん…」「ねえ、この後どこか飲みに行こうよ」「え?でも二次会は?」「だってカラオケでしょ?私、静かなところで○○君とゆっくり話がしたい。いいでしょ?」「で、でも… ほら… 君には旦那さんが…」「いいの。今夜はオールだって言ってきてるし。それにもう私、女として見られてないから」「え?」「一緒にいてもドキドキしないんだってさ。いて当たり前の存在、家族だからって。女としての魅力ゼロみたい。○○君もそう思う?」「そ、そんなことないよ… 今でも十分… 綺麗だし…」「嬉しい。嘘でも嬉しい」「う、嘘じゃないって… ほんとに綺麗だと思うよ… すごく… 綺麗だ…」「○○君って優しいよね。昔からそうだった。あの時、勇気だしてコクればよかったな」「・・・・」「だから、ね?いこ?」「ゴクリ…」


よくそこまで妄想を膨らませられるね。たいしたもんだ。


ユルユルさんはモテモテだったからわからないでしょうけど、地味メンにとって初めての同窓会とは、だいたい事前にこんな期待を抱いて参加するものなんです。


妄想ではなく、提示された現実に目を向けよう。

あの同窓会は「第一 高校 三 年 二 組」の同窓会なのだ。

だから彼は「あの場所」にいた。

白い光を反射している額縁の下に。



は?


もう忘れたのかい?

目に映る全てのことはメッセージ、だよ。



目にうつる… すべてのことは… メッセージ…


もちろん、耳に聴こえる全てのこともメッセージだ。

見るからに軽薄そうなチャラ男はインパルス堤下にこう言った。


「いいよなあトラックドライバー。上下関係とかさ、無さそうだし」

「運んでただ帰って来るだけでしょ?」



チャラ男の発言に対し、インパルス堤下は怒りをこらえながら、こう答えました。


「そんな気楽なもんじゃねえよ」



怒って当然だよね。

「トラックドライバー」は絶対的な上下関係で成り立っている。

そして「運んで帰って来ること」は決して簡単なことではない。

それは「奇跡の仕事」なのだ。


配達の仕事が決して簡単じゃないのはわかりますが、さすがに奇跡は言いすぎでしょう。


いいや、彼の配達は「奇跡の仕事」だ。

なぜならここは「第一 高校 三 年 二 組」なのだから。



それは『魔女の宅急便』のグーチョキパン屋です。



魔女宅のグーチョキパン屋といえば…

ちょっと『INCEPTION(インセプション)』の話をしてもいい?



ダメです! 寄り道せずに話を進めてください!

宮崎駿とクリストファー・ノーランは危険すぎる!


OK牧場。

インパルス堤下の「そんな気楽なもんじゃねえよ」で同窓会の回想が終わると、彼の乗るトラックはガソリンスタンドへ入って行く。

「GOLDEN LINE」と書かれた赤いトラックの隣の給油レーンへ。



インパルス堤下のトラックが給油レーンへ入ると、まるでバトンを渡されたかのように椿鬼奴のトラックは発車していきました。

そしてここから椿鬼奴のパート「シングルマザー」が始まります。



実に見事な「配達」だったね。

まさに「奇跡の仕事」としか言いようがない。


は? これから荷物を配達に行くのでは?

彼はまだ何も届けていません。


いや。奴はとんでもないものを届けていきました。


とんでもないもの?


あなたの心です。


それは『ルパン三世カリオストロの城』ラストシーンの台詞じゃないですか!



君の名「クリス」とは「クリストファー」つまり「キリストを荷う者」という意味だよね。

つまり君が運んでいるものはキリスト、君の心はキリストなのだ。


確かにそうですが、それとインパルス堤下の「配達」に何の関係が?


彼は、あのガソリンスタンドで「配達」を済ませた。

つまり椿鬼奴は、あそこで「受胎」したんだよ。


ガ、ガソリンスタンドで受胎?

では、インパルス堤下が届けた「とんでもないもの」とは…


神のスピリット、つまり精神だ。

通常、ハトや光の球体など「白いもの」として描かれる。



トラックにガソリンを給油するように…

「胎内」に「神のエネルギー」を「給油」したというわけですか…


その通り。

だから鬼奴のトラックは、産婦人科医院の前を通過したんだな。



つまり、インパルス堤下が演じているのは…

大天使ガブリエル…



ぽっちゃり顔でよく似ている。

名前だけでなく外見もバッチリだったというわけだ。


名前?


インパルス(impulse)とは「衝動」という意味。

そして堤下とは「土手の下」という意味。

つまりインパルス堤下とは「土手の下の衝動」という意味になっている。


土手の下の衝動…

まだ夫を知らない未通の下腹部に子が宿ったという前代未聞の告知…


『Annunciation(受胎告知)』
Fra Angelico(フラ・アンジェリコ)


そういうこと。

だからガソリンスタンドの名前は「GENEX」だった。



GENEX?

ENEOSのパクリですか?


エネオスは、オスのエネルギーの略。


嘘を言わないで下さい!

英語の「ENERGY」とギリシャ語で「新しい」を意味する「NEOS」をくっつけたものです!

もしくは「エネルギーをステキに」で「エネをス」!


合ってたじゃん。「オスのエネルギー」で。


音は一緒ですが、ぜんぜん違います!


じゃあ「GENEX」は何だと思う?


GENEXですか?

うーん… やっぱり「GENE=X」ですかね…

何か特別な力を秘めた遺伝子X…



「GENEX」が意味するものは「性行為なしの妊娠」だ。

「スペシャルな精」という意味なんだよ。


えっ!?


GENEXとは、優秀な種牛を保有する、世界トップの精液販売会社。

日本でも多くの畜産業者がGENEXから精液を購入し、メスに人工授精している。



すごい… 様々な種牛の血統が詳細に…

まるで競馬のサラブレッドみたいだ…


GENEX 種雄牛2022年12月号


血統の系図といえば『マタイによる福音書』第一章キリストの系図もあるよね。



なんてこった…

まさかあのガソリンスタンドで、天の御使の「おとどけもの」が、夫を知らない聖母の胎に「配達」されていたとは…



これであの同窓会の意味もわかっただろう。

インパルス堤下の頭上にあった「光り輝く白いもの」とは?


彼が絶対的存在「神」から届けるように命じられた…

聖なるスピリット…



神と天使・御使いは、文字通りの主従、絶対的な上下関係がある。

もし神に逆らったら、ルシファーのように堕天使になって地獄行きだ。

そしてこの「おとどけもの(Annunciation)」は前代未聞の「人間の処女が神の子を胎に宿す」というものだったので、ただ運んで帰ってくればいいものではなかった。

預言者イザヤが残した「メシアの預言」を使って、納得させる必要があったわけだね。


『ルカによる福音書』第一章
二八 天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」
二九 マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。
三十 すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。
三一 あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。


あっ! もしや「第一 高校 三 年 二 組」とは…


御使いの「おとどけもの」である「聖なるスピリット」が、どれだけ尊いものなのかの説明だね。


三二 その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。


「神である主」を「神である荷主」に重ねていたのか…

トラックドライバーにとって、荷主は神様…


そういうこと。

だからインパルス堤下が最初に姿を見せるところは「川」で…

隣にレポートをする「エイリアン」がいたんだね…



なるほど… わかったぞ…

『ダニエル書』だ…


その通り。

大天使ガブリエルの名は、新約聖書・旧約聖書の中に、それぞれ一度しか出て来ない。

新約は『ルカによる福音書』の「受胎告知」の場面。

そして旧約は『ダニエル書』の「バビロンの川」の場面。


バビロン捕囚によって故郷エルサレムから遠く離れた異国の地へやって来たダニエルは、ネブカドネザル2世の命を受けて様々な仕事に携わりながら、奇妙な出来事をレポートにつづった…

まさに宇宙から来た地球調査員トミー・リー・ジョーンズのように…



日本人は「エイリアン=宇宙人」だと思いがちだけど、そもそも「alien」とは「在留外国人・異邦人・よそもの」という意味だよね。

だからダニエルもエイリアンだ。



はい。STING(スティング)の有名な歌もあります。



そのダニエルが大天使ガブリエルと遭遇するのは『ダニエル書』の第8章…

新バビロニア帝国エラム州の首都スサ(シュシャン)を流れるウライ川にて…


『ダニエル書』第8章
15 われダニエルはこの幻を見て、その意味を知ろうと求めていた時、見よ、人のように見える者が、わたしの前に立った。
16 わたしはウライ川の両岸の間から人の声が出て、呼ばわるのを聞いた、「ガブリエルよ、この幻をその人に悟らせよ」。


だから「多摩川の両岸の間」だったのか…

鬼奴のパート同様に完璧すぎる…



完璧に再現し過ぎてて、怖いくらいだよね。

鬼奴への未来の予言「気をつけてね」みたいに。


え? インパルス堤下にも未来の予言が?


神である主は、ガブリエルに「この幻」を人間に悟らせよと命じた。


『ダニエル書』第8章
15 われダニエルはこの幻を見て、その意味を知ろうと求めていた時、見よ、人のように見える者が、わたしの前に立った。
16 わたしはウライ川の両岸の間から人の声が出て、呼ばわるのを聞いた、「ガブリエルよ、この幻をその人に悟らせよ」。


主は絶対だ。逆らうことは出来ない。

だからガブリエルであるインパルス堤下は「この幻」を人間たちに悟らせようとした。

何度も。


ま、まさか…

このCMの後に何度も繰り返された衝突事故は…



主がガブリエルへ「人に悟らせよ」と命じた「この幻」そのものだよね。


『ダニエル書』第8章
2 その幻を見たのは、エラム州の首都スサにいた時であって、ウライ川のほとりにおいてであった。
3 わたしが目をあげて見ると、川の岸に一匹の雄羊が立っていた。これに二つの角があって、その角は共に長かったが、一つの角は他の角よりも長かった。その長いのは後に伸びたのである。
4 わたしが見ていると、その雄羊は、西、北、南にむかって突撃したが、これに当ることのできる獣は一匹もなく、またその手から救い出すことのできるものもなかった。これはその心のままにふるまい、みずから高ぶっていた。


ちょ待てよ… 嘘だろ…


どうした? 変な汗をかいてるよ。


制御不能になった雄羊が激突したのは「西・北・南」の三回…

インパルス堤下が起こした衝突事故も三回…


ルカによる福音書 1:37…

神にできないことは何一つない。


それじゃあ… あの幻の続きも…


おそらく現実のものとなる。

「雄やぎ」が誰なのかは、わからないけど。



これ… 本人に伝えた方がいいのでは…

「雄やぎ」に気をつけろって…


伝えたところで、どうすることも出来ない。

主によって定められた未来を、変えることは出来ないんだからね。


怖い… 怖すぎる…


しょせん我々は主の手のひらの上で転がされているだけの存在に過ぎない。

主が何を考え、何をしようとしているのかなんて、知るすべも、理解する能力もないのだよ。

『ヨブ記』にも書いてあるでしょ。

あなたはプレアデスの鎖を結ぶことができるか?
オリオンの綱を解くことができるか?
十二宮をその時にしたがって引き出すことができるか?

って。


そうですけど…


だから、いちいち余計な不安に陥る必要はないってこと

テイク・イット・イージー、気楽に行こう。


はい…


さあ、私のレインボーマウンテンブレンドをどうぞ。

飲んで一息入れたら、いよいよ最後のトラックドライバーの話だよ。


あ、ありがとうございます…

ではお言葉に甘えて… プシュ

ゴク… ゴク… ゴク…


それでは始めよう。

最後のトラックドライバー、今田耕司と母の物語だ。



つづく




この記事が参加している募集

#私のコーヒー時間

27,234件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?