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深読み 米津玄師の『さよーならまたいつか!(『虎に翼』主題歌)』第11話


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2024年2月某日
(主題歌の依頼から三日目)
都内某所の自宅



まだまだ続きがあるんだよ。

秀次郎さんが『石橋』の話を終えた頃、お店に女性が入って来たんだ。


ワン?


その女性の名は、さくらさん。

新宿二丁目で「キリコ」という小さな居酒屋を営んでいる人だよ。

さくらさんは秀次郎さんを探しに来たんだ。


ワン?


そう。「キリコ」は駅のすぐ近くにある居酒屋だ。

なぜわかったの?


♬bowwow bowwow~ bowwow bowwow~ bowwow bowwow~♬


それは… CREAMの『WHITE ROOM』?



ワン!


そういえば、秀次郎さんもその曲を歌っていた…

映画『駅 STATION』に出て来る居酒屋も、駅のそばにあったから…

さくらさんって、あの映画で倍賞千恵子が演じていた居酒屋の女将さんにそっくりなんだよ。



ワン?


さくらさんはなぜ秀次郎さんを探していたかって?

さくらさんは秀次郎さんと約束していたんだよ。

今度出所したら深読み渡世人稼業をやめて居酒屋で一緒に働くって約束をね。

だけど秀次郎さんは、その約束を破って、また修羅場へ行こうとしていたんだ。

大谷石をめぐるトラブルを解決するために栃木県へ…


ワン?


大谷翔平じゃなくて大谷石。

ほら、俺が『馬と鹿』のミュージックビデオを撮影した場所を覚えてるだろ?

あの幻想的な地下空間は、大谷石を採石した跡地なんだよ。



ワン?



そうそう。俺が主題歌『地球儀』を歌ったジブリ映画『君たちはどう生きるか』の舞台だね。

あそこは宮崎駿監督が子供の頃に疎開した場所でもある。

大谷石の採石場は宇都宮と鹿沼の間にあるんだ。



ワン!


そう。君の言う通りだハチワレ。

だから宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』は吉野源三郎の児童文学『君たちはどう生きるか』とは全く異なる物語だった。

宮崎駿監督は以前、大谷石の採石場跡で撮影された Do As Infinity のミュージックビデオ『生まれゆくものたちへ(from ETERNAL FLAME)』をたまたま見て、とても感銘を受けたらしい。



ワン!ワン!


そうだった。

X Japan の『FOREVER LOVE』もだったね。

岩の産屋のベッドに横たわる夏子さんのモデルは、あのミュージックビデオに登場するヒロイン、悲しみに暮れた女性だ。



♬ワワワワワワン ワワワワワワワンワン~♬


ふふふ。その通り。

映画『君たちはどう生きるか』とは、宮崎駿が最愛の女性(ひと)宮崎美子に愛を叫ぶ物語でもある。



ワン!


2019年、宮崎駿監督から引退作『君たちはどう生きるか』の主題歌を依頼された俺は、トップシークレットだった映画の絵コンテを見せてもらった。

当時はまだ世間に映画の内容が全く知らされていなかったので、主題歌を依頼されたことも絵コンテを見たことも絶対に口外してはいけなかった。

だけど俺はどうしても『君たちはどう生きるか』の内容を誰かに伝えたかった。

そこで俺は『君たちはどう生きるか』の内容を密かに仄めかす歌を作ることにした。

それが、セルフカバー版『パプリカ』であり、『馬と鹿』であり、『死神』であり、『Pale Blue』だった…



ワン!


そうそう。特に『Pale Blue』は『君たちはどう生きるか』の核心部分にかなり突っ込んだ歌詞だったね。

あの歌はTBSドラマ『リコカツ』の主題歌として依頼されたもの。

その『リコカツ』は主人公の母親である宮崎美子が行方不明になり、主人公が腐れ縁の相棒と一緒に探しに行くことになり、様々な体験を経て友情を深めるというストーリーだった。

これを打ち合わせで聞いた瞬間、もう『君たちはどう生きるか』を絡めるしかないって思ったんだよね(笑)



ワン!


だから俺は『Pale Blue』に水色一色で何も描かれていないシートを特典として入れた。

水でぬらすと「ありがとう」と文字が浮き出る仕掛けを施してね。

映画『君たちはどう生きるか』の最後に映る画面は水色一色で、絵も文字も何も描かれていない。

だけどその水色一色の画面に宮崎駿監督の感謝メッセージが隠されていることを誰かに伝えたかったんだ。



ワォ~ン!


『君たちはどう生きるか』の話はもういい?

さくらさんと秀次郎さんはどうなったかって?

実を言うと、二人がどうなったかは俺にもわからない。


ワン?



いや、そういう意味じゃなくて…

秀次郎さんが宇都宮へ行くのか東京に留まるのか結論が出る前に、俺は君のことが心配で帰ってきちゃったからね。

お土産のアイスも買わなきゃいけなかったし。


ワン?


結論も出ずに何時間も何を話していたのかって?

えーとね、まず最初は名前の話だったな。

さくらさんは「花」なのに、なぜお兄さんは「動物」なのか…


ワン?


さくらさんにはお兄さんがいてね、名前を「寅さん」というんだ。

変だと思わないかい? 桜と虎の組み合わせって。


クゥ~ン…


そしたらね、理由はとてもシンプルだった。

二人とも春の生まれだからなんだってさ。

桜は春に咲く花で、寅は春が巡り来る時期「新春」を指す。



ワン!


しかも寅さんの誕生日ってさ、俺と同じ「三月十日」なんだよ。



♬ワワワワワ~ン ワワワワワ~ワ~ ワワワワワ~ン ワワワワワ~♬ 


それは DEEP PURPLE の『BURN』だね。

その通り。「三月十日」は「山頭火(さんとうか)」だ。



♬ワワワワ、ワン、ワン♬


ふふふ。そう来たか(笑)

TBSドラマ『MIU404』の主題歌『感電』も DEEP PURPLE が元ネタだったね。

あっちは『MACHINE HEAD(マシン・ヘッド)』の『HIGHWAY STAR(ハイウェイスター)』だ。



ワン!



変幻自在の T1000 は、まさに「Ooh, it's a killing machine, it's got everything」ってこと(笑)


ワン!


その通り。

『MIU404』の「404」はウェブページが削除されている時に表示されるメッセージ「404 not found」のことであり、その数字「404」は『ヨハネの黙示録』の「JUDGEMENT DAY(最後の審判)」にある「書かれた言葉を取り去る者への警告」のジョークだからね。



ワン?


それはそうと、なぜ「寅」が「春の始まり」なのかって?

いい質問だ。俺も同じことを秀次郎さんに尋ねたんだよね。

その理由は漢字の成り立ちにあった。

そもそも「寅」という字は、動物の虎と全く関係が無い。

「寅」は「空に向かって力いっぱい矢を引き、今にも撃とうとしている様子」を表したもの。

つまり「力を蓄えていたものが覆いを破って飛び出そうとしている」という意味なんだな。



ワン?


そう。新しい命の芽生え「萌芽」のこと。

冬の間にエネルギーを蓄えていた芽が殻を破って勢いよく外へ飛び出そうとしているイメージだね。

だから「寅」には「妊娠・胎児」という意味もある。

「覆い」を「子宮」に、そして「矢」を「胎盤と臍帯(へその緒)」に見立てたわけだ。



ワン!


そう。英語の「春」が「バネ」や「泉」と同じ「spring」な理由も、漢字の「寅」と同様に「冬の間に力を蓄えていた新しい命が勢いよく外へ飛び出そうとする季節」だからだね。


ワン!ワン!ワン!



ははは。確かに「春」という字は「三人の日」だな。

言葉って本当に面白い。


ワン?


もしかすると「寅」と「TORAH(トラ)」にも意外な共通点があるんじゃないかって?

いいカンをしてるね、ハチワレ。

ヘブライ語で「法・教え・導き」を意味する「TORAH」の語源は、漢字の「寅」とよく似ている。

「力強く放たれたものが的へ向かって真っすぐ進む」というものなんだ。



ワン・ワン・ワン!


トラ・トラ・トラ?

それはヘブライ語ではなくモールス信号だよ。



クゥ~ン…


言葉って本当に奥が深いよね。

秀次郎さんも、しみじみとそう言っていた。

まるで奥の細道、奥飛騨慕情だって。


ワン?


そう。白百合が咲き、雪山で雷鳥が鳴く『奥飛騨慕情』だ。



ワン?ワワン?


それからどうした?

そうそう。俺は秀次郎さんとさくらさんに提案をしたんだ。

賭けをしてみませんか?って。


ワン?


二人の考えは平行線だ。いくら話しても埒があかない。

それなら宇都宮へ行く行かないを賭けで決めたらどうですかと俺は提案した。

次に店に入って来る客が男か女かに賭けて、勝った方の言う通りにしようって。

最初に入って来るのが男性だったら、秀次郎さんの勝ちになり、さくらさんは宇都宮行きを認める。

女性だったら、さくらさんの勝ちで、秀次郎さんは宇都宮行きを諦める。



ワン?


そう。元ネタは加藤シゲアキの小説『ピンクとグレー』で主人公の二人がやった賭けだ。

秀次郎さんはこの作品をよく知っていたから、最初に女性が入って来て自分は賭けに負けるだろうと笑っていた。



ワン!


ハチワレも最初に入って来るのは女性だと思うのかい?

実は俺もそう思ってた。

さすがにもう決着はついてるだろうけど、さくらさんの喜ぶ顔が見たかったなあ。


ワン!ワワン!


Du pont(デュポン)?


ワン!


よく知ってるな、ハチワレ…

『ピンクとグレー』の最重要キーワードを…


ワン!


こいつは驚いた…

その通りだよ、ハチワレ…

『ピンクとグレー』における「デュポンのライター」とは、小説の元ネタであるフラ・アンジェリコの絵『受胎告知』のこと…

デュポンの端にある「柱」と、夜明け前の受胎告知の端にある「柱」は、そっくりだ…



ワン!



ハチワレ…

そういえば今日の君は、何だか変だよな…

なぜ俺は君とこんなに会話が出来ているんだ?

しかも君は歌を歌ったり、手から炎を出したり、頭から炎を出したり…


クゥ~ン?


俺は酔って幻覚を見ているのか?

いや、そんなはずはない…

今夜はホッピーしか飲んでいないから…


ワン!


アイスのせい?

さっき一緒に食べた COLD STONE のアイスクリームのこと?



♬ワン、ワ~ワン、ワ~ン♬


それは…

JOE COCKER(ジョー・コッカー)のアルバム『MAD DOGS & ENGLISHMEN』の『LET'S GO GET STONED』?



ワン!


いったい何の話をしているんだよハチワレ…

アイスを食べて幻覚を見るなんて初めて聞いた…

まさかあのアイス、なんかヤバいものが入っていたのか?


♬ワワワワワンワワン ワワワワワン♬


お酒はぬるめの燗がいい…

そう…

阿久悠が作詞した八代亜紀の『舟唄』も、フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』が元ネタだった…



♬ワンワワ~ン♬


そう…

「沖の鴎に深酒させて、いとしのあの娘と朝寝するダンチョネ」の「ダンチョネ」は「ダンヌンツィオね」の駄洒落…

イタリア語の「d'Annunzio(ダンヌンツィオ)」とは「Annunciation(受胎告知)」のことだ…



ワン?



「もう書けるだろう?」って…

『虎に翼』の主題歌が?


ワン!


俺の目に映るすべてのこと、耳に入るすべてのことはメッセージ…

すべては『虎に翼』の主題歌に通ず…


ワン!


ハチワレ… 君は本当に神、GODだな…

なんだか本当に書けそうな気がしてきたぞ…


ワン!


タイトルは…

さよーなら…

さよーなら… またいつか…


ワン!


そうだねハチワレ…

最後に「!」をつけて「さよーならまたいつか!」だ…


ワン!



つづく




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