エピローグ第18話:チェーホフとプーシキン(キスへのプレリュード)『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖
まさにそうだと思うよ。
ミミズク婆さんは「伯爵家乗っ取り計画」の現場責任者だからね。
「黒幕」がペテルブルグにいた「伯爵の隠し妻ソージャ」で、「監視・つなぎ役」がその兄である「眉毛の黒い太った男カエタン」だったんだ。
さ、最初から全員グルだったってこと?
僕はそう深読みする。
なぜなら…
劇中における「予審判事セルゲイ・ペトローウィチ」と「眉毛の黒い太った男カエタン」の一連の描写は、あまりにも不自然過ぎるんだ…
・・・・・
予審判事セルゲイ・ペトローウィチは「眉毛の黒い太った男カエタン」を最初に伯爵から紹介された時から、「なぜか」必要以上に彼に食って掛かっていた。
そしてカエタンが「ポーランド人」であることに何度も言及し、ことあるごとに見下す発言を繰り返すんだ。
挙句の果てには伯爵に向かって「あんな奴は今すぐ追い出してくれ」とまで迫るんだよね。
だけど町の郵便局で「偶然」会った時は「なぜか」そうじゃなかった。
二日前に予審判事は伯爵たちの前でカエタンに《豚野郎》と最大級の侮辱発言をしたんだけど、それにもかかわらず、郵便局では「カエタンの方から話したそうだった」というんだね。
そしてカエタンは予審判事に「伯爵が淋しがっているから屋敷に来てください」と言うんだ…
あれだけ自分を侮辱した相手に対して…
どうゆうこっちゃ?
予審判事は伯爵の目を欺くために、わざとカエタンを「毛嫌いするふり」しとったんか?
せやから伯爵がおらん時は「仲が悪い演技」をする必要がないっちゅうことか?
だろうね…そうとしか考えられないんだ…
というか、そもそも郵便局でカエタンと会ったこと自体が、妙な話なんだよ…
妙?
あの日、ミサの途中で教会から出た予審判事と医師イワノーウィチは、町の中心部を散歩していた…
そしてなぜか予審判事は突然「郵便局へ行こう」と言い出すんだ。何の用事もないのに…
するとそこに、不自然なほどの大金をペテルブルグに送金している「眉毛の黒い太った男カエタン」がいた…
そして予審判事は、伯爵の前では「目障りだ!この豚野郎!」と罵っていたくせに、なぜかここでは友好的な態度を見せる…
何もかもが、あやしすぎるね…
カエタンが送金している大金を伯爵の金だと「見抜いた」予審判事は「伯爵から金をむしり取ること」について「朝飯前だ」と読者に説明する。
そして予審判事と医師は郵便局を出た。
すると、町の目抜き通りを「十字行列のパレード」が通っていたんだ。
ここでも不自然なやり取りが交わされる…
「あそこに僕らの仲間がいる!」群衆から一段離れて、わきの方に立っている、この郡の上流階級を指さしながら、ドクトルが言った。
「僕らのじゃなく、君の仲間でしょう」わたしは言った。
「同じことじゃないか……あそこへ行きましょうや……」
中央公論社版(訳:原卓也)より
妙な会話ね…
まるで「今の予審判事は上流階級ではないけど、いずれそこに属する」とでも言いたげな…
まさしくそれを暗示しているんだよ。
教会でオリガが予審判事セルゲイ・ペトローウィチに言った「あたしたちの席は前の方に定められている」と同じようにね。
この小説における主人公の地位「予審判事」とは、伯爵領内の村々で起こる日常的な揉め事を処理する役職だ。
重大事件は郡の上級判事が担当するから、西部劇でいう「田舎町の保安官」みたいな存在だね。
だから上流階級の身分ではないので、彼も教会では一般大衆席にいた…
しかし「まえがき」と「あとがき」に登場する「8年後のセルゲイ・ペトローウィチ」は、明らかに「上流階級」の身なりだったんだ。
高い身分であることを示す立派な徽章をつけ、金のネックレスや高価そうな宝石のついた指輪をしてね…
彼は安月給の予審判事時代に放蕩生活を送り、まったく貯金はなかった。
しかも村民への暴行事件により予審判事の職を罷免させられている。そんな経歴があったら、よその土地でも公職には就けないだろう。
なのに8年後、彼は非常に良い暮らしをしているんだ。
「隠し妻ソージャ」と「眉毛の黒い太った男カエタン」の兄妹によって領地から追い出された伯爵を世話しながらね…
それってまさか…
伯爵家を乗っ取ったポーランド人の兄妹から経済支援を受けていたとしか考えられない。
最初からの計画通りにね。
あの二人にとって伯爵は、領地に居てもらっては困る存在だけど、どこかで野垂れ死んでもらっても困る存在だ。
なぜなら…
まだ「世継ぎ」がいないから…
ああ、そうか…
伯爵家乗っ取り計画は、伯爵夫人ソージャに「伯爵の子」が生まれないと完成しないんだ…
そーじゃないと伯爵の死後に親類たちが相続人になってしまう…
でも、もう不可能よね…
伯爵は廃人同然だから…
「不可能」とは言い切れない…
それを臭わす描写があるんだ…
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