米津K師殺人事件 第1楽章『アイネクライネ』第9節「北斗と南」
前回はコチラ
2019年4月某日 熱海
サンビーチへ向かう途中
ウ、ウルトラマンA(エース)のバラバとエースキラーの回?
覚えてるに決まってるでしょ!
あんなインパクトだらけの話、忘れるわけないわ!
ウルトラ兄弟が十字架で処刑されるなんて、子供にとってはトラウマものでしょ!?
だよね。
僕も夢に何度もあらわれた…
だからそれと『アイネクライネ』がどう関係があるっていうのよ!
1番のBメロって…
ウルトラマンAのバラバとエースキラーの回の再現になってるんだ…
米津玄師は歌詞とイラストで、第13話『死刑!ウルトラ5兄弟』と第14話『銀河に散った5つの星』を再現しているんだよね…
え?
ウルトラマンAの第13・14話のあらすじはこうだ…
異次元人ヤプールの策略により、ゾフィー、マン、セブン、帰マン、Aのウルトラ5兄弟が、地球とは別宇宙にあるゴルゴダ星へおびき寄せられる。
⇩
地球にバラバ出現。
⇩
罠にはめられた5兄弟は、末弟のAにエネルギーを集中させ、Aひとりが脱出し地球へ向かう。残った4兄弟はゴルゴダ星で十字架にかけられる。
⇩
地球に戻ったAはバラバと戦い敗北。ヤプールによって異次元空間に追放される。
⇩
地球防衛軍本部の意向によりゴルゴダ星を4兄弟ごと爆破する計画が立てられ、ミサイルを搭載した宇宙ロケットのパイロットに北斗隊員が選ばれる。
⇩
ゴルゴダ星にエースキラー出現。4兄弟の能力を吸い取り、全必殺技を取得。実験台のAロボットを4兄弟の前でなぶり殺しにする。
⇩
宇宙ロケットに不具合があるため、本部はロケットごとゴルゴダ星へ特攻することを指示。北斗隊員は「最初から死ぬつもりだった」とこれを承諾。
⇩
基地のモニターで別宇宙にいる北斗隊員を見つめる南隊員。北斗隊員からは南隊員の姿が見えず、お互い名前を呼び合う。すると突如ウルトラリングの宝石が光り、二人は手を伸ばしモニターのガラス越しに手を重ねる。時空を超えてAが登場。ゴルゴダ星へ向かう。
⇩
ゴルゴダ星にてAとエースキラーが対決。一度はAは敗れるも、4兄弟のカラータイマーから最後のエネルギーがAに送られ復活。究極の技スペースQにてエースキラーを倒す。
⇩
一路地球へ向かったAはバラバと対決。勝利して地球に束の間の平和が訪れる。
遠く離れた北斗と南が互いの名前を叫びながらモニターのガラス越しに手を合わせるシーンは何度見ても泣けるわよね…
愛は時空を超えるのよ…
クリストファー・ノーランの『インターステラー』みたいに…
クリストファー・ノーランはウルトラマンAを知っていたんじゃないかな…
人類を救うため、帰って来れない無謀な計画だと知らされずに別宇宙へ送り出される主人公の男…
そして男と地球に残されたヒロインが、時空を超えて愛を伝え合い、人類は救われる…
やっぱり愛よね、愛…
愛に不可能はないわ…
だから…あきらめちゃダメ…
深代ママ…
はい、これ…。涙を…拭いて…
ごめんね、岡江クン…
あたしホント最近涙もろくてさ…
嫌よね、年とるのって…
年はお互い様(笑)
ふふふ。そうね…
じゃあ今度は『アイネクライネ』の1番Bメロを見てみようか。
動画の50秒あたりからだ。
まずは「どこか空高い場所で女の声を聴く男」ね。
これは「遠い宇宙で地上にいる南夕子の声を聴いていた北斗星司」だね。
ああ!だから米津玄師は「糸電話」にしたのね!
北斗のヘルメットについてるケーブルを再現したんだわ!
歌詞の「あなたにあたしの思いが全部伝わってほしいのに」もドンピシャ!
そして次に映し出されるのは「クマさん人形」だ。
これはロボット超人エースキラーを表していたね…
でもさ…
なんでエースキラーが映る時も歌詞が「あなたにあたしの思いが全部伝わってほしいのに」なんだろ?
エースキラーには、ウルトラ兄弟がもつ特殊能力の全部が伝えられたんだ。
だから「あなたにあたしの思いが全部伝わってほしいのに」なんだね。
あ、そっか!うまい!
そして次は「上空にいる男と交信する地上の女」だ。
地上の基地から宇宙空間にいる北斗星司と交信していた南夕子ね
ちゃんとケーブルで繋がっているわ!
歌詞も「あなたにあたしの思いが全部伝わってほしいのに」でOK!
そして次に映し出されるのは「光る宝石」だ。
これは2つの意味が考えられる。
まずは「ウルトラ4兄弟の特殊能力が伝えられたエースキラーの胸の石」…
そして、北斗と南の指にはめられた「ウルトラリングについてる宝石」ね…
その通り。
そして次に映し出されるのが「曲芸のようにボールを頭に載せる男」だ。
これは何かしら?
っていうかこの男、あとでアヒルも頭に載せるわよね…
どうして?
男が球やアヒルを頭に載せる描写には、実は深い意味が隠されているんだけど、ここではまだ触れないでおこう。
なによそれ。もったいぶる気?
話があちこち飛ぶと、ややこしくなっちゃうからね。
まずはウルトラマンAとの関連性からだ。
この「ボールを頭に載せる」という行為は「頭部」を強調するためのものだと思う。
頭部?
「ゴルゴダ」って「頭蓋骨」という意味なんだよね。
北斗は「必ず帰って来る」と嘘をついてゴルゴダ星へ向かった。最初から死ぬ気だったのに。
だから「誰にも言えない秘密があって嘘をついてしまうのだ」の歌詞なんだ。
ちなみに北斗は第1話でも、タンクローリーで超獣に特攻して死んでいる。
その勇気を称えたウルトラマンAが北斗を復活させ、南夕子と共に地球を守る役割を与えたんだ。
なるほど…
そして次に映し出されるのは「バラバラ人形」。
これは「殺し屋超獣バラバ」だったね。
そして次に映し出されるのは「紙飛行機を後ろに飛ばす女」…
これも何を意味してるのかしら?
ここからは「北斗と南の合体&ウルトラマンAの登場シーン」を描いているんだよね。
手の後ろに紙飛行機があるのは、二人の合体後に宇宙ロケットからAが飛び出してくる様子を再現している。
そして同時に…
ウルトラリングが光り、地上の南夕子が宇宙空間の北斗星司に「星司さん!手を出して!」とモニター越しに呼びかけるシーンの再現でもある…
でも、なんで歌詞が「誰にも言えない秘密があって嘘をついてしまうのだ」なの?
実は南夕子には誰にも言えない秘密があったんだ。
彼女、実は人間じゃなくて「月星人」なんだよね。
月文明を滅ぼされてしまった月星人が、再興のため地球へ送ったのが彼女なんだ。
ああ!そうだった!
だから南夕子は途中で帰っちゃうのよね!
それ以降は北斗がひとりでウルトラマンAに変身するのよ!
南夕子の帰還はショックだったよね、子供心に…
南ロスでしばらく立ち直れなかった…
僕にとって「南ちゃんを探せ」とは、失われた南夕子を探すことに他ならない…
「南ちゃんを探せ」とか超なつかしいんだけど。
そして次に映し出されるのは「男が突き出した手」。
これはまさに…
南夕子の呼びかけで突き出された、北斗星司の手に他ならない…
そしてモニター越しに手を重ね…
時空を超えて愛が伝わり…
奇跡のようにウルトラマンAが出現するの!
素晴らしいとしか言いようがない…
米津玄師のウルトラマンA愛は…
なんか久しぶりに色々思い出しちゃった…
ウルトラマンAのことなんて普段すっかり忘れてたから…
でもさ…
十字架にかけられるウルトラ兄弟とか、ゴルゴダ星って名前とか、バラバって名前の怪獣とか…
よくよく考えてみると、第13・14話ってモロに聖書ネタよね…
13・14話だけじゃないよ。
ウルトラマンAは全編にわたって聖書ネタで埋め尽くされているんだ。
そもそも最初の構想では、ウルトラマンAは人類にとって「神」のような存在という触れ込みだった…
そうだったの?
ウルトラマンAのチーフライターだった脚本家の市川森一は、「神」を表現するために男女の合体で変身させるアイデアを思い付いたらしい。
市川森一(1941~2011)
彼はクリスチャンだから、唯一神である「神」は男女の性を超越した存在であるべきだと考えたんだね。
だからこれまでのような「ウルトラマン=男」というイメージを覆す設定にしたんだ。
確かに男女合体で変身ってウルトラシリーズで異色よね…
というか当時のヒーローものでは有り得ない設定…
それが原因で南夕子は月に帰ることで途中降板になったんだ…
時代が早過ぎたんだろう。
今ならその設定を活かした深い物語がいくらでも描けるのに…
残念…
ウルトラマンAを「唯一神」に見立てた市川森一は、Aの人間姿である北斗と南に興味深い設定を施した。
二人がウルトラマンAに選ばれるのは、第1話の舞台である広島県福山市…
第1話で超獣が破壊するのは、屋根に十字架の立つ教会兼孤児院…
北斗星司はパン屋の配達員で父親がいなく、自ら犠牲となって死を選ぶ…
南夕子は失明者の視力を回復させる能力をもち、空中歩行ができる…
ちょっと、これって…
イエス・キリストを想起させるものばかりじゃないの…
その通り。
「福山市」は「福音」を想起させる。
なるほどね…
話は全然変わるんだけどさ…
『アイネクライネ』の男って、福山雅治に似てない?
口の開け方とか福山っぽいのよね…
確かに福山雅治の口の開け方だ…
もしかしたらウルトラマンAの「福山市」を想起させる描写かもしれない…
ナイス深読み。
へへ。
だけどさ…
なんで米津玄師は『アイネクライネ』にウルトラマンAの第13・14話を落とし込んだのかしら?
何がしたかったわけ?
『アイネクライネ』はモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』の略だったよね。
「ある小さな夜の曲」という意味だった。
そうだったけど…
それがどうしたの?
米津玄師は「ある小さな夜」を描くために、ウルトラマンAの第13・14話を引用したんだ。
ある小さな夜?
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?