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【各話読み切り】ざんねんマンと行く!

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飽和状態のヒーロー業界に、こそり足を踏み入れた男あり。その名はざんねんマン。多くの場合ヘマをやらかし、たいした見せ場もなく最終盤を迎えるその姿は、さながら現代のしがないサラリーマ… もっと読む
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記事一覧

【ざんねんマンと行く】妖怪世界のギクシャク

風もないのに、窓がガタガタ揺れている。

深夜、都内のアパート。人助けのヒーローこと「ざんねんマン」の眠りを、やや不気味な音が揺り起こした。布団をまくり、満月の照らす夜空のほうを見やる。と、何やら白い布のようなものが打ち付けている。

ガラガラ

空けたとたん、白いものがヒュルリと入ってきた。やたら長い。反物のようだ。短いが手足までついている!これはもしや?!

「モメーン」

反物がしゃべった。

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【ざんねんマンと行く】 誰の役にも立たない人間

「僕なんか、いてもいなくても同じだい」

高校2年生の哲郎は天井を仰いだ。

勉強はからっきし。運動神経なんてさらさら。おかげに髭が濃くて、おじさんみたいな顔をしている。それに加えて気弱なところがあるから、友達なんかろくにできない。学校でも、自分はなんだか空気みたいな存在だよ。

お父さん、お母さんは優しいけれど、僕の空しさまでは気付いてもらえない。

誰にも求められない、誰の役にもたたない。こん

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【ざんねんマンと行く】 押しの弱い男編

「お待たせしました、ただいまからチケットを拝見します」

都内のとあるシネマコンプレックス。SFの最新作品が封切りとあり、映画館は若者を中心に大勢の人でごった返していた。スタッフが声を張り上げると、カップルや家族連れが流れるようにゲートへと吸い込まれていった。

その中に、今年で50になる誠もいた。週末の貴重な息抜きタイムだ。仕事を忘れて、大好きな宇宙ものの世界に浸るのだ。

いったん化粧室に立ち

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【ざんねんマンと行く】 サンタのプレゼント

時計の針が「12」を回った。
12月25日、深夜。世界中の子どもたちが、翌朝枕元に添えられるプレゼントを心待ちに、楽しい夢を見ていることだろう。

高校2年生の哲郎は、窓越しに漆黒の夜空を眺めると、幼かったころを思い出した。両の頬が一瞬、緩みかけたが、やがて能面のように表情を失った。

サンタクロースを、あらゆる可能性と希望を信じて疑わなかった時代はいつしか過ぎ去った。あっという間に、大人の仲間入

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【ざんねんマンと行く】 UFO到来編

とうとう、この日がきたか。

日本は富士山の上空に突如現れたのは、巨大な球形をしたUFO。年の瀬の帰省ラッシュで混雑する東名高速道路は、スピードを落として上空を仰ぎ見るドライバーが続出し、大渋滞が生まれていた。

我々と同じく知能を備えた生命体がいるはずー。世界中の人々の期待は突然、形となった。ただ、「向こう」から訪れるという形での遭遇は、動揺を招いた。

友好の遣いか、はたまたインベーダーか。

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【ざんねんマンと行く】 トチる噺家編

大人に近づくにつれ、よく言われたもんです。

「個性を出せ」と。

部活でも趣味でも、個性を出し、自分らしさを磨くことで、学校や会社でも認められる存在になれるんだと。

でもね、そんな無理して個性って磨かないといけないものなんでしょうか。

胸張って言える特技や趣味がなくても、いいんじゃないでしょうか。ないことそれ自体も、個性かもしれないじゃないですか。

「えぇ~、昔々、あるところに、こどものな

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【ざんねんマンと行く】火事場で救助編

私はときどき思うんです。

いつの世も、目立つ人が結局得をするような気がするなあって。

へっぴり腰で、

押しの弱い人間にとっては、

競争社会を生き抜くのはきついもんだ。

そんな時代だからこそ、

声なき声に応えてくれるような、

そっと寄り添ってくれる、癒しの存在に出逢いたい。

ざんねんマン。

あらためましての、登場だ。

あれは木枯らしが吹きすさぶ、

真冬の夕方だった。

夕飯の支

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【ざんねんマンと行く】しょっぱいデビュー編

世の中にはたくさんのスーパーヒーローがいるもんですなあ。

やれスー〇ーマン、ウル〇ラマン、バッ〇マン。

みんな最強、みんなイケメン。で、モテる。

まったく、叶わんですよ。

悔しいもんです。

私はねぇ、思うんですよ。

ちょいと違った主人公がいてもいいんじゃないか。ってね。

例えば

「ざんねんマン」

夏の浜辺で小学生が波にさらわれた。

「誰か~!」

周囲の叫びを耳にした自称正義の

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