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なぜ、悪い報告は後回しになる?「MUM効果」とは

「それ、早く言ってよ~」

この台詞は有名なCMからのものですが、ビジネスや日常生活であなたが悪い知らせを受けたとき、思わず口にしてしまった経験はないでしょうか?

悪いことほど、その報告が遅れがちなものですが、その理由って一体何でしょうか?




悪い知らせは誰だって言いたくない!


MUM効果とは、人が相手に対して悪い情報を伝えることを避けようとする心理現象を指します。この効果が働くと、人は悪い知らせを伝えることをためらったり、遅らせたりする傾向があります。

たとえば、皆さんが小学生だったとき、学校で悪さをして先生に叱られ、それを両親に伝えるのをためらったことはないでしょうか?

「いったい何をしたの?」「なんで先生を怒らせたの?」

など、親の反応を気にして、ついつい話すのが遅れたり、伝えるのが億劫に感じたりしたことがあるかもしれません。まさにこうした状況が「MUM効果」なのです。

こうした「MUM効果」は、アメリカの心理学者、シドニー・ローゼン(Sidney Rosen)氏とエイブラハム・テッサー(Abraham Tesser)氏によって1970年に提唱されました*1。

学術的には「MUM効果」という名前がついていますが、改まって言われなくても、こうした状況は誰しも理解できるものでしょう。ただ、当たり前のことだとしても、ときにMUM効果が働いて、非常にクリティカルな問題に発展するケースもあります。

たとえば、ミスが許されない医療現場などはその代表例です。悪い知らせが遅れれば遅れるほど、患者さんの命に関わってきます。ビジネスの現場でも悪い報告が遅れたことで、事態がさらに悪化してしまうこともあるでしょう。

だからこそ、そうした事態を防ごうと研究対象になるわけですが、そもそも、なぜこうした現象が起きるのでしょうか?

MUM効果が発生する要因とは何か?


心理現象を解き明かす上で難しいのは、その要因を特定することです。同じ心理現象であっても、状況が異なれば影響している要因も変わります。これらの異なる前提条件の中で、共通する要因を見つけることは至難の業です。

MUM効果も同様で、はっきりとしたことはわかっていませんが、あくまで仮説としてさまざまな要因やメカニズムが指摘されています。

たとえば「自己防衛反応」です。これは、相手にとって悪い知らせを伝えた結果、非難や否定的な反応を受けることが予想されるために、報告をためらうというものです。ビジネス現場で、部下から上司への報告が遅れる理由は、こうした要因が影響している可能性があります。

また、「相手への思いやり」も考えられます。悪い知らせを伝えた結果、相手が精神的に傷ついてしまうことを恐れて、あえて言わないという可能性です。恋人に失恋話を持ち出すのが遅れるケースは、このような気遣いが背後にあるかもしれません。

そのほか、「基準の不明確さ」もあるでしょう。ビジネス現場でたびたび起こることですが、そもそも悪い知らせの"基準"が不明確であるために、それを伝えようとする行動を取らないというものです。上司は口酸っぱく「悪い知らせは早く教えて」と言ったとしても、現場がそれを悪い状況だと思っていなければ、報告されないことがあります。

これら以外にも、MUM効果が起きる要因はさまざま存在し、かつ、実際は複数の要因が複雑に絡み合って発生しています。したがって、こうした状態を未然に防ぐ"銀の弾丸"はおそらく存在しないでしょう。ただし、悪い知らせを伝える側と聞く側の双方で大事にしたいことはあります。それは「誠実に向き合う」という姿勢です。言いにくいことを思い切って伝えたり、それを聞いたりするわけですので、その勇気ある行動にはしっかり感謝を示し、真摯な姿勢で向き合うことが大切だと感じています。

(参考文献)
*1 Rosen S., Tesser A. On reluctance to communicate undesirable information: the MUM effect. Sociometry, 1970, 33, 253–263.

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