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【夫婦巡礼】無職の夫婦が800km歩いてお店を出す話【旅物語】No.23

巡礼15日目

フロミスタ(Fromista) ~カリオン・デ・ロス・コンデス(Carrion de los Condes)

■カーニャ、コルタド、トルティージャ

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毎朝のルーティーン。

少し歩いて「ちょっとまだ早くない?」と言う位のタイミングで取る休憩。

毎日の歩くペースに慣れてきた僕達の合言葉「カーニャ、コルタド、トルティージャ!」

カーニャはビール。コルタドは濃い目のミルクコーヒー。トルティージャはスペイン風オムレツ。これが僕達のお気に入り。

色んな国を旅すると、その国毎に人気の飲み物が違って面白い。

インド、スリランカ、ネパールはチャイが多かった。台湾はお茶とコーヒー、ペルーはコカ茶。日本は…緑茶?

スペインではビール、コーヒー、ワインが人気。暑い日はビール、涼しい日にはコーヒーを飲むのが定番なんだそうだ。

ただ歩くだけじゃない。誰もが一息付ける場所を用意してくれる人がいるから、道そのものを楽しめる。これがカミーノの良いところ。

いつかまたこの道に帰ってきたとして、妻と僕、願わくば子供も一緒になって歩くとき

妻がカーニャ、僕がビール、そして子供はズーモデナランハ(オレンジジュース)で乾杯できたら、最高に幸せだろうなと思う。

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■名物宿にて

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カリオン・デ・ロス・コンデス(Carrion de los condes)までの20kmを歩き終え、サンタマリア教会横のアルベルゲに入る。

ここは教会のシスター達が歌を唄うことで有名なアルベルゲだったようで、既にたくさんの巡礼者達がチェックインしていた。僕達が入って間もなく満室が告げられた。

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「今日は17時から皆で自己紹介、20時から夕食だからね。良かったら是非参加して!」

面倒を見てくれたおばあちゃんホスピタレラからのお誘いに、僕達二人は胸を踊らせた。今夜もコミュニティディナーが待っている。

■巡礼者達の宴

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この日もまた、特別な夜だった。

まず進行役のホスピタレロがこう告げる。

「皆さん、どうぞ話して下さい。英語でも、スペイン語でも、自分の国の言葉でも構いません。内容は自己紹介でも良いし、道を歩く理由でも何でも良いです。嫌なら無理に話す必要はありません。出来る範囲でお話ししましょう。」

そして、しばらくの沈黙の後、巡礼者達は一人また一人と順に話し始めた。

淡々と語る者、笑顔で冗談混じりに話す者もいれば、語りながら涙する者もいた。

正直な話、「全員の話を聞けたか?」と言われたら、全然聞けていない。恥ずかしながら、聞き取れなかった。

でも、そんな僕でもこれだけは感じられた。

それは、道を歩く巡礼者達は、間違いなく皆それぞれ想いや意志を持って旅をしていると言うこと。誰もが何となく歩いているわけではない。何か抱えていたり、考えながら歩いている。

言葉が分からずとも、理由があることは理解した。そして僕も皆の前で話すことができた。妻と二人で成し遂げたいのだ。そして、これからやりたいことを見つけるためだと言うことを。

大切なことは相手に耳を傾けること

理解しようとすること。

そして言葉で伝えようとすることだ、

初めは拙い言葉で形にならないかもしれない。それでも、何度も何度も言葉にすることで想いは形になっていく。形になるまで何度もトライするのだ。先日、イヴォ達にも教わったことだ。

■色鮮やかな記憶

以下がホスピタレロが話してくれたこと。

皆さん様々な国からこの道を訪れ、そしてサンティアゴヘ辿り着くと、それぞれが国へ帰っていきます。国へ帰ったら、是非皆さん家族や友人、恋人にこの旅の話をして下さい。広く伝えること。それもまたカミーノです。実は私もスペイン語しか分からないし話せないけど、皆の表情、声、話し方で【理解しようとすること】は出来ます。明日になれば、今日ここで一夜を共にした仲間達も、それぞれが歩き出さねばなりません。病気だろうと足にマメができようと、歩かねばならない。それもカミーノです。ただ、星はそれぞれに輝いていて、必ず皆さんを見守ってくれています。

見方によっては宗教色を強く感じる人もいるだろう。偏っていると感じる人もいるかもしれないし、ここまでの繋がりを疎ましく思う人もいる。「もっと気軽で良い」と思う人もいるだろう。

それはそれで間違いではないし、歩き方はそれぞれだ。思うように旅をし、宿を決めたら良い。

しかし一つだけ言えることは、こうした繋がりを感じること、他者、他文化を知り、理解することは、決して自分の人生にマイナスに働くことはない。知らずに過ごす日々よりも、知って学んだ日々の方が、振り返ったときにより色鮮やかに見えるはずだと、僕はそう思い、信じたい。

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■ある巡礼者の別れ

「実は明日の朝、帰国するんだ」

宴が終わり、皆が部屋に戻った頃、外で夜風に当たっていた僕はある巡礼者に声を掛けられた。先日、恋愛観について語り合った人だった。

僕達同様、恋人と歩き、しかし二人は別れと言う結論を出したと言う。それで、片方を残し一人は帰国することにしたのだそうだ。

別れるべきか否か、歩くべきかどうかは僕の決めることでは無い。人の意志や決定に対して、ああだこうだと言う権利も僕にはなかったし、何か労いや慰めの言葉を掛けるのもまた違うと思った。

ただただ、明日には仲間がいなくなる。と言う事実だけが、少しばかりか悲しかったが。

「どこかでまた会いましょう。飯でも食って話をしましょう。僕、会いに行きますよ。」

僕達はその約束だけ交わした。シンプルで良い。難しい話は、こんなときに必要ない。

翌朝、僕は早くに目を覚ましたつもりだったのだが、既に旅人は宿を発っていた。

別れの挨拶が出来なかったかと肩を落としベッドに戻って支度を始めると、一枚の置き手紙を見つけた。

「◯◯を宜しくお願いしますね。良き旅を」

最後まで、優しさを絶やさない人だなぁ。

そう思い、置き手紙をポケットにしまった。

僕達は、仲間の想いも一緒に歩いていく。何だか、今日も良い一日になりそうな予感がした。画像7

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フロミスタ(Fromista)  ~  カリオン・デ・ロス・コンデス(Carrion de los condez)

歩いた距離 20km

サンティアゴまで残り 約400km

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