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くらしのスケッチ

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今日が人生最後の日なら
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#くらしのスケッチ

人間のイデア

人間のイデア

音楽、文章、絵画、まあ何でもいいけど、芸術作品は人間が生み出すものだから、それらが好きだというのは、結局、人間が好きだということなんだよね。

人間の特徴が抽出されたものが好きだという。人間のイデア。

芸術作品を作る人のことをクリエーターと言うけれど、The Creatorと言えば創造主、神のことだ。

人間のイデアって、神だよね。

私たちが芸術作品を求めるのは人間への愛であり、そしてその構

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うらやましいか

昔、宇多田ヒカルさんが何かのインタビューで「英語でしか表現できないことがある」と話していた。

それは、おそらく多くの日本人にはない感覚なのだろう。

高校時代、数学の教師が「世界には、1、2、3より大きい数は全部『いっぱい』になる部族がいる」と話していた。

もしかしたら、世界には「うらやましい」という感覚がない人たちもいるのではないだろうか。

実際、僕は他人を「うらやましい」という感覚がよく

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あなたはどの役か

あなたはどの役か

乱暴な口をきく者。

汚い言葉を吐く者。

映画でもドラマでもアニメでも、見ればわかるだろう。

その言葉は嫌われて負ける側の台詞だ。

人を馬鹿にする者。

からかって笑う者。

それは名前もない、まともな台詞もない端役だ。

決して主人公の側ではない。

値引きのシールを貼り替える

スーパーで妻と息子と買い物をしていた。

「これ、ちょっと高いね」と妻が言うので、僕は「このシール貼ろうか?」と別の商品についている値引きのシールを指差した。

妻が「ちょっとお客様…」と肩を叩いてくる店員さんの真似をする。

僕は「えっーと、私にはですね、よく似た兄がおりまして、もしかしたら彼がやったのかもしれません」と応じた。

小芝居はそこで終わったが、僕の頭の中では実際に兄を呼び出す妄想が

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オンはコンタクト

休日出勤したある日のこと。

部屋の中に若手の同僚男性の姿があったため、「お疲れ」と声をかけると、見上げた顔が凛々しい。

「あれ?コンタクト?」

彼はメガネ青年なのだ。

「そうです。休みの日はコンタクトです。」

「へえ、何で?俺はオフの日がメガネだよ。」

僕はその日もボロっちいメガネをかけていた。

「だって、仕事パソコンばっかだから、コンタクトだと疲れなくないスか?」

その通りだ。ぐ

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誰かが捨てたもの

息子とHobby Offにいた時のこと。
Book Offのおもちゃ版、中古ショップだ。

彼はあれやこれやと棚を漁り、自分の小遣いで買えるものを吟味していた。弟にも買っていくのだと足し算をしていた。

一時間近くかかって息子は偽フェラーリのような得体の知れない赤い車を選んだ。1,000円。

これは弟に、とスカイラインGT-Rとパトカーのセットを選んでいた。800円。

そこに一組の親子が通りす

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もし僕が神様だったら

ある日の職場の宴席でのこと。

おでんが美味しいお店だった。

僕はこれまでの仕事人生では、いつも素晴らしい上司、同僚、部下たちに恵まれてきた。

もう30代になった独身女子の部下。とてもいい人。

職場には30代、40代の独身女性が増えてきた。真面目な、素敵な人ばかりだ。男はしょーもない奴でもおおむね既婚。僕とか。

心から、幸せになってほしいなあ、と思う。

早く結婚できたらいいね、という意味

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マルクスでエエんですか?

自分の内面を見つめるというのは、気が進まないものだ。

見れば見るほど、ろくなものではない。

だから、大学生の頃、私は自分の内面を見つめるのはもうやめることにした。

私にはたぶん、優しさとか思いやりとか、そういった、人として大切な「良きこころ」が欠落している。

しかし、お前の人格など社会全体から見ればどうでもよいこと。

「かれらがなんであるかは、かれらの生産と、すなわちかれらがなにを生産し

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心に夢のタマゴを持とう / 小柴昌俊

人で溢れた街。高層ビル群の合間を縫うように歩く。

小さな海辺の町に生まれた子供は、こんな生活をする日が来るとは夢にも思わなかった。

というより何も考えていなかった。

昔から「何々になりたい」という明確な目標はあまりなく、何となく生きてきた。

ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊先生がおっしゃっていた「夢のタマゴ」理論を思い出す。

明確な目標がなくてもいいから、自分の中でのキーワードを決めて

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趣味のない人

趣味のない人、俺は皮肉なしで素晴らしいと思う。

一人称俺で思うよ、俺は。

だって、とらわれないってことだろう。

不安でたまらなくて本を読み漁ったり、音楽を聴き漁ったりしないわけだろう。

自己を顕示したり、承認されたい欲がないわけだろう。

魂のステージが高い。

輪廻転生の終わりの方にいる、これは仏様に近いわけだよ。

人生は短いらしい。

ホントかよ。お前死んだことないからわからんぞ。

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まあ、やっぱり

「オレはそう思うんだよな、ウン。」

「それは違うと思うぞ、ウン。」

僕はちょっとイライラして友人に言う。

「お前さ、いちいち自分で言ったことに相槌打つ癖ヤメロよ。」

「わかったわかった、ウン。」

…。

まあいいや。

彼は本当に、全部の言葉に相槌を入れてるんじゃないかと思うくらい、「ウン」が口癖なのだ。

一度気になると、気になって気になって仕方ない。

また言った。ああ、また言った。

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要は、バランスなんだよな

これは簡単に言ってはいけない魔法の言葉である。

『8時だョ!全員集合』の金ダライのようなものだ。この言葉を使うと全てが強制終了する。再起動にも時間がかかる。

昔から、ズケズケとものを言う人間になりたいと思っていた。

「鼻毛出てますよ。」
「チャック開いてますよ。」
「クリーニングのタグが付いたままですよ。」
「サイズのシールが付いたままですよ。」

誰も指摘してくれないようなことを指摘してあ

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ギザギザハートの無頼漢

「あんたも早う結婚したらええで。守るもんができたら仕事に張り合いができるさかいな」

昔、赤坂の喫茶店で上司に言われた。

2007年頃。僕が荒んでギザギザハートの無頼漢だった頃の話だ。

上司なりに心配してくれたんだな。

ただ、こういう言葉は誰もがどこかで聞いたことのある、手垢にまみれたもので、当時は、
(仕事に張り合いを出すために結婚するなんて目的がおかしくないか?)と思ったものだった。

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マジョリティになりたいか

「俺はマジョリティになりたいんや!」

…生まれて初めて聞く言語表現だった。

僕は、友人のこのあまりにストレートな独白に衝撃を受けた。

「A男やB郎やC助みたいに、結婚して、子供作って、家買って。俺はみんなと同じことがしたい!」

でもさ、結婚してもいいことばかりじゃないぞ。家族が増えるとそれだけ不安も増える。病気とかさ。子供だって、簡単にできるもんじゃないぞ。

独りならさ、何かあっても自分

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