値引きのシールを貼り替える
スーパーで妻と息子と買い物をしていた。
「これ、ちょっと高いね」と妻が言うので、僕は「このシール貼ろうか?」と別の商品についている値引きのシールを指差した。
妻が「ちょっとお客様…」と肩を叩いてくる店員さんの真似をする。
僕は「えっーと、私にはですね、よく似た兄がおりまして、もしかしたら彼がやったのかもしれません」と応じた。
小芝居はそこで終わったが、僕の頭の中では実際に兄を呼び出す妄想が進行していた。
「今から来てくれ」と電話で兄を召喚する。
彼は変なスタジャンみたいな服のポケットに手を突っ込んで、「どうした」と現れる。
事情を話す。
きっと兄は「あっ、俺がやりました」と言うだろうな。
そんなことを考えて、妻と息子の後ろを歩きながら、僕は勝手に涙ぐんでいた。
あなたの御寄附は直接的に生活の足しになります。