マジョリティになりたいか
「俺はマジョリティになりたいんや!」
…生まれて初めて聞く言語表現だった。
僕は、友人のこのあまりにストレートな独白に衝撃を受けた。
「A男やB郎やC助みたいに、結婚して、子供作って、家買って。俺はみんなと同じことがしたい!」
でもさ、結婚してもいいことばかりじゃないぞ。家族が増えるとそれだけ不安も増える。病気とかさ。子供だって、簡単にできるもんじゃないぞ。
独りならさ、何かあっても自分だけが苦しめばいいけど、所帯を持つと家族に辛い思いをさせることになるよ。
「わかってるよ。そういうのも含めてみんなと同じ体験をしたいんや!俺は…土日が暇で暇でたまらん!」
「テキトーに要領よく生きている奴らばっかり結婚しやがって!残っているのは、真面目に考えて生きている奴らばかりじゃないか?」
真面目な友人の魂の叫びは、テキトーに生きている僕の胸を素直に打つものがあった。
僕は、マジョリティになりたいと思ったことが一度もない。
というより、なれないと思った。
保育園の時に初恋をし、その時、自分は容姿や運動能力では並み居るライバル達に勝てないと悟った。
ああ、俺はイロモノなんだ、と気づいた。
その後は順調にイロモノフレンド達と親交を深めながら、順調にイロモノ街道を歩んできた。
なんと、気づけばサラリーマンになって、結婚して、子供までできていたではないか。
僕はアカレンジャーやアオレンジャーにはなれなかったが、キレンジャーくらいにはなったのかもしれない。
そう、あの道に落ちていた睡眠薬入りのカレーを食って敵に捕まってしまうような役回りだ。友人も大概そういう奴らばかりだ。
「幸せになるのさ 誰も知らない 知らないやり方で」
ブランキー・ジェット・シティの『小さな恋のメロディ』を口ずさみながら、マイノリティを志向していったデラシネ気取りのやさぐれ男は、マクロで見ればマジョリティになってしまったというのか。
くわー、ロックンロールの神様が泣いてるぜ。
いや、きっとみんなマイノリティなんだ。
端から見れば同じような夫婦、親子、家族も、みんなそれぞれ違うんだ。
僕は友人に言った。
年上もいいんじゃないか?
で、子供ができなかったら養子もらうとか。
「いや、30くらいで」
容姿はこだわらなくていいじゃん。
やっぱり結婚するなら性格だぞ。
「いや、可愛くないと燃えるものがない」
まあ、いいや。
きっとお前にもいい人が見つかるよ。
時間がかかるかもしれないけど、きっとな。
あの子達にもわかる日が来る。黒川仏壇店。
結婚すればいいというものではないだろうが、真面目に生きている人達が、自然に出会って、自然に愛情を育んで、幸せに生きていけたらいいのにな、と心から思う。
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