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猫のように暮らしてみたい その10

家によく来ていた野良猫は、
いつの間にか家の中にまで上がり込むようになっていた。

日当たりのいい二階の窓辺に伸びをしたような格好で寝ている。

完全に油断した格好だ。

この家の中なら安全だと認識していたのだろう。


日常的に人間と関わりを持って来た野良猫は子供だった私に対しても
寛容で、撫でたり抱っこしたりしても全く怒らなかった。

好きな時に来てふらっと居なくなってまたひょっこり帰ってくる。

そうやっていつの間にか家に居つくようになっていた。

もともと野良猫なので、家の出入りは勝手にしていた。

二階の窓から屋根伝いに隣の家に飛び移り、
ブロック塀を器用に歩いてふと飛び降り姿が見えなくなる。

おそらく自分のテリトリーのパトロールだったのだろう。
雄猫だったのだ。

顔見知りのおじさんやお婆ちゃんなんかに愛想を振りまいて
雌猫を追いかけて。

当時は去勢避妊手術など考える人はほとんどいなかったから、
よく似た子猫を見かけることもあった。


うつ病体験記2


すべてが自分のせいと思い込んでいた私は、
当然のように自分を責めた。

自分で自分を責めると言うことは自傷行為と同義だ。

自分に対して言葉の暴力を浴びせているようなものだ。

自分の頭の中で起きていることだからどこにも逃げ場がないだけに辛い。

目をつぶっても耳を塞いでも頭の中でわめき散らす。

これは本当にしんどかった。

心が完全に壊れてしまった。

もう自分の型が分からなくなった。

バラバラになった心はさらさらに乾いた砂粒のように
形を作ろうとしてもすぐに崩れてしまう。

とにかく普通の生活ができるようにならなければと、
いつも焦っていた。

気持ちとは裏腹に生活は崩れていく一方で、

朝起きられない。

ベッドから出られない。

テレビの前に座ったきり動けない。

お風呂に入れない。

人込みで大量発汗する。

他人と関われない。

外出もできない。


このままではこの先どうなってしまうのだろう。


猫の様子を眺めていると、
なんだか生きていることを空しく感じた。


私の膝に丸くなって眠る猫の頭をなでながら、
涙が溢れてきて本当にぽろぽろこぼれ落ちた。

撫でていた猫の頭が濡れているのに気づいて初めて
あれ、私は泣いているんだと分かった。

拭いても拭いても涙も鼻水も止まらなくなって
いつの間にかうわぁと声を出して泣きじゃくっていた。

子供の頃ならともかく大人になってこんな大声出して
ぽろぽろ泣いたのは初めてだった。

驚いた他の猫たちが何事かと私の周りに集まってきて、
しばらくじっと泣いている様子を眺めている。


それから私にもたれかかるように体をくっつけてそのまま丸くなった。

私の周りには丸くなった猫3匹がぴったり寄り添っていた。


                       つづく。。。


今日も読んでくださった方ありがとうございます。


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