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嘘つきな君(短編小説)


#忘れられない恋物語
#創作大賞2023 #エッセイ部門

決して寂しい恋をしたからじゃないよ。
たくさん泣いたけど
もう一度生きる事を教えてくれた。
もう一度人を信じることを教えてくれた。
君と過ごした約4年間を忘れた事は1度もないよ。


約4年間付き合っていた彼に別れを告げられた。
高校1年生の時から今日まで何度も喧嘩はしたし別れそうにもなった。何回泣いたかは覚えてない数えられないくらい泣いた。
別れる時は呆気なかった。
「好きかどうか分からなくなった」
その電話一本で終わったんだ。
またこの言葉を聞くことになるとは思っていなかった。
今まで君以外の男を男と思ってこなかった。
不思議と君以外の人に何かの感情を持つことはなかった、きっともう必要ないからとその気持ちに鍵を掛けてしまって君に渡してしまったんだと思う。
君以外の男性を私は知らない。
次に進もうと思って努力はしたけど怖くてどうすればいいのか分からない。
私はまだココから進むことも戻る事さえも出来ずに立ち止まったまま…ココに居る。
君だったら…と悪魔に囁かれるように何かに取り憑かれたように比べてしまって私からサヨナラをする。

「ごめん、好きか分からないや」

あの時言われた言葉と同じ言葉を使う、この言葉は本当便利だよね。
私っていつからこんなに酷い女になってしまったんだろう?それでも一人が寂しくて告白してきてくれる男性と片っ端から付き合ってみた。
バイト仲間の男の人と遊んで誘われれば飲み会に行って今までどれだけ狭い世界に居たんだろうか。君ももしかしたらこんな気持ちになってしまったから…それだったら私も一緒に連れ出してくれてもいいのに。
自然と笑えるくらいには傷は癒えていたと思う。
色んな人と出会って、色んな人と付き合った。でもどうしても体を重ねることだけは出来なかった。
怖かった、上書きするような感覚に襲われて怖かった…
まだ君が心の片隅にいたからだ…。
所詮ヤれればいいんだ。って思えばサヨナラもしやすかった。


中学3年生になって数ヶ月後突然イジメに合った。イジメと言っても暴力とかはなかった。集団無視、机や椅子を廊下に出されていたり教科書にガムを付けられていたりゴミ箱に捨てられていたり…今思えば子供だなって笑えるくらいだけどその時の私には耐えられなかった。
親に相談するどころか先生にだって言えなかった。
学校を休んだ時に言われた先生の言葉は今でも覚えている。
「みんな心配してるぞ」だった。私は結局先生は何も見てない、周りなんか見ていない、生徒一人一人なんか見てるわけない。あれは漫画やドラマだけの話だ。って思った。
そしてその時の私は相談が出来なかったんじゃなくて認めたくなかった。
自分がイジメられていて友達が離れていったなんて…きっとまた何も無かったように「おはよう」って言ってくれるって信じていたけどそんな願いは届かず卒業した。
卒業式の時のことは今でも覚えている、みんな泣いていた。そんな光景を見て私は初めて吐き気がした。見たくない、聞きたくない…虫唾が走るとはこういう事なんだと知った。
学校という場に行くのが怖かった。私を見ている人は居ない、 大勢の中に放り出されたら見つけてもらえない。私という存在を消されたようなそんな衝動に駆らた。
だから集団生活は向いてないと思ったけど高卒の資格は必要だと親に言われ行きたくない理由も言えず夜間定時制高校に入学した。
友達作りってどうするんだっけ?私に友達が出来るのか?不安で仕方なかった時に声を掛けてくれたのが君だった。

「君T中の子やんな!俺もT中やったんよ」
「あ、1つ上の先輩…ですよね」

君は1つ上の学年で有名だったから顔だけは私も知っていた。君はなぜ私を知っていたのかは分からなかったけど。

「俺留年して同じ学年だから敬語は無しでいいよ」

それが君と初めて交わした言葉で出会いだった。
地元が一緒だったから小学校も一緒で話の共通点はたくさんあって尽きなかった。一緒に居て楽しいと思えた。男友達は正直楽だった。女友達も何人かは出来た。同じクラスのギャル、パラパラが得意だといって体育の時間はパラパラの素振りを小さくしたり…特徴と言えばクルクルに巻いた金髪と鼻ピアスが似合っていた。中学の時から付き合ってる彼氏と今は同棲してる…とか彼氏の話をする時は可愛くて私は好きだった。

私はその時君といつも一緒にいた隣の彼に恋をした。どうして?どこが?と聞かれたらよく分からないけど自分と正反対な彼に惹かれたんだと思う。振り向かせたくて一生懸命にアピールした18歳の彼は笑いながら俺の事好きでしょ。って言ってきたのを覚えている。付き合うきっかけはそこからだった。
でも3週間後別れた。
三股…四…私は何番目だったのか、そもそも私はその人の中に居たのかも分からなかった。

「あいつがほかの女と縁を切るって言ったから信じたのに…」
君が言った言葉の意味は分かった。君は何も悪くないのに口が勝手に動いてしまう…悪い癖だ。
「で…なんで…早く言ってくれなかったの?知ってたんでしょ?付き合う前から!あいつは辞めとけって…私が好きだって言った時応援するとか言ったくせに…」
「ごめん、今更かもしれないけど…俺もお前が好きだったんだよ…でもあいつが…俺が幸せにするって言い張ったから信じた。信じてた…友達だったから」
何も悪くないのに裏切られた気分になっているのは彼もだ…謝る君に私は何も言えなかった。謝って欲しいわけじゃないのに。
こんな関係って本当にあるんだな羨ましいな。私も同じ立場だったら譲っていたんだろうか?そりゃそうか、友達との関係が悪くなるくらいなら…
人間不信に陥ったのはこれで2度目。どうして私だけ、どうして私が…
「好きか分からなくなった。ごめん、友達に戻りたい、お願い。戻って欲しい」
電話で言われたその言葉を今でも思い出す。頭から離れなかった。好きな人にお願い。と言われたら頷く事以外何が出来るの。嫌だと言ってもお願い。と頼まれたら分かった。と言うことしか出来なかった。
そして次の日彼は何も無かったかのように笑って挨拶してきた…私は我慢が出来ずに教室を飛び出した。
そんな時に君はずっとそばにいてくれた。何もする訳でもなく私の気が済むまでずっと…隣に居てくれた。

「いい加減私に付き合わなくていいんだけど」
「1人にしたら怖い」
「私が死ぬとでも思ってる?」
「分からないから怖い」
「私はそこまで弱くない」
「中学の時イジメにあってたから?」
「……何言ってんの」
「俺はイジメにあってたからなんとなくそんな気がした」
「嘘」
「俺はお前には嘘つかない……中三の時あの校舎の三階から飛び降りてやろうと思った。何も考えずに窓から飛び降りたらアーケードの上に落ちて打撲で済んでしまった…自殺する人の気持ちって正直分からなかったけどあの後初めて分かった…遺書とか何で書かねぇのかなって思ってたけどあんなの書く事なんか出来ないくらいの気持ちになって…なんかこう…もうどうでもいいから早く消えたいって…ごめん、分からないよな」
「…誰かが窓から飛び出して屋根に穴開けた…って話なら聞いたことはあるけど私が2年の時だから記憶はあんまり…」
「多分それ俺だよ、学校で死んだら有名人だなーって俺の事イジメてた奴も笑って見過ごした先生も後悔すればいいやって気持ちで飛び降りたんだけど失敗した」
「知らなかった…」
「案の定笑ってたわ、バカな事してるって言われた。俺は自分がイジメられてるって認めたことは無かったし今でも思わないようにはしてるけど…正直ずっと1人だったから他中の悪いことばっかしてる連中とつるんで俺は強いって言い張ることしか出来なかった」
「強いよ、君は強い」
「まぁね、お前は強がりすぎ…」

そう言って頭を撫でてくれた。初めてだった。
そのまま私は抱きしめられた。不思議と嫌な気分ではなかった。心地よかった。

「俺の事信じなくていいからそばに居させて欲しい」
「…それは」
それは、どういう意味?
君の気持ちを知っててそばに…
「俺の事利用してくれていいから好きにならなくていいから何か会った時頼って欲しい。絶対駆け付ける、何言われても俺が味方になるし、大丈夫、大丈夫」

大丈夫。と何度も言ってくれた君の言葉は魔法の呪文の様だった。不思議と君が隣に居てくれたら大丈夫だと思えた。私がリストカットをしてしまった時君も私と同じ場所にリストカットをして私に見せた。
その時初めてもうリストカットをするのは辞めようと思えた。人が放つ言葉に敏感になってどんな言葉も怖くなった。人を信じる事が出来なくて自分が怖くなった。
でも、君はそれでいい。とそれがお前だから、と言ってくれた…
「好きだよ、愛してる」
そう言ってくれた君はもう…居ない。
私はそれから色んな恋をしたけど本気で好きなる事は出来なかった。
いつだったか親に言われたあんな奴が彼氏とは認めない。と言われた時だったかな
悔しかった。親に何も言い返せなかった自分が嫌になった。門限を破ってしまった時に付いてしまった嘘1つのせいで…たった1度なのに。と思ったけど今思えばきっと君に私は嘘を付かれたらそのたった1度でも許す事は出来ないだろう…
何より私からしたら命の恩人で隣に居なくてはいけない人なのにどうして悪く言うんだ…その事ばかりが頭の中でいっぱいいっぱいになって消えたしまいたいと思った時だった…
「もし死にたいって言ったらどうする?」
「一緒に死ぬよ、俺がお前を殺した後俺もすぐ逝く」
「一緒に…死んでくれるの?」
「お前が居ない世界は…いらないから」

迷いもなく君は私にそう言ってくれた。
そして君はたくさんの言葉を私にくれた。
ねぇ、いつからが嘘で何処までが真実?
「全部嘘だよ」
君は嫌われようと私にそう言っていることは分かった。だって4年間も一緒に居たんだから分からないわけないよね。

「嘘つき」
「ごめん」

最低なくせに謝る君の目は優しい事を知っている。最低な男を演じるのなら謝る事なんかしないで欲しい。本当に嘘つき…
私が居なくても君は生きていけるんだ
私は君が隣に居てくれないと息の仕方さえも忘れてしまったのに…
酸素が薄くて息が出来ないくらい苦しいのに…

「お前は強いから大丈夫」

強い女になろうと必死だった。私は…強いと自分自身に言い聞かせて…私は君の背中をずっと見送った。
泣くのは認める事になるから我慢した手の甲に爪を立てて必死に我慢したけど泣き崩れてしまった時にはもう君の姿は無かった。
本当は1人じゃ生きて行けなくて君が居ないと息の仕方もわからなくなって…このまま私窒息死するんじゃないかって思うくらい苦しくなった。

君は今どこで何をしているのか…私には分からないし分かったところでもう昔には戻れないことを知っている。だからあの頃みたいに笑えなくていい、思い出話にバカだったね、って子供だったねって笑えたらいいなって思うんだよ…。

「空はずっとどこまでも続いてるよ」





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