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亜美(浩子)/整形美人 26

新しい顔になってからの自分にだいぶ慣れたかな?わたし。。。

人は、いくら大人になって少しばかり美しくなったとしても、あの13~15歳頃の多感な少女から大人に変わる時期。人格形成という卵が、出来立ての柔らかな薄い乳白色の透き通った膜からしっかりとした固い白いの殻に変わる、そんな時期に得た自信と周囲から感じとった評価。そこからなんとなく社会の中での自分のポジションを悟り判断した自己評価を大人になっても基準として生きて行く、 ってどこかで耳にした。

確かに、あの頃人気があった可愛い子達は今でも自信があって自己評価が高い。私はと言えば、15歳頃のモテないフツー以下な私という基準と供に地味に暮らしてきた。

高校生の時、カウンセラーから醜形恐怖症って診断された。自分の顔が本当にフツー以下で嫌いだった。友達との写真にもうつりたくなくて、わざとピースで顔を隠した。

たぶん、大学デビューや社会人デビューは、その思春期に自分で作った低い自己評価のイメージから脱して一発逆転をはかりたい人々のクーデターの様なものなんじゃないかな。


整形するほどじゃないでしょ、って母親から言われたけど。美しい人々のあの圧倒的な勝者感と、存在しているだけで周りに与えられる幸福感とオーラ。一度きりの人生の中で女としてのお得感を私も味わってみたいって、表参道を歩いていた時に実際に目にしたモデルの女の子を見た時に思った。 とにかく、あの顔の小ささに衝撃を受けた。まあまあじゃなくて美しくなってみたかった。

私が整形を最初に始めたのは、短大の2年の時。当時付き合ってた彼氏に、「おまえ、スタイルは良いのにな、」って。彼が何気なく放った言葉、本人は覚えてもいないだろう。その言葉を聞いた時の情景、居酒屋で彼が左側にもたれた壁には醤油が飛んだ1円玉大のシミが丸く付いていて、その上にはメニューのアジフライ四五〇円って書かれた黄ばんだ紙の札が貼られてた事すら私は鮮明に覚えてるの。

私の身長は168で、手脚は細くて長い。

整形する子達には2パターンあって、

もともと綺麗なのに意識が高いからもっと綺麗になりたい子達。ダイエットして顔が変わったの、っていう言い訳がギリギリ通用するぐらいのうっすら顔を変える自己満足系。と

本当に自分の顔が嫌いで、全くの別人の顔に変えるタイプ。他者満足からの自己満足系。

私は後者、ニューヨークに来たのは、新しい顔で新しい人生がしたくて、ここの人々は誰も過去の私を知らない。

名前は、楠木亜美 32歳、ニューヨーク歴1年8ヶ月。

本当の名前は田川浩子だけど、自分の名前もイヤで、母親の旧姓が楠木だし。浩子ってよくいる名前で嫌い、昭和感強いし。ヒロコって名前の絶世の美女に、今までの人生で会ったことがない独断だけど。

ニューヨークに来てすぐに付き合い始めたのは、韓国人の彼氏、37歳。彼はお金持ち。語学学校のクラスメイトで韓国人のソヨンにコリアンタウンにあるクラブに連れて行ってもらった時に知り合った。初めて行ったコリアンタウンにあるクラブは、踊るクラブなのにテーブルやソファーが幾つかあって、高いフルーツ盛りをオーダーするお客さんや、ビールの中にショットグラスに入れたウィスキーをグラスごとビールグラスに落として、紙ナプキンで蓋をして回転させてから飲むトルネードとかいう強いお酒を一気に男同士で飲んでいて派手だった。彼はちょっと引いている私にトルネードは飲まなくていいよって優しく話しかけてくれた。

来た当初、私はブルックリンのFlatbushに住んでたけど、付き合ってすぐに彼のアッパーウエストの部屋に一緒に住む事になった。憧れのセントラルパークの近く、今では私の学費も払ってくれている。

彼は私の顔が大好きで、今までの人生、彼氏には尽くしてばっかりいた私を姫扱いしてくれて、なんでも買ってくれる。この間はピンクのエルメスのミニバーキン買ってくれたし。5つ星フレンチレストラン、ダニエルのディナーとスフレも食べた。整形のメンテナンスしたいから理由は言わずに欲しい物があるのって言えばおこずかいもくれる。トイプードルのモカも一緒に飼い始めた。

「君は、ハイメンテナンス(維持費が高い)なんだから、ははは、」って笑ってた。彼は甘えられるのが好きみたい。アジア人男性は少女の様な可愛い高めの声を出して甘えれば、だいたいは嬉しそう。

私の顔が嘘って事も知らない。

韓国は整形大国だから、そんなこと気にしてないのかも、

見た目が美しくないと、クラブやバーにすら入れてもらえないって国に呆れて、韓国から帰国する事に決めたアメリカ人女性の記事をネットニュースで読んだ。前の私だったら、色んなお店で拒否されてたかも、想像したくも無い。

昔の顔見られたら、振られるのかな?私。

美人になれたけど、たまに昔の浩子だった頃に抱いていた気持ちが蘇ってきて、今の顔に合った振る舞いが出来ない自分がいて、時々戸惑う。

でも、新しい顔になってから自撮りも好きになった。ニューヨークのお洒落なカフェとか、小顔に見える様に顔に手を添えた上目遣いのセルフィーとか、日本には無いビクトリアシズークレットのPINKのお店で撮った写真とか、新しいネイル、キラキラのクロムパウダーネイルとかプードルのモカちゃんを連れてセントラルパークを散歩してる写真をアップしたニューヨークのプチセレブ ブログも始めた。

会った事も無い2〜3人の私のブログの固定ファンみたいな男性2人、タカクンさんとヤマックスが「いつもお美しいアミさん♡」、「亜美ちん、超絶かわいいっ!ですねー!!!!」、「素敵なレストラン、ニューヨークライフ憧れます!」とか、ブログをアップする度にコメくれて。ちなみにタカクンさんのアイコン写真は黒い犬で、ヤマックスのは萌え系アニメのキャラの女の子で、二人はどんな人なのかもわからない。

女の子のファンのマコポンからは、ちなみにマコポンのアイコン写真はマカロン。「亜美さん、メチャキレイでヤバ可愛いです(((o(*゚▽゚*)o)))♡」。

とかコメントもらってるけど、

実際、ニューヨークに来たら、日本では、あんなにもてはやされる二重まぶたなんて、ここでは当たり前で、アジア人の切れ長な一重まぶたは美しくエキゾチックで、少しぽっちゃりぐらいがセクシーで人気がある。美しさの価値観なんて場所や人種で変わる、、ここに住み始めて気がついた。アジア人の肌質、黒髪ストレートヘアは、カーリーヘアの白人の子からしたら憧れ、触っていい?って聞かれれる事もある。自信があって明るくコミュニケーションが上手い女性が人気があって、顔の造形のブスさはあまり誰も気にしていないし、男性達の好みも様々。 日本人男性の美の基準範囲ってなんて狭いんだろう、ほんとコンサバ。

でも、私の見た目だけ好きな彼氏と、ニューヨークでのリッチな生活と、2〜3人のファンからのブログへのコメントと62人ぐらいからのイイね!じゃ、なんだか満たされなくなってきたな。

と思ってた頃にヒロ君に出会った。

語学学校の新しいクラスが始まった日、カンバセーション(会話)のクラスで10人くらいの生徒がいる教室に円の様に並んだ席の隣の椅子に座った彼の事が気になった。

クラスで、日本人同士なのに英語でちょっと照れながら会話して、

ヒロ君は「このあと、お茶しよう」と誘って来た。

休み時間にお茶して、ヒロ君は3歳年下で学生、週末だけバイトをしているって知った。学校が終わって途中まで一緒に帰ったりしてるうちに自然な流れでデートする事になった。

ヒロ君は凄く積極的で毎日「亜美ちゃんてほんとにキレイ!もちろん天然なところも好きだよ」 って言ってくれる。少し罪悪感もあって、私の事を本気になってきちゃったから彼氏がいる事を彼に伝えたんだけど、ヒロ君の闘争心にもっと火をつけちゃったみたいで「俺、その彼から君を奪うよ、マジで」って。「今は学生だから、こんな状態だけど、日本に戻って仕事始めたら、亜美ちゃんと一緒に暮らせるし」って言ってくれた。キャー、整形前の私では言われた事の無いセリフ。ヒロ君の前では少しだけ微笑んでクールにはしてたけど、心の中では、キュン死!めっちゃ嬉しかった。

男の人って、ほんと、見た目が違うと女性に対する態度が違う。ふーん、こういうのが美人がもらえる台詞なんだ、だから美人の人々がドヤ顔してお洒落ストリートを闊歩しているのねって納得してしまった。

でも、ふと心によぎる。もし整形してなかったら、私こんなにモテてなかっただろうし、きっとヒロ君は私にこんなに夢中にはならなかっただろう、、、って思うと心がグッと下に引っ張られる。

男性が新しい顔の私に優しければ優しいほど、亜美の嬉しい気持ちとは裏腹に浩子の虚しい気持ちにもなる。

でも、私はもう浩子じゃない

けど、、、

整形前の浩子の私はヒロ君が好き、だけど、整形後の亜美は韓国人の彼と一緒にいる事が必要なの。

ヒロ君のことはタイプだしカッコいいし大好きだけど、彼はあと半年で日本に帰ってしまう、帰国後は千葉にある実家の仕事を継ぐらしい。

将来はわからないけど今のヒロ君はバイトして、私とのデート代を出してくれて頑張って口説いてくれる。韓国の彼は、ぶっちゃけ、いい人だけど、あんまりタイプじゃないブサイクでは無いけど、体はダルダルで、、朝からキムチの匂いが口から臭う時は少しげんなりする。キムチは大好きだけど、なぜ体内に入って口から出る息はあんな匂いに変わっちゃうんだろう。だけど彼と一緒にいればニューヨークのリッチな生活は保証されてるし、デートの時に私のバッグも持ってくれて優しいし。彼のオモニ(お母さん)は怖いけど。

その後も毎日ヒロ君とは学校で会って、帰りにお茶して、、週に1度はヒロ君がルームメイトと住むハーレムのアパートにも通った。駅まで私をスケボーで迎えに来るヒロ君は本当にカワイイ。

だけど、予告通り半年後ヒロ君は、日本に帰国した。

私は、その約2カ月後、韓国人の彼にハリーウィンストンのリングと供にプロポーズされた。

ヒロ君が好きだけど、未来のわからないヒロ君と結婚して日本に帰って、整形前の私の生活には戻りたくない。自分の事を意識高い系だとは思ってないけど、週に最低1回はネイル行かなきゃだし、ヘアサロン、スキンケア、新しい服、女ってほんとお金がかかる。一度いいものを覚えちゃうと前の生活には戻れない。私にとってニューヨークのセレブライフは捨てられないし、新しい顔の亜美の生活も続けたい。

しかも、ヒロ君が私の昔の写真を見たらどう思うんだろう。

プロポーズされた時、あの婚約指輪は喉から手が出るほど欲しかったし、家で彼がシャワーを浴びてる間にこっそり指輪を試着したけど。韓国人の彼には「日本に一度帰国して、両親に話してから返事をするね、」って答えた。


プロポーズから3週間後、日本に一時帰国した時、ヒロ君と恵比寿で会う約束をした。

待ち合わせのカフェに先に着いて、キャラメルラテを頼んだ。

Jeremihの『Oui』が店内から流れて、地下鉄の席で、隣に座ったヒロ君が左側のイヤホンを貸してくれた時に聴いた曲だなって。

デリで買ったターキーのサンドイッチを公園で食べながら「ターキー食べると眠くなるって知ってた?」ってヒロ君に聞いたら、「じゃ、学校さぼって芝生で寝よう」って、楽しかったなと思っていたら。

仕事帰りのヒロ君は、今までカジュアルな私服姿しか見た事が無かったけど、綺麗に体のラインに合った新しい濃いグレーのスーツ姿でカフェの入り口から入ってきた。

ああ、やっぱりヒロ君が好きって思った、、、

彼も、まだ私を好きって言ってくれた。

けど。

「私、韓国人の彼と結婚する事に決めたの、、、」って、

浩子時代の私を知らない純粋な彼のことをガッカリさせたくなくて、目一杯、美人の亜美のままヒロ君とさよならした。

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