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今回から、5thアルバム『Help!』収録曲の解説に移ります!
世界を制覇したビートルズが、巨大化していく渦に巻き込まれながらも、大きな変貌を遂げ始める1965年。
書く緊張感も高まりますが、楽しんでいきたいと思います。

アルバム『Help!』について

ビートルズ5枚目のアルバム『Help!』は、1965年8月6日に発表されました。
この年、同名でのビートルズ2作目の映画が公開されたため、『A Hard Day’s Night』と同じく、映画のサントラ盤として制作されています。

アルバムの構成は、『A Hard Day’s Night』同様、前半が映画で使用されたオリジナル楽曲、後半が未発表の新曲やカバー曲というものです。
内訳は、レノン=マッカートニー作が10曲、ハリスン作が2曲、カバー2曲
前作『Beatles For Sale』からメロディが印象的な楽曲が増えているように思います。

着目すべきは、ジョージ作の楽曲がじわりと増えていること。
“Don’t Bother Me” 以来自作曲の無かったジョージですが、本アルバム以降、ジョージの自分のスタイルを追求する旅が始まります。

映画『Help!』について

かわって、映画『Help!』は、アルバムの発売に先立ち、イギリスでは1965年7月29日に公開されました。
監督は『A Hard Day’s Night』に続き、リチャード・レスターが務めました。

<あらすじ>
バハマのカルト教団がある日、生け贄につけなければならない指輪が無くなっていることに気付く。その指輪がリンゴ・スターの手に渡っていると判明し、教団の一味は指輪を取り返すためにビートルズの追跡を開始。
指輪で一儲けを企む悪徳科学者も出現し、指輪とビートルズをめぐるドタバタコメディが始まる!

あらすじからも分かる通り、非常にナンセンスなコメディ色の強い内容です。
更に、ビートルズの人気によって予算をかけられるようになったことから、海外ロケ複数、カラー撮影、果ては陸軍まで動かして火薬ぶっ放し放題という、非常にハデな制作となりました(笑)

また、前作『A Hard Day’s Night』同様、リンゴが主役級の役を振られているのも楽しいポイントです。
リンゴの演技力は前作から注目されており、今回もその期待に違わぬチャーミングな立ち回りを披露してくれています。

実際にご覧いただくと、どれだけ金をかけてバカバカしい映画撮ってんだという感想を抱かれると思います(笑)。
当時も今もビートルズの愛され具合を教えてくれる映画ですので、未見の方はぜひご覧ください!

世界の中心で「助けて」と叫ぶ “Help!”

『Help!』1曲目。
ジョンの作品で、リードボーカルもジョンが務めます。

日本では、あの某お宝鑑定番組のオープニングでお馴染みですね。
これ以上ない疾走感をもったトップナンバーで、当時のビートルズの勢いを象徴するかのようです。

一方で、歌詞はもはや説明不要と言えますが、自らの切羽詰まった内面をこれでもかと叫ぶ内容です。
“I’ll Cry Instead” や “I’m A Loser” など、恋愛話の皮を被って内面を吐露する曲はありましたが、この曲のように直接的に自分の心を歌うのは初めてでした。

1965年のビートルズは、文字通り巨大化する渦の中にいました。

最も分かりやすいのがツアー活動。
止まることを知らないビートルズ人気は、怒涛とも言えるライブ数を4人に強いました。
一方で、あまりにライブが増えすぎたことで、レコーディングやプライベートの時間が全く取れず、メンバーの生活が破綻する恐れすら出てきました。

そこで、マネージャーのブライアン・エプスタインは、観客動員数はキープしつつライブの数を減らそうと、より大きな会場を押さえるようになります。
結果、ビートルズのライブは、大型球場など巨大化の一途を辿ります。

アルバム『Help!』発表後のシェア・スタジアムでは、ポップスのアーティストとしては当時最多の5万人を動員したと言われています。

ところが当時の音響技術では、これだけの大会場に十分に音を行き渡らせることができず、更に金切り声にかき消された演奏は、当のメンバーですら聴くことが出来なかったそうです。

こうした環境の中で、徐々にメンバーはツアーに時間を使う意味を見出せなくなっていきます。


とりわけフラストレーションを感じていたジョンは、ストレスで太ってしまうほどだったといいます。
後年当時の自分をジョンは「太ったエルヴィス」と言っていますが、確かに上のMVを観ると、デビュー直後に比べて身体が厚くなっています。

『Help!』の歌詞は、そんなジョンの心情が、特に狙うこともなく無意識的に出たものだったそうです。

ところが、当時のファンにしてみればそんなこと知ったこっちゃない訳で。
この強烈な叫びは、タンバリンの軽快な音や、ポールとジョージによる完成された追っかけコーラスと共に、皮肉にも更なる人気への起爆剤になっていったのでした

こうした生々しい感情を普遍的なものにする能力こそが、ロックスターからアーティストへと成長していくビートルズの、新たな魅力となっていったのですね。

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