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The Beatles 全曲解説 Vol.50 〜I’ll Cry Instead

見え隠れし出すジョンの苦しみ “I’ll Cry Instead”

『A Hard Day’s Night』9曲目(B面2曲目)。
ジョンの作品で、リードボーカルもジョンが務めます。

前回の “Any Time At All” で、健気なまでに真っ直ぐな愛情を歌ったジョンでしたが、今回は一転、失恋からやり場のない感情に苛まれる主人公を描きます。

一方で曲調は軽やか、アコースティックな音が目立つ、乾いた感じの演奏です。
アルバム中最も短い演奏時間であることも、歌詞と対照的なあっさり感があります。

この曲、表向きには失恋ソングですが、前回紹介した当時のパートナー、シンシアによると、「当時のジョン本人の内面に渦巻いていたフラストレーション」について歌っているとのこと。

たしかに、「I’m gonna break their hearts all ’round the world 俺は世界中の女のハートをぶっ壊す/ Yes, I’m gonna break ’em in two そう、真っ二つにしてやるのさ」などの歌詞は、失恋ソングというにはあまりに大袈裟すぎる気もします。

何より自由であることを愛したジョン。
不良のロックンローラーから、世界のポップスターへと変貌を遂げていく中で、自分で自分に追いつけないような焦り・戸惑いや、思い通りにならないことが増えていったことは容易に想像できます。

皮肉にも、映画『A Hard Day’s Night』は、バンドの成功の土台となったと同時に、ファンに追いかけられ、レコード会社やマスコミにがんじがらめになった自分達の現状を、ジョンに強く自覚させたものだったのでしょう。

このように、 “I’ll Cry Instead” は、明確な形ではないにせよ、ジョンが自分の内面について歌った最初期の作品となりました。
この傾向は、ボブ・ディランとの出会いをきっかけに加速し、解散後すぐに大きな結実を見せることになります。

補足情報: ステレオとモノラル

“I’ll Cry Instead” のモノラルバージョンは、ステレオバージョンよりも演奏時間が長くなっています。

具体的には、冒頭の「♪I’ve got every reason to be mad」から始まる節が、2回目の「♪Don’t wanna cry when there’s people there〜」のメロディの前で、もう一度繰り返されています。

もともとは映画でも使用される予定だったとのことなので、短縮版を敢えて作っておいたのかも?

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