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中国・サウジアラビア包括的戦略パートナー協定に署名

習近平の野望

サマリー

 中国の習近平国家主席がサウジアラビアを訪問し、サルマン国王や、事実上の政策決定権限を握る実力者、ムハンマド皇太子などと会談した。両国は、「包括的戦略パートナー協定」に署名した。今後、エネルギー関連事業をはじめ、様々な協力関係を構築していくことになる。また、欧米諸国などからの人権侵害に関する批判・非難を、跳ね除ける方針でも一致したとされる。
 両国は、国家体制は、共産党一党独裁と君主制ということで、異なる面もあるが、独裁国家である点では一致している。また、人権に関する考え方が、民主主義国家とは、著しく異なっている点でも、共通するものがある。
 サウジアラビアが完全に中国側(独裁国家、専制国家陣営)に取り込まれてしまうことは、今後の民主主義陣営の安全保障戦略の上で、大きな障害となる可能性があるため、手段を尽くして阻止すべきである。

習近平の狙い

 習近平は、元々推進してきた一帯一路が、国際的には、あまり評判が良くないことを認識しているはずである。「債務の罠」などの批判が多いため、元々豊かな国であって、そうしたリスクを感じない、サウジアラビアを取り込む狙いが、あったものと推察される。サウジアラビアは、ビジョン2030という経済発展計画を実行しており、一帯一路を連携させることで、具体的な成果も出せるという思惑も見え隠れする。
 また、安全保障面でも、サウジアラビアは、アラブの大国であり、中東の要ともいえる存在である。対アメリカ、西欧諸国等への牽制という意味でも、サウジアラビアとの友好・協力関係を強化することには、中国にとって、相応の意義が認められる。
加えて、アラビア半島の大半を占める広大な国土には、莫大な量の原油が埋まっており、経済的にも極めて重要な地位を占めている。原油相場は、一時期よりは、落ち着いているものの、依然として高値圏にあり、その資金力は拡大している。そういったサウジアラビアの資本を活用して、一帯一路の発展も図ることも、習近平の狙いの一つであろう。

サウジアラビアの期待

 サウジアラビアは、資本力が大きいものの、ビジョン2030でも明示している通り、石油・ガス関連以外の業種の発展度合いは、不十分だとの認識がある。製造業やサービス業など、発展余地が大きいと期待されている。その地理的優位性を発揮するためにも、物流インフラの整備などは不可欠である。その面で、中国の経験やノウハウの活用なども期待しているものと推定される。
 また、アメリカや西欧諸国への牽制ということも、サウジアラビアが中国と接近する理由の一つであろう。ここ近年は、サウジアラビアの人権侵害や人権抑圧に対する批判も少なくないため、同様の立場にある中国と連携することで、そうした批判を跳ね除けたいという意図は感じるところである。

エネルギー資源分野の協力

 中国は、元々エネルギー資源の調達先として、サウジアラビアを重視してきた。今回の合意には、エネルギー資源の供給についての合意事項も含まれている。中国としては、安定的な供給源を確保することが可能となり、サウジアラビアとしても購買力のある中国への長期的コミットメントが確立すれば、将来の安定性が増すという判断なのだろう。
 先々の資源開発についても、中国が協力しつつ、さらなる採掘可能な資源量の拡大を図っていくものと見られる。インフラ構築などでも中国系の企業が受注していく案件が増えていくものと見られる。

中国の通信機器大手ファーウェイとの覚書

 ファーウェイは、中国の通信機器大手企業だが、技術の利用に関する覚書を、今回取り交わしている。アメリカでは、中国企業の排除が相次いでおり、ファーウェイの通信機器は、今年11月、他の中国IT大手と同様に、アメリカにおける輸入、販売が事実上禁止されている。中国としては、自国の通信機器をアメリカ以外の地域に広げたい意向があるが、今回の覚書によって、成長著しいサウジアラビア市場に対して、安定的なアクセスが可能となった。これは、アメリカ等から見れば、経済安全保障上、脅威となり得る動きでもある。サウジアラビアは、元々親米色が強い国であったが、近年は、そうとも言えない面が見えている。ファーウェイの件は、場合によっては、アメリカとは違った判断をするという、サウジアラビアからのメッセージとも解釈される。

欧米諸国からの人権批判に対抗

 今回、注目されているのは、アメリカやヨーロッパ等からの人権問題に対する批判、非難に対して、両国が共同歩調を採ると確認された点である。
 中国とサウジアラビアは、以前から国内における人権抑圧等が問題視され、人権に対する意識が乏しいという批判を浴びてきた。しかしながら、両国は独裁国家体制であり、体制批判につながるような国際的な批判に対しては、強硬姿勢が目立っている。この点において、両国の利害は一致し、今後は、対抗措置などについて連携していくとされている。
 民主主義国家とは、人権意識に大きな隔たりがあるため、この点においても、中国とサウジアラビアが連携することは、緊張感を高める結果につながりかねない。さらなる人権抑圧が起こらないように、国際社会として対応する必要があるものと考えられる。

まとめ

 中国にとって、中東地域における影響力を増すことは、重要な課題だとされている。サウジアラビアは、中東の要として位置付けられ、従来から中国としても、関係性を強化していこうとしていた。
 今回の「包括的戦略パートナー協定」署名というのは、その流れにおいて、さらに一歩進んだ形になる。サウジアラビアは、元々は親米色の濃い国であったが、現時点においては、アメリカとの関係性が冷えている。
 アメリカとしては、長期的に中東地域の重要性が低下している面が否めない。さらに、現在のバイデン政権は、サウジアラビアに対して、人権問題などでは、厳しい姿勢を見せている。当面、アメリカとサウジアラビアの関係性が、劇的に改善する可能性は低い。
 中国は、その間隙を突いた形だが、サウジアラビア及び周辺の中東地域における存在感を増していくことにつながるのかという観点から、非常に注目される。
 日本としても、安定的なエネルギー資源の確保という課題も常に抱えており、東アジアにおけるパワーバランスも見据えて、戦略的に動いていく必要性を感じる。

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