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アメリカ経済:FOMCで利上げ決定

金融不安は消えていない:信用収縮リスク

FOMC:0.25%利上げ

 5月3日にFOMCの結果が発表され、政策金利が0.25%利上げされた。新たな政策金利は、5.00%-5.25%となった。従来、利上げの最終到達点として想定されてきたレンジになっており、打ち止め感が出るとの期待があった。
 しかしながら、利上げ打ち止めに関する明確な表明はなされず、さらなる利上げの可能性が残された結果となっている。そのため、市場では、FRBの行き過ぎたタカ派的姿勢に対する警戒感も強まっている。
 First Republic Bankの破綻直後ということもあり、信用収縮への懸念も高まっている。その中で、FRBは、今後もタカ派的姿勢を維持するという可能性が強まったため、アメリカ経済が急激かつ大幅な景気後退に見舞われるリスクが高まってきたという見方が広がっている。

金融不安は依然として残る

 Silicon Valley BankとSignature Bankの破綻をきっかけに、アメリカでも金融不安が急速に台頭し、世界的な広がりも見せている。アメリカ国内においても、地方銀行等では、経営的に問題があるのではないかという疑いをかけられる金融機関が続出している。
 その流れの中で、First Republic Bankが行き詰まり、最終的にFDICが管理下に置くと同時に、JP Morgan Chaseがその預金全額と資産の大半を買収することが決まった。わずか2か月の間に、中堅規模の地方銀行が3行も破綻するというのは異常事態で、金融不安は、まだ続いていると考えられる。
 しかも、昨日のアメリカ市場では、PacWest BancorpやWestern Alliance Bancorporationが、通常取引終了後の時間外取引で、株価が急落している。PacWestに関しては、身売りを検討しているとの報道もあり、非常に厳しい状況に追い込まれていると見られている。
 この状況で最も懸念されるのは、経営上の深刻な問題がなかったとしても、噂や思惑で、取り付け騒ぎのような状況になれば、それが本当の問題に発展することも考えられる点である。

銀行が破綻するのは、流動性の枯渇が直接的原因

 そもそも、経営破綻に至った銀行の直接的な破綻のきっかけは、流動性の枯渇である。預金が急速に流出し、支払い能力が尽きたため、経営破綻せざるを得ない状況に追い込まれたわけである。バランスシート上の債務超過や有価証券の含み損などは、決して良い話ではないが、それだけでは破綻には至らない。そういったネガティブな情報を基に、預金の大量かつ急激な流出が起こってしまって、支払いができなくなるところまで追い込まれてしまって、破綻となるわけだ。
 株価の暴落は、そうしたネガティブ情報の中でも大きなものであり、「株価が銀行を破綻させる」ということも起こる可能性がある。そういった観点から見ると、株価が暴落したということの持つ意味は、非常に大きいと言える。

金融不安が招く信用収縮

 金融機関の経営に不安が広がると、経済全体への影響は避けられないと考えられる。とりわけ、信用収縮というのは、大問題である。
 銀行などは、融資の審査を厳しくしていくことが求められる。資産内容に疑義が生じることを避けるためには、与信管理を徹底し、厳しく審査することが必須だからだ。貸倒率の上昇など、資産内容が劣化すれば、銀行の経営状態に不安を覚えた預金者が預金の引き出しに走る可能性が高い。
 SNSで情報は拡散し、さらに尾ひれまでついて、必要以上に問題を深刻化させていく。こういった形での情報拡散などがなければ、そこまで深刻な状況至らなかった程度の経営実態だとしても、情報拡散の結果、急速な預金流出が起こると、本当に深刻な事態に至ってしまうわけである。SNSなどを経由した情報拡散の速度と規模は、かつてないほどの水準になっており、一旦、疑義を唱えられてしまうと、引き返すことができない面が多々ある。
 そういった疑念を全く生じさせないように、細心の注意を払う必要があり、そのためには、融資の絞り込みなども必要になってくる。安心・安全を演出するためにも、与信管理を徹底させるわけである。
 しかし、マクロ的には、これは大問題につながる行動である。個別の金融機関にとっては、極めて合理的な行動だが、マクロ的には、信用収縮の悪影響が顕在化する。
 経済全体としてみると、資本市場への資金供給が十分に行われず、金融機関に資金が滞留するような状態に陥るわけだ。これは、経済活動を停滞させ、成長を抑制する要因になる。その結果、急激かつ大規模な景気後退が、発生するリスクが高まることが想定される。

FRBには柔軟な政策運営が求められる

 こうやって見てみると、FRBに対しては、柔軟な金融政策が要求されるのは自然なことであろう。FRBがかたくなにインフレ退治を優先事項として、高金利政策と量的引き締めを継続していくと、信用収縮の悪影響は、むしろ増幅されてしまう。
 金融政策が引き金となった、大不況の発生という可能性すら指摘される。その意味で、今回のFOMCで表明された、タカ派的姿勢の維持というメッセージは、市場の不安を高める結果となってしまったと理解されよう。

アメリカ経済は今年の夏が正念場となる

 現時点では、アメリカの経済指標等は、比較的堅調なものが多くなっている。とりわけ、雇用に関する統計データでは、未だに、マクロ的には労働市場が逼迫していることが示唆されている。
 結局、アメリカのインフレ率高止まりは、労働市場の逼迫を背景とした、賃金上昇率の高止まりが原因と考えられるために、労働市場が緩まない限り、インフレの芽は残ると考えられる。
 そして、それゆえに、FRBとしては、タカ派的姿勢を維持せざるを得ないという面もある。FRBは、合理的理由なく、金融政策を転換できないものである。
 このまま引き締めを続けると、ある時点で、急激に経済活動が鈍化する可能性は高い。時期としては、おそらく年央、つまり夏場における景気の急激かつ大幅な後退が懸念されている。いわゆるハードランディングは、避けられないのかもしれない。
 アメリカ経済のみならず、世界経済全体にも波及するため、非常に重く受け止めるべき問題であると私は思う。

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