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2023 広島サミットの成果

世界の政治・経済が新たな枠組みに移行していることを再確認

広島サミットの成果

 世界初の核兵器の被爆地、広島において、サミットが開催されたことは、それだけでも意義深いものがあるが、今回は、各国首脳がそろって平和記念資料館を訪れ、献花したことも、極めて大きな成果であった。
 核兵器の使用がいかに人類全体にとって罪深いものであるかということを、今更ながら、世界に再認識させると同時に、核兵器を威嚇の手段として使っているロシアや北朝鮮に対する強い牽制となったことは間違いない。中国についても、核兵器を保有し続けて、周辺国に強い圧力を感じさせている点から、今回の核兵器廃絶への道を歩むべきだという宣言については、かなり強烈な批判になっていると感じているようだ。これは、大きな成果だと評価されよう。
 もちろん、核兵器廃絶への道は、非常に険しく、厳しい展開が予想されるが、その歩みを進めると同時に、現時点における人類全体への脅威を少しでも軽減させようという各国の熱意、何よりも議長国日本の決意を感じさせるものであったことは、非常に高く評価される。
 私自身は、核兵器廃絶が、容易ならざることであり、今後も人類はその脅威と長く付き合うことを余儀なくされると考えている。実際に中国、ロシア、北朝鮮というような、人権を抑圧し、暴虐な行為をいとわない国々が核兵器を保有し、圧力をかけてきている現実を見れば、日本列島も核の傘に入っていなければ、到底安全を確保することはできないと認識している。非武装中立のようなお花畑的な考え方で、生き残れるほど、世界は、甘くないことは十分に認識している。
 だからこそ、現実に生じている脅威を軽減していく上でも、今回の強いアピールは、意義があると考えている。世界の国々は、ロシアが核兵器の威力をちらつかせることを、決して容認しないと示したことで、現実に生じているウクライナ戦争における核兵器使用のリスクを軽減する効果があったものと考えている。ロシアの核兵器使用リスクがゼロになったわけではないが、それを軽減させただけでも、有意義だと考えるものである。
 中国や北朝鮮のような国々についても、間接的な抑止効果は、あったものと考えられる。G7が一致団結し、人類に対する犯罪的行為を許さないという姿勢を見せたことは、極めて大きな成果である。それで、中国や北朝鮮が、何等かの改善を見せることはないとしても、今後、暴虐な行為を行うリスクを軽減することには、つながるであろう。

世界の政治・経済の分断化は不可避である

 そして、今回もはっきりと確認できた事実としては、少なくともG7の各国が、中国、ロシアを中心とする独裁国家、権威主義国家とは、明らかに相容れない価値観を持っているということである。人権を抑圧ないしは無視した行為に対しては、断固たる姿勢で臨むことを明確化している。
 世界が新たな枠組みに移行していることは明らかであり、この動きは不可逆的なものと考えた方が良いだろう。
 一方で、今回G7以外で招待された国々の中には、必ずしも中国やロシアと距離を置いているわけではない国も存在する。その代表格がインドであり、ブラジルである。
 インドは、第三極、最近ではあまり使わなくなったがグローバルサウスの代表的な国であり、ロシアとの距離感が非常に近い。インドは、中国とは歴史的に対立関係にあるが、ロシアとは、非常に近しい関係性を維持してきた。対ロシア経済制裁には協力的ではなく、ロシア産の原油等を大量に購入し続けている。そうした意味で、間接的にロシアの戦争継続に貢献している面もあり、一筋縄ではいかない国である。
 また、ブラジルにしても、ロシアや中国との友好的関係を重視している姿勢が垣間見える。今回のサミット参加中にも、経済の分断に関する批判的な意見を演説内で示しており、中国やロシアとの分断化に反対しているものと見られる。ブラジルの現政権(ルラ大統領)は、親ロシア、親中国の姿勢で知られており、違和感はない。
 こうした第三極(グローバルサウス)の国々を、いかに民主主義、自由主義陣営側に引き込むのかという点は、依然として課題である。新興国・途上国の中には、独裁政権が支配する国も少なからず存在している中、非常に厳しい課題ではあるが、権威主義、独裁国家陣営に対する牽制、制裁を有効なものとする上で、避けて通れないと考えられる。

ウクライナのゼレンスキー大統領の参加

 今回のサミットには、戦時下のウクライナから現職の大統領が参加するという、画期的な出来事があった。ゼレンスキー大統領は、厳しいスケジュールを縫って、日本訪問を実現している。
 ゼレンスキー大統領の要請を受けて、日本としても自衛隊車両100台の提供を表明し、最大限の支援を継続することを確約した。日本以外のG7各国も、ウクライナへの支援継続で一致しており、ロシアに対して圧力を高めている。
 もちろん、西側諸国も一枚岩ではない。ヨーロッパの一部では、支援疲れという声も上がっており、早期終結を望む人も多くなっている。それは当然のことであり、早期終結が望ましいことは間違いないが、現実的には、ウクライナが完全にロシアを排除することは容易ではないため、かなりの長期化が予想されている。
 対ロシアで安易な妥協をすることは、全世界のルールを捻じ曲げることになる。それは、東アジアの地政学的リスクをも高めることにつながりかねない。中国は、当然、太平洋への進出を早めようとするであろうし、台湾への武力侵攻の可能性も高まるであろう。日本とて他人事ではない。そうした意味で、ロシアの暴挙を許すことは、日本の国益をも損なうことは間違いない。戦争が長期化することは、非常に不幸なことであり、早期解決への努力は続けるべきではあるものの、ロシアを利するような譲歩は、大きな問題を引き起こすことになる。従って、日本を含めたウクライナを支援する国々としては、支援体制を強化し、ロシアが全面撤退する方向に導くしかないと言える。

ウクライナは終戦後の復興を視野に入れている

 今回、ウクライナは日本に対して、戦後の復興支援を要請してきた。経済的には、ほぼ壊滅的な損害を出していると考えられるため、その復興には、巨額の資本や資源が必要になることは間違いない。人的な支援も含めて、日本としても、戦後復興には最大限の援助をすべきであろう。もちろん、日本単独ではなく、世界的な支援体制が構築されることになるであろうが、極力短期間で、戦後復興を果たせるように協力をしたいものである。
 穀物生産に関しても、世界的な影響を考えると、極力早期に回復させたい。一部の国では、ウクライナ産の農作物の輸入が減少している影響で、食糧問題が発生し、危機的状況に陥っている場所も見られる。そうした悲劇の拡大を阻止するためにも、ウクライナの農業も含めた復興は、必要不可欠な要素となろう。世界のためにも、ウクライナは、戦前の姿を速やかに取り戻すことが必要である。残念ながらまだ戦争の集結時期は分からないが、いつ終戦となっても対応できるようにはしたいものである。

世界経済は下振れリスクを抱えている

 現在の世界経済は、アメリカや日本は比較的堅調に推移しているものの、ヨーロッパが戦争の影響もあって停滞を余儀なくされていることもあって、全体として、あまり力強さを感じない状況になっている。中国は、依然として経済活動が回復しておらず、むしろ長期的な衰退への道を歩みだしている可能性が指摘されている。インド等の新興国には、非常に好調な経済成長を実現している国もあるが、世界経済を牽引するには至っていない。
 今後の見通しについては、むしろ下振れリスクが高まっているとも言える。世界経済を支える上で、比較的堅調な歩みを見せているアメリカ経済の存在は不可欠の要素だが、ここに来て、アメリカにもリスク要因が多くなっている。
 目先、非常に気になるリスクとしては、債務上限問題がある。可能性は極めて低いと見られるものの、万が一、アメリカ政府がテクニカルデフォルトに陥った場合、世界経済が受けるダメージは計り知れないものがある。アメリカドルは、世界の基軸通貨であり、アメリカ国債が無リスク資産であることは、世界の金融取引の前提条件になっている。それが通用しなくなれば、世界の金融取引、経済活動は、大混乱に陥ることになる。
 さらに現実的に起こり得るリスクとしては、アメリカの金融政策が過剰な引き締めを長期化することになり、経済がクラッシュしてしまうことが挙げられる。次回のFOMCでの利上げの可能性は、現時点(2023年5月22日午前11時半現在)で、1割程度と見られているが、一旦は利上げが見送りになったとしても、強い引き締め状態が長期に渡って継続すれば、アメリカ経済は、突然失速してもおかしくはない。金融政策の効果が発揮されるまでには、かなり長い時間を要することもあるので、気付いた時には手遅れになるというリスクは否定できない。アメリカ経済が崩れれば、世界全体への波及も避けられず、思わぬ大不況という事態もあり得ない話ではない。
 現時点においては、まだリスク要因として認識される程度ではあるものの、時間経過とともにそのリスクは増大しつつあるため、警戒心を持ち続けることは大事になる。日本としても、順調に回復しつつある経済の足取りをより確かなものとする意味でも、財政政策を積極化させることが求められよう。世界経済の不安定性を感じる今だからこそ、日本としても独自の経済対策、刺激策が求められている。

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