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原油相場は当面強含みとなる見通し

OPECプラスの会合でサウジアラビアの100万バレル自主的追加減産に合意

OPECプラスの会合の結果

 6月4日に開催されたOPECプラスの会合において、減産措置の期間延長と共に、サウジアラビアによる日量100万バレルの自主的追加減産が合意された。サウジアラビアなど主要産油国としては、需給の緩みを改善し、価格を上昇させたいという狙いがはっきりしている。
 今回のOPECプラスにおいては、アフリカ諸国から減産措置の前提となる生産枠について、見直しの要求も強く出ていたため、会合の開催時間が遅れるなどの影響があった。それもあって、OPECプラス全体による減産強化は実施されず、あくまでもサウジアラビアによる自主的な追加減産という形で、100万バレルの供給減となることが決まった。
 サウジアラビアは、自国の財政均衡を達成できる原油価格が80ドル台と見られるため、経済的な観点から、原油高を望んでいることは間違いない。とはいえ、脱炭素を加速させて消費量を減少させていくような極端な値上がりも、長期的なマイナス要因となりかねないため、ある程度の水準で高値安定を狙っているものと見られる。

需要期の減産であり影響が懸念される

 タイミングとしては、アメリカでドライブシーズンに入っており、需要期になっている。今年の北半球の夏が、どの程度の暑さになるのかによっても需要量は変化するが、いずれにしても季節的には需要期である。そうしたタイミングで、全世界消費量の1%程度とはいえ、供給減が決まったことは、明確なインパクトを生じさせる可能性が高い。
 原油相場の代表的指標の一つであるNY市場のWTI先物価格で見ると、直近の70ドル程度のもみ合いから、上方にシフトしていくものと見られる。本日の時間外取引においては、高値で74ドル台に乗せたが、本稿を執筆中には、72ドル台に押し戻されている。今後、需給を巡る思惑から、強弱感が入り乱れ、相場も乱高下する可能性が指摘される。方向感としては、上向きだが、価格は安定しないという見方である。

中国経済は低迷し原油需要も伸びない

 需要面では、弱材料もある。中国の経済活動が、予想通り低迷しており、原油消費量も思ったようには拡大していない。中国は、対コロナ政策が結果的に失敗し、経済的混乱を招いた。その影響から、未だに抜け切れていない。短期的には、むしろ大きな落ち込みが懸念される状況である。
 中国については、長期的な見方も非常に厳しい。私自身は、中国が既に成長期を終えて、成熟期を楽しむことなく、衰退期に入ったものと見ている。今後、中国経済は、目立った成長を見せることなく、緩やかに衰退していくものと予想している。一時期言われていたような、GDP規模でアメリカを抜いて、世界一になるというような話は、過去のストーリーとして忘れた方が良いだろう。つまり、長期的にも中国は、世界経済並びに世界の原油需要を牽引する存在にはなり得ないものと考えている。
 中国は原油需要拡大の牽引車とならないが、インド等の第三極(グローバルサウス)の国々は、基本的には成長を遂げ、世界経済全体としても長期的に成長を続けるものと期待される。しかしながら、現時点における経済規模は相対的に小さいため、世界経済を大きく成長させるには力不足であろう。長期の成長ドライバーとしては期待されるものの、足元の影響力はそこまででもないということだ。

世界経済全体としても短期的には景気後退懸念が強い

 アメリカ経済は、世界経済における存在感も大きく、実際のところ、現時点では、最も景況感が強い国の一つである。むしろ、経済の過熱からインフレ懸念が根強いため、金融引き締めが長期化しつつある。行き過ぎた引き締めが長引けば、一気に景気が落ち込むというハードランディングシナリオが懸念される状況である。イールドカーブを見ても、逆イールドが長期化しており、市場の見方としても、深刻な不況に陥るリスクがあると見ているものと解釈される。
 ヨーロッパ経済は、ロシアによるウクライナ侵攻からの一連の流れで、エネルギー面でも課題を抱えており、経済は引き続き振るわない。力強い成長を期待するには、無理があるのも事実である。ウクライナ戦争が早期に終結する見通しが立たないため、現時点においては、経済的には厳しい見通しとなっている。今後数年に渡って、現在のような状況が継続するリスク存在している。さらに言えば、ウクライナ戦争の戦火が拡大する懸念もある。ロシア次第の面が強いが、戦術核兵器を含む大量破壊兵器の使用がということが万が一生じた場合、NATOの参戦を招き、ヨーロッパ全域あるいはさらに広い地域を巻き込んだ大戦争に至る可能性も、完全には否定できない。
 まとめると、アメリカ経済の動向次第では、世界経済は、今年後半以降、不況に陥るリスクは存在している。最悪のシナリオとしては、ヨーロッパにおける戦火拡大だが、それは、現時点では非常に限定的なリスクであろう。ただ、そこまでいかないまでも、ヨーロッパ経済並びに世界経済に対しては、重石となる可能性が高い。中国は世界経済の牽引車とはなり得ず、インド等の第三極(グローバルサウス)もまだ世界経済を牽引するには力不足である。
 原油の需要拡大は、当面、限定的なものにとどまると考えられる。ただ、季節的には需要期における減産であり、原油相場は、強弱感入り乱れ、不安定な動きになるものと予想される。夏場にかけて高値を付けに行く可能性が高いと、私は予想しているが、一直線の上昇とはならないとも考えている。乱高下を繰り返しながら、夏場は高値で推移していく可能性が高いと予想している。ただし、世界経済が不況リスク抱えている以上、昨年の高値を抜くような極端な高騰はないであろう。

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