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中国は世界の工場の地位を維持できない

中国が世界の工場だという認識は過去のものに

 中国経済は、1990年代以降、世界の工場として、成長を遂げてきた。製造業の発展によって、経済の基盤が強化され、所得の伸びによって消費活動も活発化するという成長軌道を描いてきた。そして、データとしての信頼性は高くないものの、公式統計ベースのGDPで見れば、世界第二位の経済大国になっている。
 しかしながら、足元の状況は、経済活動よりも中国共産党内部の権力闘争と、一党独裁の維持・強化が優先されている。ゼロコロナ政策の強要と、その放棄による大混乱に見舞われている状況である。
そして、より長期的には、中国の成長シナリオ自体が、崩壊するリスクが高まっていると考えられる。経済の基盤となっていた製造業における競争力は、安定しない供給体制という評価が定着しつつあり、企業経営者の視点では、許容できないレベルのリスクとなりつつある。
 アップルの製造拠点の変更に象徴されるような、外国企業の生産戦略の変化、サプライチェーンの作り変えによって、今後、中国は「世界の工場」の地位を失うものと考えられる。既にその動きは加速度的に進みつつあり、中国経済の長期的な成長可能性には、暗雲が立ち込めている。

アップルの動向

 アップルは、従来、中国を生産拠点として位置付け、iPhoneの生産などでは、2021年には、約95%を中国で生産していた。しかしながら、ゼロコロナ政策及びその後の急激な緩和措置による社会の大混乱による影響で、生産がままならない状態が続いてきた。
 そうした状況変化を受け、アップルは、世界的な生産体制の見直しを急ピッチで進めている模様である。一言で言えば、リスク分散を意識した生産体制に、全世界的な再構築をしようとしている。中国に絞り込むことで、生産効率を高め、コストを低減し、利益を拡大するということであったが、集中のリスクを避け、分散化することで、より安定的なサプライチェーンを構築しつつある。結果的には、供給体制が安定化することで、機会損失を回避できので、利益確保にもつながるという考え方であろう。
 iPhoneの生産の8割程度は、台湾のホンハイが受託しているが、現在、ホンハイは、インド南部のチェンナイ近郊に大型の工場を設置し、現在の最新主力機種であるiPhone14シリーズの生産を始めている。同工場では、生産体制を整えながら、増産を進めているとのことである。
 アップルは、インドだけでなく、ベトナムでも、複数の製造企業に委託して、パソコン、スマートウォッチ、ヘッドホンなどの生産を拡大している。ベトナムは、中国と同じように共産党による一党独裁の国家体制ではあるが、ドイモイ政策導入以降、長らく資本主義経済の仕組みを取り入れており、比較的柔軟な経済政策を推進している。ベトナムとしては、経済発展を継続する上で、アップルのような巨大企業からの受託生産の重要性が高いと認識しており、様々な優遇措置も講じられているものと推察される。iPhoneの製造の一翼を担う可能性も報道されている。
 また、インド、ベトナム以外でも、メキシコ、ブラジルといった国々での生産の可能性も報道されており、アップルの生産戦略が、完全に分散化にシフトしていることを伺わせるものである。

部品供給に関しても中国の地位は低下

 iPhoneを始め、スマホで使われる部品に占める中国製の比率が、明らかに減少傾向だとの指摘もある。中核的な部品ほど、中国製を避ける傾向が強まっているものと考えられる。脱中国の流れは、ここでも顕著で、ハイテク部品の調達を中国に依存するのは、リスクが高過ぎるということであろう。
 アメリカは、高度なテクノロジーの中国流出を強く規制するようになっており、アメリカ企業のみならず、日本などの主要国のハイテク製品は、その規制対象となるケースが増加している。地政学的リスクの高まりもあり、経済の分断化は避けられない。単なる米中対立を超えて、民主主義陣営と独裁国家陣営の対立、新たな東西対立になっているというのが、正しい認識であろう。
 いずれにせよ、事実として、iPhoneなどのスマホにおいて、中国製部品の使用割合は低下している。例えば、iPhone14の高解像度のカメラで使用するCMOSセンサーは、ソニー製のものであり、日本メーカーの製品が使われている。日本経済復活への第一歩となる可能性も含めて、今後も注目される。

まとめ

 アップルの生産戦略の変更は、一つの事例に過ぎないが、それに類する世界の巨大企業の動きは、今後、さらに活発化していくものと予想される。
 今や中国が世界の工場だった時代は、終わりを告げ、製造業の拠点は、インドや東南アジア、中南米などに分散化していくものと見られる。そして、日本もその一つの候補地であり、実際に、先端的な半導体産業の日本シフトが進みつつある。日本企業のみならず、TSMCのような外国企業も含めて、日本を有力な拠点としてとらえる動きもある。これは、日本経済復活のチャンスである。

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