稲川望 ジュマ・ネット〜民族対立・平和促進NGO〜

バングラデシュ、チッタゴン丘陵地帯の民族対立解決と平和促進に取り組む。 元高校球児で…

稲川望 ジュマ・ネット〜民族対立・平和促進NGO〜

バングラデシュ、チッタゴン丘陵地帯の民族対立解決と平和促進に取り組む。 元高校球児で当時は野球づけ。大学進学時は消防士になりたかったが、1年生の夏にあれよあれよでインドへ。 その後、バングラデシュや紛争、難民に関心を持って活動してきた。 2021年〜ジュマ・ネット事務局長。

最近の記事

<最終回>”ジュマ・ネット”で挑戦していく理由

 最終回までなんとか続いてきました。第6回では、現場にいるなかで思い知ることになった活動の難しさ、紛争がもつジレンマを書かせていただきました。  そしてラストの今回は、ではなぜ活動を続けていこうと思っているのか、という僕の心に関してフォーカスして区切りにしていきます。 頭で描く理想の姿と、現場でどうしようもなく突き動かされる心 頭では、こういう状態になったらいいとか、こういう紛争解決のモデルがあるとか、この政党はこう言っているからとか色々考えます。それは僕の関心があることで

    • 国家が自国民の保護を放棄した時に、外国人に何ができるのか

      今週、ショッキングな事件が発生しました。チッタゴン丘陵地帯において、4人のジュマ若手活動家が銃殺され、加えて3名が誘拐されているということです。 これはただの事件ではなく、様々なメッセージを持っていると考えます。 チッタゴン丘陵地帯国際委員会の声明によれば、襲撃したグループは軍を後ろ盾とした武装自警団であるとされています。本来、国民を保護する役割を持つ存在が、その意志に反した活動を行なっていることに政治性と恣意性を感じます。 チッタゴン丘陵地帯国際委員会が発行した声明は

      • 【第6回】 挑戦してわかった、民族対立現場の独特の難しさ

         これを読んでくださっている皆さまこんにちは。全7回で企画しているこのヒストリーも残すところあと2回となりました。第5回では、悩みに悩んで決断をしたところまでお話が進みました。その後デングの回を挟んだためやや時間が空いてしまいたが、再び連続企画の本編に戻ってきたいと思います。    残りの2回では、実際にジュマ・ネットで活動を始めたからこそ分かったこと、難しさ、大切だと改めて感じたことを書いてみようと思っています。 コロナ禍を経てふたたびバングラデシュへ コロナ禍でなかなか

        • 【番外編】更新がとまっている間、ダッカで入院してました

           皆さまこんにちは。スタバでバイト大学生がなぜNGOに?の連続企画ですが、第5回を迎えたところで更新がとまってしまっていました。そのしばらくの間、どこで何をしていたかと言いますと、タイトル通りダッカで入院しておりました。  高熱、関節痛、嘔吐下痢がなかなか治らず、結論、デング熱と診断されました(今年はダッカでものすごく流行っています。)  約2週間近い入院を経てやっとこさ元気になりましたので、今回は番外編としてその期間の様子を記録に残しておこうと思います。 デング熱、大

        <最終回>”ジュマ・ネット”で挑戦していく理由

          【第5回】 迷いに迷った1年半、活動を志すまで

           毎度noteをお読みいただきありがとうございます。全7回くらいと見込んで始めたこの企画も、もう残り3回となりました。すでにもうあきあきされているかとは思いますが、せっかくですので最後までおつきあいいただければ嬉しいです。  さて、脈絡のない話となりますが、ラテアートをご存知でしょうか。たまには若干スタバっぽい話をします。    エスプレッソショット(圧縮して抽出する強い苦いコーヒー)に、空気を含ませた温かいミルクを注ぎ、最後にミルクで作った泡の部分を上に乗せるのが一般的な

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          【第4回】1年間バングラデシュへ、正直苦しいことばかりだった

           ここまで3回お読みいただいた方、本当にありがとうございます。今回初めてお読みになられる方は、もしご関心あればこれまでの回もぜひご覧ください。  今回、全7回(くらい)の連続企画の折り返しとなる第4回は、大学を休学してバングラデシュでの1年間に挑戦するお話です。大学2年生の夏に偶然ロヒンギャキャンプに居合わせたことで衝動的に始めた活動をきっかけに、もっと現地のことを知りたいと思うようになりました。今回は、どこに何をしに行こうと考えていた私に、大きな転機が起こるところから始ま

          【第4回】1年間バングラデシュへ、正直苦しいことばかりだった

          【第3回】 20歳、偶然の難民キャンプで現場を知った

           これまで2回お読みいただいた方は、本当にありがとうございます。今回初めてお読みになられる方は、もしご関心あれば、第2回もありますので、ぜひご覧ください。  今回、全7回(くらい)の連続企画の第3回は、少しずつ国際協力の世界をのぞいていった私に訪れた最初の大きな出来事についてのお話です。まだまだ普通に大学生活を送っていながらも、きっとここがその先本格的に活動にのめり込んでいく分岐点になったんじゃないかと思っています。 大学2年生の夏、たまたまバングラデシュにいた時のこと 

          【第3回】 20歳、偶然の難民キャンプで現場を知った

          【第2回】18歳、インドでちゃんと人生観を変えられるの巻

           前回にひきつづき、連続企画の第2回です。前回は、大学入学時の出会いに関してのお話でした。(第1回:ノリと勢いで研究室突撃したら世界が変わった、はこちらから)  今回は、インドで人生観をちゃんと変えられちゃった18歳のお話です。なんとなくインドで人生観変わったみたいのってちょっと安っぽいなあ(悪気はありません)、自分はそうはならないぞみたいな斜に構えた感じで渡航してました。が、まあまあわかりやすく変わって帰ってきたという経験です。 はじめての海外はインド・ナガランドへ 

          【第2回】18歳、インドでちゃんと人生観を変えられるの巻

          【第1回】ノリと勢いで研究室に突撃したら世界が変わった

          はじめに すべりそうで公開するのが恥ずかしいなと思いながらも、こうして筆をとることにしました。きっかけは、ある方の一言でした。その方は、今でこそ仕事も僕自身の成長の面でもとってもお世話になっているものの、ずっと僕にとっては雲の上のような存在でした。初めて会ったときに、いつかメンターになってほしいなと思っていたので、まずは今こうして関わり続けられる環境にとても幸運を感じています。  そんな方から「稲川君のことをもっと発信したらいいんじゃない?」と言ってもらったので、そうかやっ

          【第1回】ノリと勢いで研究室に突撃したら世界が変わった

          【夏の読書感想文🍉】『報道弾圧−言論の自由に命を賭けた記者たち』

          本書との出会い 「報道"弾圧"」という刺激に溢れたタイトルを冠する本書との出会いは、本書の主要な著者である北川成史氏からの紹介でした。言論の自由を記者と国家の関係性から描き出した本書のテーマをみた瞬間、すぐに読もうという気持ちになり、発売日を心待ちにしていました。  直感的に惹かれた理由には、ジュマ・ネットの活動との共通性が高いと感じたからだと思います。国家が持つ権力は報道の力を締め付ける方向に走り、時には特権的に保持する実力行使にまで及ぶ姿は、活動地の政治状況とも重なり

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          なんとなくテレビを見ながら:「記憶」「戦争」「ナショナリズム」

          このあいだ、なんとなくテレビを見ながら思ったことを書きます 大学院を修了し、学生の身分がなくなって4カ月が経ちました。昨年度末からはインドやバングラデシュに行っていたため、あまり区切りや修了した感を味合わずに時が過ぎてしまっている感覚もあります。 毎日もう無理かもなと思いながら論文を書いていた時間も、もはやすごく前のことのようです。大学院では「ナショナリズム」を理論的なテーマに据えて執筆しました。バングラデシュのナショナリズムの現在地を問い、何がそうさせているのかという

          なんとなくテレビを見ながら:「記憶」「戦争」「ナショナリズム」

          気になったのは、見えなくなったもの

          2023年、コロナ禍以降のバングラデシュ 2023年4月、バングラデシュの首都ダッカを訪れました。 2020年の新型コロナ流行以降、一時はバングラデシュでも大規模なロックダウンなどが行われていましたが、現在はすっかり活気あふれる街並みへと戻っています。ちなみに4月〜5月は、バングラデシュは夏の季節で、連日40度を超える猛暑でした。 街中にはまだマスクをしている人もいますが、どちらかというと感染症よりも大気汚染が原因といった感じです。それもそのはず、バングラデシュは急激な

          チッタゴン丘陵地帯の今

          (2023年4月24日に残した記事を転載) こんばんは。先月末からフィールドに来ており、現在はチッタゴン丘陵地帯におります。 まさに今現場で考えていること、今だから感じられていることを素直に書いています。 今回、市民リーダーや政治家の方などから話を聞く中で、和平協定から25年が経った中でも、その実現には希望が見出せない声が聞かれました。 特に政府・軍の政治的影響力を握ろうとする駆け引きの中で、この地域がいかに翻弄されてきたかも強く感じました。(一部は和平協定の実施を今

          多様性に関する問い

           つい先ほど、ある会でとっても面白い問題提起をいただき、自分なりにまとめてみたいと思い、久々に筆を取りました。1年振りくらいです。 ズバリ、多様性とはどうあるべきか、という問いでした。  現代において、流動的かつ膨大な社会を一つ一つ理解し、噛み砕く余地は残されていません。つまり、電子メディアで大量に流入してくる他国の災害、貧困に喘ぐ人の声、隣県で苦しんでいる患者の様子は、情報へと化していきます。すると、それは知っているだけのことになり、情動や衝動的な関心は生まれにくくなり

          一年のまとめと言葉の重み

          皆様こんにちは。1月1日にスタートした毎週更新もついに最終回を迎えました。ここまで自らの関心分野を中心に書いてきましたが、いかがでしたでしょうか。 今週は最後と言うことで、少し振り返りをしながら、出てきた考えをまとめてみようと思います。 記録を残す習慣まず一番の変化は、アウトプットのために、インプットしている瞬間を意識するようになりました。しっかりと記録し、その変化を可視化していくことの面白さも同時に感じることになりました。これは、自分の中でも大きな収穫ですし、5年後10

          読書レビュー:国際協力の誕生

          北野収『国際協力の誕生―開発の脱政治化を超えて―』創成社、2011年。 皆様こんにちは。本日も読書レビューということで、本を読んで特に興味深かった点にフォーカスしてお話させていただきたいと思います。本日は日本における「国際協力」という概念を問い直した非常に興味深いお話です。 国際協力という用語の異質さ海外でフィールドワークや活動をされている援助関係者の方であれば一度は考えたことがあるのではないでしょうか。 「国際協力の直訳は何だろう?」 私も考えたことがあります。しか