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グルメ漫画に憧れて、豊洲市場「とんかつ八千代」を訪れた


 豊洲市場、管理施設棟3F。“憧れの店”はそこにあった。
 その店の名は「とんかつ八千代」。数々の海鮮フライやチャーシューエッグ(ベーコンエッグのベーコンをチャーシューに替えたもの)が名物の、各種メディアでも紹介される機会の多い定食屋である。
 10年以上から行きたくてたまらなかったこの店に、俺は先日ついに足を踏み入れた。

表には所狭しとメニューが貼られている。
店の歴史は長いが、豊洲市場完成時に築地から移転しているため、店内はとても綺麗。


 まず、俺が「とんかつ八千代」を知ったきっかけを話さねばなるまい。
 それは以前弟から借りて愛読していたグルメ漫画『ネイチャージモン』5巻である。

書影はAmazonより引用。どの巻も表紙のインパクトが強い。
なお、刃森尊先生の代表作『伝説のヘッド 翔』は7月19日より実写ドラマ化されるそうだ。

 ダチョウ倶楽部メンバー、寺門ジモン──。彼はTVでは見せない別の、いや真の姿がある。その姿こそが「ネイチャージモン」!自然への異常な愛情を持ち、貴重なオオクワガタを探しに山にひきこもり、肉についてしゃべりだすと止まらない。最強へ向けてトレーニングも怠らない!そんなネイチャー(ジモンの一人称)の活躍をジモン本人原作により漫画化!タッグを組む漫画家は青年誌初登場、刃森尊!ついてこれるアナタは「ナイスネイチャー」だ!!

講談社Webサイトより引用(一部改変)。


 本作は食通で知られるお笑い芸人:寺門ジモン氏(以下、敬称略)行き付けの「お薦め店」を食べ歩くグルメ漫画※であり、実在の名店が多数登場する。足立区の焼肉屋「スタミナ苑」、荒川区のもんじゃ焼き割烹「大木屋」などは、東京都内に住む方なら一度は耳にしたことがあるかもしれない。
 どの店の描写・料理実食シーンもたいへん魅力的に描かれており、大仰でクドすぎるキャラクターのリアクションと圧倒的な画力によって、条件反射で思わず唾液が出てしまうのだ。決して誇張ではなく、本当に。


 そんな作中において、市場移転前の築地に居を構えていた定食屋「とんかつ八千代」を扱った回がある。「魚河岸で働く方々が朝食を食べる場所はどこか!?彼らの朝の胃袋を満たしているのは寿司ではない!」というジモンの主張の元、訪れたのが「とんかつ八千代」だった。

※サバイバル術・虫取りなど、時折アウトドア系のエピソードも登場する。基本的には肉料理(焼肉・ステーキ・鉄板焼き・ハンバーガー等々)が中心。高級店・老舗を扱うエピソードが多く、「とんかつ八千代」は作中ではかなりリーズナブルな部類である。

 築地は家から1時間も掛からない場所だ。しかし、「いつでも行けるから行ってみよう」との意志は、次第に「いつでも行けるなら今度でいいか……」との怠惰な魔境に陥ってしまう。結局行きたい気持ちだけを薄っすら抱えたまま、いつの間にか10年以上の時が流れ、店舗は市場移転とともに豊洲へと引っ越してしまった。築地市場と運命を共にしなかったことが、俺にとって何よりの救いだった。



 さて、つい先日、劇団四季版「アナと雪の女王」を観る機会が訪れた(本稿では話題が逸れるため触れないが、素晴らしい舞台だった)。上演する劇場は市場前駅(豊洲市場)から「ゆりかもめ」で一本の竹芝駅。
 おぉ、これはついに「食べ時」が訪れたのでは?との考えに至り、俺は豊洲市場へと足を伸ばした。狙った時間は12時前。閉店時間が13時であることを考慮しても、どうにか入店できるはず……。


 既にせりが終わった時間にも関わらず、豊洲市場は観光客でごった返していた。隣に完成したグルメスポット「豊洲 千客万来」や、温泉施設「東京豊洲 万葉倶楽部」との相乗効果の影響かもしれない。
 市場内に居を構える他の飲食店(主に寿司屋)には長蛇の列が出来ていたが、幸いなことに「とんかつ八千代」には全く並ばず入店することができた。楽観的な予想が当たって助かった。やはり市場に来る人々は揚げ物ではなく、新鮮な寿司を求めているのだろうか?


 本来は漫画でジモンが美味しそうに平らげていた「アジフライ」を狙っていたが、売り切れておりやむなく断念。曜日限定(火・木・土)の「チャーシューエッグ」も曜日を外しており未販売。
 とはいえ、俺はそれでも構わなかった。美味しそうなメニューは他にも大量にある。悩んだ末に注文したものは「車エビ・ホタテフライ定食」(2400円)だった。


メニューの数々。
車エビ・ホタテフライ定食。


 まずは半分に切り分けられたホタテを箸で掴む。皮がとても薄いことが一目瞭然で伝わった。少しだけタルタルソースを付けると……うん、文句無しの美味しさ。矛盾しているようだが、カラリと揚がった中身のホタテはまるで生のよう。いや、決して生焼け状態だと言っている訳ではなく、新鮮さを保ったまま揚げられている……と表現したかった。ソースを掛けて味変してももちろん美味しい。個人的にはソース派だ。
 そのままの流れでエビフライにもソースを掛け、箸を伸ばして口元に運ぶ。美味しさを通り越して幸せだ。流石に頭までは食べなかったものの、尻尾の先から頭の手前(目玉の直前あたり)までをサラリと完食してしまった。新鮮なエビの身部分も、少し苦味のある頭のミソも、どちらもご飯との相性が良い。
 ご飯との相性という観点では、後に注文したサイドメニュー「ネギトロ小鉢」と「ネギチャーシュー(チャーシューエッグ不在の日でも販売していた)」も忘れてはならない。特にチャーシューは「これだけでご飯を完食できる」と思える程に強力なメニューだった。食事に夢中で、写真を撮りそびれてしまったことを後悔している。


 漫画『ネイチャージモン』で語られていた通り、朝からこれらのメニューを胃に入れれば、きっと早朝から市場で働く活力も湧くだろう。大量の揚げ物を食べたはずなのに一切胃もたれしなかったことが何よりの証拠かもしれない。
 次回立ち寄った時こそ、漫画で描かれた「アジフライ」と「チャーシューエッグ」、そして店名にもある通り「とんかつ」にも挑んでみたい。全てを平らげる胃は持ち合わせていないので、幾度も通って常連になる必要がありそうだ。


 10年以上も機会を逃し続けてしまったが、名店との出会いをくれてありがとう、『ネイチャージモン』。グルメ漫画に憧れてお店に足を運んだのは、今回が初めてだったよ。



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