見出し画像

the pillows、そしてMr.Childrenの「ストレンジ カメレオン」

●「ストレンジ カメレオン」の魅力



 今回は人生のベストソングTOP3の一つとして、Mr.Children(以下ミスチル)の「Worlds end」の次に俺が惚れ込んだ歌──the pillows(以下pillows)が1996年にリリースした6thシングル「ストレンジ カメレオン」の話をしたい。
 本作は1989年に結成されたロックバンド:pillowsの代表曲の一つとなるバラードだ。詳しくは後述するが、高校一年生の頃にミスチルによるカバー版を聴いたことをきっかけにして俺は本作を知り、連鎖的にpillowsの虜となるまでに至った。いわば、俺にとっての“pillows入門編”とも言える歌でもある。



「まわりの色に馴染まない 出来損ないのカメレオン」

「優しい歌を歌いたい 拍手は一人分でいいのさ それはキミの事だよ」

「抱き合わせなんだろう 孤独と自由はいつでも」

「いつか懐いていた猫は お腹空かしていただけ」

「僕とキミの過ごしたページは破り去られ 歴史には価値の無い化石の一つになるのさ」

「キミと出会えてよかったな Bye Bye 僕はストレンジカメレオン」

(「ストレンジ カメレオン」歌詞より抜粋)


 生来の色では生きられず周りに擬態しようとするも、それすら上手く出来ない孤独なカメレオン。誰か一人にさえ認められればいい…と虚勢を張っていたのに、挙句その一人さえも失ったことを示唆して終わる。
大衆的な音楽を目指すも失敗した自分達をこうして“出来損ないのカメレオン”と揶揄したヴォーカル:山中さわお氏(以下さわお氏)が紡いだ歌は、とても厭世的で切ない。
 曲の題材とは裏腹に、結果的に本作はラジオで人気を博し、pillows興隆のきっかけとなったそうだ。コンクリートジャングルの隙間に潜んで過ごす多くのカメレオン達の心に、きっと強く響いたからだろう。




 きっと俺もそんな“出来損ないのカメレオン”の一人である。
 皆に好かれたい。誰からも愛されたい。自分を認めて欲しい。それが無理ならばせめて好きな一人にだけでも。でも結局それすらうまくいかない。こんな葛藤を抱えていた思春期の俺の心を、そして齢三十となっても思春期を捨てきれていない今の俺を、「ストレンジ カメレオン」は鋭い牙を剥けながら今日も抱きしめるのであった。

●俺とthe pillows



 本章では俺がこの曲を知り、そしてpillows自体を好きになった経緯を述べたい。 
 その為にはまず、ミスチルの話題を避けては通れない。「ストレンジカメレオン」は、ミスチル・Bank Band※・髭 (HiGE)の三組によってカバーされている。俺が最初に聴いたバージョンはミスチルによるカバー版だった。




ap bank fes'06、そして2006年に行われたpillowsとの対バンツアー~This is Hybrid Innocent~(2007年に発売した「HOME」特典DVDに一部が収録されている)の際、ミスチルは「ストレンジ カメレオン」を披露している(詳しくは後述)。映像越しでもそのパフォーマンスは圧巻で、“ミスチル=格好良いロックバンド”という俺の印象を強める一助になった。
 しかし、意外にもそんな素晴らしい楽曲は彼ら自身のものではなかった。元々は2004年に発売されたトリビュートアルバムに収録されたカバー曲であり、本来は“the pillows”という当時聞き慣れぬバンドの作品だと、後追いで知ったのである。




 それを知ったのち、俺はミスチルと並びpillowsをよく聴くようになった。
 「白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター」「MY FOOT」「Crazy Sunshine」「Blues Drive Monster」「Advice」「Swanky Street」…。活動歴の長さ故に楽曲数が多いため、好きな歌を挙げ出したらキリがないので割愛する。
 そんなpillowsの楽曲群は時に直情的かつ暴力的で、時にまっすぐで力強く、時に繊細で優しい。「ストレンジ カメレオン」に限らず、数々の歌が俺が溜め込んでいた衝動を代弁し、何度も溜飲を下げてくれる気がしただからこそ、多感な時期の俺はpillowsに心惹かれたのだろう。




 残念ながら、pillowsは当時も今もそこまで売れているバンドとは言えない。楽曲数もタイアップ数も多いのに、未だに爆発的なブレイクに繋がる曲が存在しないのだ。一部のWeb界隈では“永遠のブレイク寸前”というあんまりな呼び名まで付けられている。
 とはいえ、俺は希望を捨てていない。例えば1993年にデビューした歌手:斉藤和義氏は、大ヒットしたドラマ「家政婦のミタ」の主題歌として起用された39thシングル「やさしくなりたい」が自身のCD歴代最多売上(10万枚以上)を記録し、何と2011年にして絶頂期を迎えた。2012年には自身初のNHK紅白歌合戦出場まで成し遂げている。
 pillowsもその例に倣い、いつか大ヒットドラマ・アニメ※等の影響で歴代最高売上を叩き出し、紅白歌合戦に出場する可能性だってゼロではない。そうすれば今より更に多くの“カメレオン”達の心に、さわお氏の歌は届くことだろう。



※ミスチル・Bank Bandは共に桜井(櫻井)和寿氏が主催するバンドであるが、音楽性・方向性が完全に異なるため別物扱いとする。ミスチル版とBank Band版の「ストレンジ カメレオン」も全くの別アレンジであった。


※海外においては庵野秀明氏が参加していることでも有名なOVA「フリクリ」で地名度を上げたという。「フリクリ」は全ての劇伴がpillowで構成された、pillowsファン必見とも言えるアニメである。アヴァンギャルドな内容ゆえ、俺はこのアニメを“観るロック”と人に説明している。


●ミスチル流の「ストレンジカメレオン」


画像1



 活動開始時期が近いためか、pillowsとミスチルは縁が深い。ミスチルは「Prism」、pillowsは「cherry」という楽曲を互いに向け送り合っているし、ミスチル活動休止中の1998年にベーシスト:中川敬輔氏とドラマー:鈴木英哉氏の二名はさわお氏・藤井謙二氏(MY LITTLE LOVER・The Birthdayのギタリスト)と組み、“林英男”というバンド名で暫くの間ライブ活動を行なっていた。更に2006年には先述の対バンツアーまで開催している。2007年にミスチルの「つよがり」をpillowsがカバーしたことも忘れてはならない。



 時系列は少々前後してしまうが、重要なポイントはここからだ。
 BUMP OF CHICKEN・ELLEGARDEN・ストレイテナー等といった豪華なロキノン系アーティスト達が参加したpillowsトリビュートアルバム第一弾「SYNCHRONIZED ROCKERS」(2004)に、ミスチルによるカバー版「ストレンジ カメレオン」が収録されている。このアルバムはsportifyに登録されていないため、こちらに音源のリンクを貼ることができないのが非常に残念である。




 pillows版とミスチル版を比較すると、ミスチル版の方がやや激しさが感じられ力強く、pillows版の特徴である厭世感が少々薄れている気もする。しかし決して明るさ・ポップさ・楽天性に曲が流されている訳ではなく、“もがき苦しむ”“やぶれかぶれ”といった印象を感じ取ることができる。pillows版とは感触が少々異なるが、一つの別解釈として素晴らしい楽曲となっていると言えよう。
 また、先に述べた2006・2007年のライブにおけるアレンジでは更にBPMが早められている。メロディーの激しさ・格好良さと後ろ向きな歌詞との対比が、焦燥感に追い立てられて逃げるようなイメージを与えてくれる脚色だ。特に俺が「ストレンジ カメレオン」を知るきっかけとなった「ap bank fes'06」のものは、歌声・パフォーマンス共に現時点で映像化されているミスチルのライブ史上ベストアクトだと思っている。




 ミスチルファンであれば本稿で紹介するまでもなく、既にトリビュート盤とライブDVDで「ストレンジ カメレオン」をお聴きの方も多いことだろう。しかしもしカバー版しか聴いたことがない方が居られるのであれば、願わくばこれをきっかけにしてpillowsによる原曲、そしてpillowsの素晴らしい楽曲群にも触れていただきたい。


●余談──「カメレオン」と「トビウオ」



「あだ名は“トビウオ” でもお日様が嫌いで この街を潜水して泳いでいく
真向かいのビルを敵のアジトに見立てて 文明やなんかを憎んでみる」
(「Monster」歌詞より抜粋)

「アスファルトを飛び跳ねるトビウオに擬態して 血を流し それでも遠く伸びて」
(「擬態」歌詞より抜粋)


 ミスチルの歌詞に二度、印象的な登場を果たしている「トビウオ」。彼は街に潜み、飛ぼうとすれば哀れにも自らの身を傷つけてしまう。
pillowsにおける「カメレオン」と、ミスチルにおける「トビウオ」は同義なのではないか?両者ののファンである俺は、日々勝手にそのような妄想をしている。




※サムネイル画像はAmazonより引用しました。

この記事が参加している募集

思い出の曲

私のイチオシ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?