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すぎやま先生を偲び、ドラクエ楽曲最高傑作(合計11曲)を語る




 巨星墜つ。
 俺が愛する曲をたくさん生み出してくれた、すぎやまこういち先生。その死をたった四文字で表してしまうのは、あまりにも寂しすぎる。




 幼少期からドラクエを遊んでいた俺にとっては、すぎやま先生=ドラクエの作曲家という印象が強い。しかし、それはすぎやま先生の膨大なキャリアの一側面でしかない。かなり歳上世代の方であれば、数々の歌謡曲やグループサウンズ時代の楽曲が馴染み深いだろう。競馬好きの方なら、中山競馬場GIレースの曲に親しみを感じるかもしれない。アニメ好きの方なら「伝説巨神イデオン」のオーケストラ楽曲群だろうか。




 こうして様々な曲を遺したすぎやま先生の最高傑作マスターピースとは一体何だろう?
 訃報を聞いてから、俺はずっと考えた。考えに考え抜いた結果、それを絞り切ることはできなかった。歌謡曲には疎いのでドラクエ関係に絞って考えていても、である。各シリーズに無数の代表曲があり、そのどれもが甲乙付け難いからだ。作曲家としての活動歴・年齢を考慮すると、これは筆舌に尽くし難い偉業なのではないだろうか。
 本稿ではすぎやま先生を偲び、ドラクエシリーズ本編に絞り、各シリーズ毎の個人的最高傑作について語っていきたい。




●「ドラゴンクエスト」(1986年)──「序曲」

 先の東京オリンピックの選手入場曲としても使われた、冒険の始まりを思わせる壮大なオープニングテーマ。ドラクエシリーズを象徴する曲でもあり、CMなどでもよく流れることから、ドラクエを遊んだことがなくてもこの曲は知ってる!という方も多いはず。
 後の作品においても、作品・世界観毎にイントロをアレンジしつつ使われることになる「序曲」。開発中のドラクエ12では、果たしてどのようなイントロが付されているのだろうか…?


●「ドラゴンクエスト2」(1987年)──「Love Song 探して」

 リメイク版ではゲーム開始時の冒険の書(データ)選択画面、ファミコンのオリジナル版では“復活の呪文”入力時のテーマ。
 オリジナル版を実機で遊んだ際には、“復活の呪文”入力ミスに苦しめられて延々とこの曲を聴く羽目になった。だが良い曲なので憎めない。この曲も含め、ドラクエ2の楽曲はポップス感・歌謡曲感が強いものが多くて独特の雰囲気がある。




●「ドラゴンクエスト3」(1988年)──「勇者の挑戦」

 ラスボス戦で流れる楽曲。ドラクエシリーズのラスボス戦では文句無しの最高傑作である。1・2のラスボス戦の楽曲は恐怖・おどろおどろしさ・敵の強さを表現していたが、こちらは果敢にラスボスに挑む勇者たちの視点に立っている。そのせいか、嫌が応にでも感情移入してしまうのだ。
 オーケストラ版では「戦闘のテーマ(通常戦闘曲)」〜「アレフガルドにて(終盤フィールド曲)」〜「勇者の挑戦」が一曲として繋げられ演奏されているので、ゆったりした「アレフガルドにて」に油断していると「勇者の挑戦」の爆音イントロに襲われるのは“ドラクエファンあるある”ではないだろうか。




●「ドラゴンクエスト4」(1990年)──「勇者の故郷」

 事実上“主人公のテーマ”となる、第五章(仲間が全員揃う前)のフィールド曲。ドラクエ4は少々特殊なオムニバス形式を導入しており、前の四章までで先に仲間たちを操作した(フィールド曲は章ごとに変わる)のち、いよいよ五章で主人公を操作することになる。
 いざ五章が始まると、いきなり主人公の住む村は魔族から焼き討ちに遭い、親しい幼馴染みは主人公の身代わりとなって殺害される。「勇者の故郷」はそんな理不尽な状況から始まる主人公の冒険に寄り添う、悲壮感と優しさを感じさせる一曲だ。


●「ドラゴンクエスト5」(1992年)──「愛の旋律」

 親子三代にわたるドラマを二世代目(主人公)の視点で体験するドラクエ5。そんな主人公は冒険の途中で、唐突に結婚をすることになる。結婚の相手は運命の二人(DSのリメイク版では三人)から選ばなくてはならない。
 そんな悩ましい結婚前夜に流れるイベント曲こそ「愛の旋律」。眠れずに夜の街をさまよい歩く主人公は、様々な人の想いにそっと触れていく。そんな状況をメロディアスに引き立ててくれる、非常に美しい楽曲である。



●「ドラゴンクエスト6」(1995年)──「敢然と立ち向かう」

 物語序盤のラストを飾る中ボスキャラクター:魔王ムドー(本気ver)との戦闘曲。ゲーム開始直後の時点でこの曲のアレンジ「ムドーの城へ向かう」が流れているため、もはや「敢然と立ち向かう」はドラクエ6の実質的なメインテーマと言っても過言ではないだろう。
 ムドーは半端じゃなく強い。とにかく攻撃の手を緩めてくれないのが辛い。ドラクエの中ボスキャラクターの中でも最難関を誇る強敵と言えよう。そんな強大すぎる敵にもひるまず、何度でも立ち向かっていく主人公達。その決意が全面に表れた、まさに名曲である。


●「ドラゴンクエスト7」(2000年)──「凱旋そしてエピローグ」

 ドラクエ7のエンディングを飾る曲。ドラクエシリーズのエンディング曲中では3の「そして伝説へ」と並ぶ、最も勇壮な曲だと思われる。
 大魔王を倒した主人公は長きに渡る壮大な冒険を終え、故郷で新たな人生を歩む(家業を継いで漁師の道を歩む)ことになる。文字通りの“新たなる人生への船出”が、開けた未来に向かって突き進むことを感じさせてくれる一曲ではないだろうか。勇壮さは徐々に切ないメロディへと変化していくが、それがエンディングの切ない大オチに繋がるのも素晴らしい。




●「ドラゴンクエスト8」(2004年)──「広い世界へ」

 ドラクエ8のフィールド曲。とてつもなく広大な3Dフィールドを歩くだけでも楽しかったドラクエ8。フィールドを歩き回る時間が今までのドラクエシリーズより格段に増えたものの、冒険に単調さを感じることはなかった。
 それは景色の綺麗さなどのおかげでもあるが、この曲の素晴らしさの影響が何より強いと思われる。朝日に夕暮れ、草原や海…。旅で目にする風景を閉じ込めたような美しいメロディーに包まれて冒険できるなんて幸せだ。




●「ドラゴンクエスト9」(2009年)──「酒場のポルカ」

 主人公たちの冒険の拠点“リッカの宿屋”で流れる賑やかな曲。宿屋の繁盛っぷり、そしてロビーの酒場で旅人たちが交流する楽しいイメージが表れている気がする。
 この楽曲は都心部で大ブームを巻き起こした“すれちがい通信”のテーマと言っても過言ではない(すれちがい通信をする際にはリッカの宿屋を経由する必要があるため)。今でもこの賑やかな曲・手拍子を聴くと、“まさゆき”“川崎ロッカー”などの有名な宝の地図を求めて新宿をさまよったことを思い出す。




●「ドラゴンクエスト10」(2012年)──「街の息吹」

 昼間の街で流れる曲。ドラクエ史上初のオンラインゲームとなった本作では、街のあちこちで多くの人──プログラムされたセリフではなく本物の人間の会話が飛び交っていた。会話が飛ぶごとに“ポンッ”という軽めの効果音が鳴るのだが、そのSEが楽曲と結びついて記憶されている。
 もうログインしなくなって数年経つが、この曲を聴くと多くの人が集う“グレン城”の野良チャットの賑わいが脳裏に蘇る。



●「ドラゴンクエスト11」(2017年)──「勇者は征く」


 ドラクエ11のフィールド曲。ドラクエ11はドラクエ4以降、久しぶりに主人公が明確に“選ばれし勇者”として定義された作品だった(転職システムで“勇者”になれるケースは除く)。「勇者は征く」はそんな主人公のテーマとして相応しい、旅を盛り上げてくれる勇壮な楽曲だ。
 主人公は敵の罠によって一部のキャラクターから“悪魔の子”として追われる身になっているが、そうした理不尽な濡れ衣・暗さを跳ね除けるような明るい曲調が良い。クリア後には流れなくなってしまうのが非常に惜しいところだ。



●最後に


 以上、すぎやま先生のドラクエ楽曲について述べさせて頂いた。
 ナンバリングタイトルだけでも数百曲あるので、これだけ絞るのも非常に大変だった。外伝作品も含めれば「ドラゴンクエストモンスターズ」のタイジュの国・街のテーマ「テリーの世界」、「ドラゴンクエストモンスターズ2」の異世界のフィールド曲「天空の世界」など、更にキリがない。歌謡曲時代からのすぎやま先生ファンなら、尚更最高傑作を絞りきることが困難なのではないだろうか。





 宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」では“創造的人生の持ち時間は十年しかない”といったセリフがあったが、すぎやま先生の場合は絶対に十年をとうに超えている。八十代になってから作曲した近年の作品であっても、“これもしかして最高傑作じゃない…?”と聴きながら感じてしまうからだ。何という素晴らしいアーティストだったのだろう…と、各楽曲を振り返りながら改めて思い知らされた。




 御歳90歳でお亡くなりになったすぎやま先生。遺作は現在制作中のドラクエ12となるようだ。亡くなる直前まで作曲を続けていたのであれば、九十代に作った曲が最高傑作となっているのかもしれない。いや、是非ともそうなっていることを信じたい。


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 改めて、すぎやま先生のご冥福をお祈り致します。

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