見出し画像

文体の舵をとる─『文体の舵をとれ』第一章





 「新年の抱負」で述べた通り、年初よりアーシュラ・K・ル=グウィン著『文体の舵をとれ』の練習問題に取り組んでおります。言わずもがな、文章力の強化を目的としたものです。
 練習問題の習作を、内容を振り返りつつ順次投稿していきます。


●問1


第一章 自分の文のひびき
練習問題① 文はうきうきと

問1:一段落~一ページで、声に出して読むための語りの文を書いてみよう。その際、オノマトペ、頭韻、繰り返し表現、リズムの効果、造語や自作の名称、方言など、ひびきとして効果があるものは何でも好きに使っていい
──ただし脚韻や韻律は使用不可。
『文体の舵をとれ』P.32より引用。


 きゅ。靴が砂漠を踏み締める音がする。聞いているのは俺だけだ。足元だけを見ながら歩みを進める。今はとにかく渇きを癒したい。皮袋の水は二日前に尽きたし、結局敦煌とんこうを出立した旅人にも、石窟せっくつ詣での僧侶にも出会えなかった。少しでも多く唾液を飲もうと犬歯を舐め続けたら、舌先から血が滲んだ。死の臭いが仄かに薫る。ふっと気力が失せ、はたと足が動かなくなった。どす。倒れた俺の身体を砂粒が受け止める。閉じた瞳に映るのは商隊の仲間たち。五日振りか。意外と早い再会だな。いや、知らない女性も混じっている。さっぱりした目鼻立ちに白い肌。ひらひらと蒼衣をはためかせて彼女は遠のいていく。待ってくれ。目を開き首を上げると、遠くで何かがきらきら輝くのが見えた。ゆらりと揺れる陽炎の奥で光るそれは、夢にまで見た月牙泉げつがせん……。これは天女の導きか、それとも試練か。完全に足は使い物にならないが、手はまだ動く。ぐっと砂を握りしめ、俺は泉を見据えて地を這った。

※匿名掌編コンテストに投稿した「鳴砂山の彷徨人」のプロトタイプ。投稿の際、語感やリズムをより強く意識して書き直しました。


●問2


問2: 一段落くらいで、動きのある出来事をひとつ、もしくは強烈な感情(喜び・恐れ・悲しみなど)を抱いている人物をひとり描写してみよう。文章のリズムや流れで、自分が書いているもののリアリティを演出して体現させてみること。
『文体の舵をとれ』P.33より引用。



「おい!止まれ!」威勢を込めた声はアイツに届かない。網を持つ手に力が篭る。脚が限界を越え動き続ける。熱い胸騒ぎが抑えられない。息を整える暇もない。汗が目に入る痛みも気にならない。アイツは森を転がり回る。俺は一心に追い駆ける。一世一代の大捕物だ。追い求めてきた愛しのツチノコ。生捕りにするまで絶対に死ねない。思いを乗せて網を振り下ろす。アイツが網の中で暴れている。「俺の勝ちだ!」嬉しさのあまり雄叫びが漏れた。



●振り返り


 どちらも非常に楽しみながら書けたように思う。今まで書いてきた文章はゼロからのスタートだったので、ある程度の方向性を示されると筆が乗る(……と、この時点では考えていた。「第四章」以降から難易度が上がり出す)。


「問一」は手応えを感じた・かつ思い入れのある題材であったため、改稿ののちTwitter上のコンテストへ投稿した。お褒めの言葉を頂けたのは、きっと『文体の舵をとれ』のお陰だ。頭韻の使い方・踏み方に関しては怪しい。これで正しかったのだろうか。


「問二」については、強烈な感情=“喜に限りなく近い興奮”と設定して書いた。喜怒哀楽、それぞれについて書くのも勉強になりそうだな……と思い、次の「第二章」では“怒”を題材にして書いた(特に“感情の指定”は無かったが)。


 現在は「第六章」に取り組んでいる最中。「第二章」以降は、普段のコンテンツ語り・エッセイ等の合間に投稿する予定です。


【続く】

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?