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2021年8月の記事一覧

暮らしの中にこそ、アートは必要だ。

アートを買える場所が増えたなと思う。服屋さんやインテリアショップ・カフェ・書店でも展示・販売しているのを目にするし、ウェブで買えるサイトも増えていて、手に入れやすくなりました。 最近、雑誌などメディアでアート特集が組まれたり、スターバックスで若手アーティストのアートが買える店が出来たり。特に現代アートが面白い。 私は5年ほど前から、インテリアに色でアクセントを入れるのを目的に「買える」アートをみて回るようになりました。その中でも一度にたくさんのアートに出逢えるアートフェア

「素」を見ること

高校を卒業してすぐ、母が倒れた。父によると死に病だという。家事は3人兄弟で回していたが、学校に通っている弟と比べると、私に少し負担が多めになる。受験勉強が思うようにできなくて、苦しんでいた。余命がないのなら、センター試験に特化し、高得点を見せて喜ばせてやろうとした。 そしたら、かなり高得点に。幸い母親は死に病から脱出できたのだが、そのあまりの高得点でみんな勘違いした。しかし私は、二次試験の勉強にまで手が回っていなかったので、京大は無理だと感じていた。ところが誰も反対しないど

【短編小説】涙くんと涙ちゃん

「見ててな」 藤野は上目で俺を見ながら、人差し指で自分の目頭を差した。そこから、ツー、と涙が溢れ出す。鼻筋を通って、口元まで垂れてきたところで、涙を手で拭う。 俺は、急に泣き出した友人をまじまじと見る。 「まあ、びっくりするよね。これが俺の特技というか、特殊能力」 藤野はテーブルの紙ナプキンで涙を拭き取っている。 「自在に涙を流せる・・ってこと?」 藤野は頷く。 テレビで見るような、役者さんが役に入り込んで泣くのとはワケが違う。2秒ほどで、蛇口を捻るように藤野は

はたらいて、愛したい。

ある日、ぷつんと糸が切れてしまった。 ―こんなになってまで、わたし、何ではたらいているんだっけ? 洗面所の鏡に映るうつろな自分に問いかける。 私の目はうつろなままで、沈黙を貫いている。遠くから泣き声が聞こえる。 ■ 営業先に向かう大江戸線に飛び乗り、窓に反射する自分と目が合った。 コンシーラーで隠しきれないクマ、ファンデーションが浮いた肌。 老け込んだ自分の姿に愕然とする。 バッグの中でスマホが振動し、娘が通う保育園の番号を見て、心臓が跳ねた。電車を降りてすぐにかけ

香港の海鮮料理店のおじちゃんの一言で、転職を決めた話

「すみません……お茶のおかわりください」 辺りをキョロキョロ見渡しながら、私は慣れない広東語でホールのおじちゃんに声をかけた。 日本との時差がたった1時間なんて信じられないくらいの別世界・香港にある小さなレストランで。 外国語を使うのは、とても勇気がいる。 賑やかな場所で、大きな声を出すのが嫌だからか。日本人であることを、なんとなく隠したいからか。もし間違っていたら、恥ずかしいからだろうか。 「はいよー! さっきと同じポーレイ茶だよね? 今持って行くよ!」 おじちゃん

大文字を観る会 2021YUBILYMPIC

8月16日、京都の五山の送り火にあわせて開催するソフトディバイス の夏の恒例イベント。今年もオンラインにて「大文字を観る会」が開催されました。今年は、オリンピックイヤーということで、指で遊べるコンテンツを集めた「YUBILYMPIC2021」をメインコンテンツとして全体を構成しました!会場を思いっきり楽しんだ後はきっと手が辛いはず。。。ちなみに、会は終了しましたが、miro会場では今もゲームを楽しむことができます。 ↓miroの会場はこちら ちなみに昨年から、オンラインホ

【一期一会】 学生時代キャンプリーダーをした思い出

学生時代、私はキャンプリーダーのボランティアをしていました。 キャンプリーダーとは、子どもたちと一緒にキャンプをするお兄さんお姉さん的存在。 子どもの安全管理や面倒を見ながら、一緒に遊んだりレクリエーションをしたりして、共に生活していきます。 キャンプリーダーをしたきっかけ大学1年生の秋、長い夏休み期間を終えて久しぶり会った友人から「夏休みの間キャンプリーダーをやって凄く楽しかった」という話を聞きました。 キャンプに少し興味のあった私は、単純に「良いなぁ」と思いましたが

キャンプは不便でめんどくさい。でもそれが楽しい。

私たち家族は人の多いところが苦手です。イベントや街が苦手です。私はディズニーランドに行くと、夢の国にエネルギーを吸収されてしまい、疲れが取れるのに1週間もかかってしまう。そんな人間です。 一方、キャンプはとても充実感を感じます。コロナ禍以降は一度も行くことができていませんが、その前は朝霧高原の草原、伊豆の森の中、富士五湖の湖畔など、毎回テーマを変えながら楽しみ方を模索したりしました。 なぜキャンプを楽しいと感じるのか。これは私なりの考えですが、キャンプは不便でめんどくさい

クルージングで食べたあの味

私は生まれ育った瀬戸内海の海が大好きです。穏やかで人の気持ちを受け入れてくれる優しさがあります。 オーシャンビューのお気に入りのカフェで瀬戸の島を行きかう船を眺めていると、日常の小さな悩みなど消えて無くなるような解放感が味わえます。 その海で私は人生初の美味しいグルメに出会いました。 夏のある日の出来事です。 「今度、知り合いのクルーザーに乗るんだけど、行ってみない」 「えー、クルーザーすごい、乗ってみたい」 「仲間にはダイバーがいるから教えてもらえるよ」 「私

後悔しないため80代祖母を連れて行ったハワイの海辺にて

海に足が浸かる。 さらさらと指の間を抜ける乾いた砂と少し色濃く濡れた砂。その境目を超えて歩き続けると、透明な水が優しく足の甲を撫でる。 足首まで大洋から運ばれた水温が絡みつく。体温より低い摂氏25度は冷たすぎず心地よく、波音と共に引いてしまうと名残惜しい。 もう一度海が押し寄せる。真下を見ると海には色がなく、自分の素足が見えるばかり。少し顔を上げて視線を遠くに飛ばすと、海の深さと共に少しずつ色がつく。その果ての水の作った広原は地球色だ。 海に足が浸かる。 ただそれだ

終幕あるいは永遠のような、暗い海辺で眠った夏。

とにかく海に行きたかった日がある。 なぜかわからないが、その日私は「行かなきゃ」と思ったのだ。 海はそんなに好きじゃなかったのに。 そもそも、私は海に全く親しみがない。 身近な存在になったことが、まぁ一度もない。 どれくらい身近ではなかったかというと、海の家とはその名の通り、海の上に建っているものだと思っていたくらい「海の家」を見たこともなければ、夏に海に行って遊ぶというのをしたこともなかった。 大学で東京に上京してきて「夏だね!海行きたくない?」なんて友人に言われても「

海色に染まれ

海と一緒に育ってきた。 育つといっても毎日サーフィンをしていたわけではないし、ましてやそんな経験なんて微塵もないから、この表現が適切かどうかは分からない。 けれども通っていた中学校は海の目の前で、海抜数メートルの場所にあった。一年生のときなんかは四階に教室があったから、教室の窓から海が見渡せた。 晴れた日には海が太陽の日差しを受けて鮮やかな薄群青色に光がキラキラと輝き、空の青と海の青の境目が分からなくなって飲み込まれそうだった。 雨の日には波が荒れた。少し黒っぽくなっ

十条~東十条は楽しい!バングラデシュを中心とした世界の料理店&食材店マップを作ってみたよ

東京都北区にある十条~東十条エリア。 この辺りは異国の現地感漂うお店が軒を連ねていて、まるで海外へ旅しているみたいな気持ちになれて歩いてるだけで楽しい。 その中でもバングラデシュのお店が多いことに気づきます。 ナショナルジオグラフィック日本版サイトの記事"東十条は南アジアの交差点"によると「この町にバングラデシュ人が住み始めたのは30年前くらい。少しずつ増えていき、いまは500人くらいのバングラデシュ人が暮らしています」とのこと。バングラデシュ人の人口の増加と共に店も増えて

装丁家・桂川潤さん「造本装丁と本づくり」(リレー講義「大学と出版文化」2021年6月16日3時間目オンライン講義)

現代日本を代表する装丁家のひとりであった桂川潤さんが、去る7月5日に御病気のため急逝されました。桂川さんは、東京外国語大学出版会にとっては、当会のたくさんの書物デザインをお引き受けいただいただけでなく創成期から深くかかわっていただいたかけがえのない助言者でありました。なによりも「オブジェとしての書物」という考え方を、わたしたち編集部は桂川さんから受け継いでいます。 また、桂川さんは、毎年出版会が実施している連続講義の講師をずっと引き受けてくださいました。2021年6月16日