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#エッセイ 記事まとめ

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noteに投稿されたエッセイをまとめていきます。
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2020年5月の記事一覧

ウイスキーボトル

はじめて出会った酒の銘柄を僕ははっきり覚えている。 それは25年前の春。まだ僕が10歳だった頃、みんなが外に出れなかった時期があった。 毎晩飲み歩き、家で晩酌をすることがなかった父も、この2ヶ月間だけは例外で、毎晩家で酒を飲んでいた。 多分深夜の1時ごろだったと思う、急に目が覚めてトイレに行くと、リビングで父が一人、酒を飲んでいた。 僕に気付いた父は「こっちにおいで。」と僕を呼んだ。僕が近付くと、父は空になった丸く黒いボトルを大切そうに抱きかかえた。まるで、鶏が今産み落

アーティストになったのは、自分を殺さない人生を作るため

朝から思ったことを紙に書きまくる毎日。 普段だったらそのあと「ルーティン」に従って家事や自分のケアをするのだけど、愛猫の水を変えてトイレの掃除をしたら、リュックに「最低限必要なもの」を詰め込んで外に出た。でも歩いてみたら充分重い。 家の近くは緑のある場所が多いのだけど、また少し遠くへ来た。「不用意な外出」に含まれるかもしれないけれど、また自殺が頭を掠めたので勘弁してほしい。 アーティストに転向しようと決めてたことや、その理由を、ずっとうまく明文化できないでいた。いや、しよ

私はおはぎに帰っていく

母と私の間には、とっておきのお楽しみがあった。 私は大阪市東住吉区で生まれ育った。近鉄南大阪線と平行に駅前から北に伸びる商店街での思い出は、私の幼児期から成人するまでの記憶の中を大きく陣取っている。 迷子になり家までパトカーで連れて帰ってもらった警察署、財布を落とした路地、ポマードの匂いのする散髪屋ではなく甘い香りのするヘアーサロン、はじめてのアルバイト先の本屋。中に入ると最低30分は足止めされる手芸材料店。 もう何十年も経つというのに、目を閉じると懐かしい商店街の映像

「心」を、綴るということ

手書きの手紙が好きでした。 小さい液晶に数字が届いたあの時から、文字が届くようになり、画像も届くようになり、いつの間にかリアルタイムで世界中とタイムラグもなく顔を見ながら話せる時代になりました。 指で打つメッセージはとても便利で、どんな言葉も相手に届けてくれます。 顔を見て伝えるには勇気がいることも、言葉で送るのはとても簡単です。 顔も知らぬ誰かと趣味を語り合うことも、地球の裏側の人とさえ、簡単に繋がることができる。 世界は昔よりももっと簡単に、広げることができるよ

【雑文】面白い毒

   昔好きで聞いていたラジオのDJさんが、お酒のことを「面白い毒」と評していた。    初めて聞いたときはなんだそれと思ったのだけれど、よくよく考えてみると面白い視点だと思う。  なるほど、確かにその通りだ。酒は実際には毒物だし、しかも面白い。    お酒とは、基本的にはエチルアルコール水溶液のことだ。    市販されている消毒用エチルアルコールの中にも飲んでも問題ないものがあるけれど、お酒はそうしたエチルアルコールのうち、飲みやすいような味が付いているものだと言える。  

日曜日は、いつもデートの前日だった。

初夏の日曜日の昼下がり。 徐々に傾いていく陽を眺めながら、「ああ、明日からまた仕事か」とふと思った。そしてすぐに、自分の感情に驚き、戸惑った。 社会人3年目、はじめて日曜日を憂鬱に感じていた。 *** 新卒の頃、休日の夜はだいたい大学の友人か会社の同期と遊んでいた。「明日から仕事かあ。行きたくねえ」と嘆く友人たちになんとなく相槌を打っていたけれど、私はまったくそんなことを思わなかった。理由は至って簡単なものだった。 OJTが始まり、担当についてくれた先輩に一目惚れした

眉毛の濃くない加藤諒、探してます

「加藤君、日能研入ったんだ?」 小5の頃、友達の母親に突然言われて驚いた。塾に入ったのを知っていたことに対してではない。日能研だけには絶対入らないと決めていたのに何でそんな話になっているのか驚いたからだ。(日能研は通称NバックというN字の反射板のついたバックで塾通いする決まりがあり、それがダサくてたまらなく嫌だったのだ) よくよく話を聞くと、模試の成績優秀者欄に「加藤諒」というやつがいたからだった。つまり、俺と同姓同名のやつ。ただ、同姓同名というだけではそれが俺だと判断し

打って出る。

打って出たいと思う。 どこへ? わからない。 ともかく打って出ようと思ったのである。 この気持ちを大事にしたい。 昨夕、突然「前向き」になった。 何年か先のこととか、 老後のことが心配で恐怖で、 ずうっとウツウツしていて、 どうにもならなかったのだが、 突然、前向きになった。 もしかしたら「躁転」の兆しなのかもしれない。 オレの病状にとっては躁転するのは望ましくない。 どちらかというと、少しウツウツとしているくらいが、 医学的にはちょうどいいらしい。 「低め安定」ということ

初めてのインターネットは、銀河鉄道999に乗るような気持ちだった

唐突だが、私は銀河鉄道999が大好きだ。機械化が進む地球で、主人公の星野哲郎が機械伯爵に最愛の母を殺されて、復讐のために機械の体を手に入れるために、絶世の美女メーテルと銀河鉄道999に乗って旅をする壮大な物語である。哲郎が999に初めて乗り込むシーンはハラハラドキドキで、アニメなのに手に汗握ってドキドキしながら見ていた。 私にとってインターネットも、999に負けないくらい、いやもっと現実的な機械化の初体験であった。 会社では、<これからの時代は、検索はヤホオでインターネッツ

「ありのありあり」と「ありありのあり」はどっちがありか? 5千個の絵文字を創った人と整理する

こういう絵を見たことないだろうか。チャットの投稿に対して、スタンプみたいなものが押されている。 これは、チャットツール「slack」のカスタム絵文字という機能だ。書き込みに対してリアクションを押せるのだが、その画像を自分で作れるのである。そのため社内には多様な絵文字があって、この間とある発言に同意すべく「あり」を押そうとしたら、 選択肢が多すぎる。なんだこれ? 代わりに「わかる」と押そうとしたら、 めちゃくちゃあるな。 その状況に、ふと疑問を抱いた。 「ありありの

【創作エッセイ】犬を飼ったことがある人へ(跡地)

この小説はKindleに移動しました。 また、作者のDiscordサーバーであとがきを公開しています。

夫のこと好きな理由。

夫のことが好きだ。困ってる人に貸したい。 もし夫が万が一浮気をしたとしても、浮気相手を憎めない自信がある。絶対渡さないとは思うが、もういっそ3人で暮らしましょうか?くらいは言っちゃうかもしれない。 夫は私にはもったいない。それは別に、私が私をゴミみたいに思ってるからとかじゃない。っていうか、夫にもったいなくない人物に私は会ったことない。 お父さんのことより夫が好きだ。お母さんより好きかもしれない。生まれ変わったら何になりたい?と聞かれたら、夫みたいな人間になりたい。生ま

「私たちの時代はそれが普通だったよね」症候群

「私たち(俺たち)の時代はそれが普通だったよね」 「昔はもっとひどいことがあったんだから」 そして、「今の人はいいよねえ」。 こういう言葉をネットでもリアルでもよく聞く。たいていは差別やハラスメント、いじめなどの行為が表沙汰になり、問題視されたり糾弾されている際に、その話題への反応として目にすることが多い。半分は驚きながら、半分は笑い、口を歪ませながら「でも、」という前置きから始まることもあるだろうか。 近年、日本でもようやくハラスメント問題や不当な差別、人権侵害や法令違

僕のスター(記憶に残っている撮影エピソード7 木村拓哉さん)

 LINE NEWSで木村拓哉さんのポートレート撮影をさせていただいたことがあります。この日はLINEのCM用の動画撮影もあり、それが終わった後に僕が木村さんを撮影する予定でした。広告代理店の方からどういう流れで撮影するか教えて欲しいと説明を求められました。広告の現場でもありますし、責任者が撮影内容を確認するのは当然のことなので説明をしました(とはいえ、立ったり座ったりするぐらいで特別なことをしてもらう訳ではありませんでした)。当日に僕が撮影現場を見て、ここでこう撮りたいと思