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36.マッチ買いませんか?誰も買ってくれない希望というマッチ、買いませんか?

「希望というマッチ」

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                挿絵は、Hans Tegner (1853-1932) によるものです。

私はとても不思議な夢を見た。

気がつくと、私は夢の中に一人で街を歩いていた。それはひどく、寒い夜だった。街の明かりは夜だというのに眩しく、辛い光に感じた。それに街中の音楽が煩い。それは雪の降るクリスマスの日だった。
一年はあっというまに過ぎ去り、振り返れば何をしたのか?何もしなかったのか?が想い出せない。
たくさんのひと通りを離れて薄暗い公園の近くを歩いていたら、裸足のままの少女がいた。私は驚いた。この雪が降る中でそれも裸足のままで震えながら立っている少女の姿だ。
その少女は、マッチを売っていた。
まるで、アンデルセンの童話の「マッチ売りの少女」みたいだ。

「…マッチ、買いませんか?誰も買ってくれないマッチはいかがですか?」
いまどき、ライターのある時代にマッチを買う人など皆無に等しい。私は目を疑った。それは信じられないからだ。
「マッチを売っているんだね!誰も買わないでしょう?」
「はい、誰も買ってくれません…。」

私は子どもの頃に読んだ「マッチ売りの少女」を想い出した。その物語は私にしてみればとても残酷な話で、どうしてあのような童話が世界中に広がったのか、今さらながらその意味が理解できていなかったからだ。
その少女は、家には戻れず、売れなかったマッチのわずかな炎で手のひらを温める。そのわずかな炎の時間に様々な場面を見る。マッチをつけるたびにあたたかな部屋が現れ、美味しい御馳走や、大きなクリスマスツリーが目に浮かんだりしていました。
最後に少女は残ったマッチのすべてを燃やして大好きなおばあちゃんと会います。そして、そのおばあちゃんと一緒に旅立つのです。これが「マッチ売りの少女」の悲しい、寂しい終わり方だった…。

私はその少女に声をかけた。

「では、おじさんがそのマッチを買いましょう!」
「何本にしますか?」
「えっ、ひと箱でもふた箱でもいいよ」
「いえ。何本にしますか?」
「どうして?」
「全部差し上げると他の人に差し上げることができなくなるから…」
「…他に、誰か買うの?」
「はい、必要な人に!」
「そう、では一〇本買おうかな!」
「必要な本数をお願いします…」
「必要な本数って?」
「はい、おじさんが会いたい人の分だけです」

私は、考え込んだ。私が会いたい人だけの分?一瞬だが目を瞑り考えて見た。そうだ、父と母、友だちや先輩がいた。しかし、だからといってそれがどうなのだ。お線香だと思えばいいのか?

「では、四本お願いする」
「はい、四本ですね。10セントいただきます」
「…ほんとうに、それで良いの?」
「はい、ありがとうございます。大切に使ってくださいね!」

私は、マッチを四本買った。童話のように、女の子が死んでしまうよりも少しでも役に立てば良いと思ったが、本当に役に立ったのかどうか心配になり、その場を離れてからも少女を遠くから眺めつづけた。
すると、次々にお客が現れ、全部完売したように見え、私は少しばかり安心をした。

私は少女の去った公園の片隅にあるベンチに腰かけて、
一本目のマッチをつけた。すると、その小さな炎は大きくなりこの世を去った父の姿が現れた。私は慌てた…。
「と、とうさん…」私は声が出なくなり涙が溢れだした。
父は何も語らず、ただ微笑んでいた。
二本目のマッチに火をつけた、昨年この世を去った母が現れた。
「か、かあさん。元気なの?」母は笑っていた…。
次に三本目のマッチに火をつけた。すると、二年前にこの世を去った妻と子どもが現れた。
「お、お前…。ありがとう、幸せだったよ…」と声をかけた。
父や母にも心の中では同じように語り掛けた。

一分も持たない、マッチ一本の炎だが、私には長くありがたく思えた。
そして、四本目のマッチに火をつけて私は祈り、願いをした。
「もう一度、みんなで暮らしたい…」と。
父や母も妻も子どもも、みな微笑んでいた。
最後の一本は一時間以上の時間の長さに感じた。

ああ、私はとても幸せだったのだと想い出した。

私は、そのまま雪の上で倒れながら目を閉じた…。

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私はその不思議な夢から目覚め、この世界に疑問を持ちながらテレビをつけた。騒がしい音と雑音と共に、本日の感染者数、重症者数、死者数の表が画面に映し出される。
人々は恐怖心に怯えながら生活しているこの世界。
恐怖心を煽り続けるこの世界。そして、その恐怖に振り回され続ける人々。

私は、あのマッチ売りの少女を想い出す。
マッチをひと箱は売らない、必要な人が必要な本数だけを差し出す。
それなのにこの世界は、マスクを買占め、アルコール消毒剤を買占め、うがい薬を買占め、われ先に接種を、と。これからも何か騒げば何か買い占め続ける人々たちが目に浮かぶ。
そして、会いたい人と会わない、会えない、このとき、この時代。

おかしいよ!明日、大切な人と会えなくなるかもしれない未来なのに。
おかしいよ!会いたいと思えば、会えばいいんだよ!
おかしいよ!家の中に居続けるなんて、何の根拠もなくて!


私は、大切な人が待っているあの世界にも早く行きたい、
もう一度会いに行きたいと本気で考えている。

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                  挿絵は、Hans Tegner (1853-1932) によるものです。

ごきげんよう!coucouです。

みなさん、いつもいっぱい、いっぱいの応援ありがとうございます。

大切な人に逢いたい、好きな人に逢いたい、愛する人にふれたい。小さな子どもたちを力いっぱい抱きしめたい。この世を去った、父に逢いたい、母に逢いたい、友だちや大好きな人に逢いたい。人との別れはとても悲しく不幸なことだけど、会いたい人に逢えないなんて、もっとおかしいね。

私は大切な、大切な、かけがえのない、あなたにもう一度逢いたい。

そしてね。「ありがとう!」「大好きだよ!」と伝えたいんだ!


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