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44.この世を去るとき、どうして後悔をしなければならないのでしょう?教えて…

「死神といわれた天使」


彼女はナナという名前の二級天使です。
たくさんの人のお役に立つことをして、ようやく三級天使から二級天使になれたのですが、銀色の羽を持つ一級天使になるのはいつのことでしょう…。

ナナの背中には小さな羽があって、世界中どこでも飛んでいくことができます。明るい太陽と美しい緑とお花畑、そして大地から湧き出る水と川の流れ、大自然からの贈り物の世界でナナは生活しています。
二級天使のナナは大好きなこの美しい世界で、多くの人たちを別の世界にお連れする案内人をしていますが、それはとても辛い仕事でもありました。

ある日、ナナがお花畑で泣いていると、白髪のおじいさんがやってきて彼女に話しかけてきました。
「やあ、やあ、可愛い天使さん。なにがそんなに悲しいのかな…。目をそんなに真っ赤にして。天使さんも人間と同じように涙を流すのだね」

ナナはからかわれているような気がして黙っていました…。
「…おっと、もうしわけない…。どうやら年老いた私の口が失言をしたようだ…。そんなに悲しまないでおくれ。まわりのお花たちも悲しくなってしまうからね」

そう言って、そっとナナの髪を撫でる老人に、ナナは不思議なものを感じました。
「…おじいさん、おじいさんは私のこと怖くないの?みんな私の姿を見ると怖がるのに、どうしておじいさんは平気なの?」
「どうしてキミを怖がる必要があるのかな…?私にはとても可愛いお嬢さんに見えるよ」
「可愛いですって…」
ナナから笑顔がこぼれはじめました。
「…ありがとう、おじいさん。おじいさんは誰ですか?」
「私の名はジュウという。もうすぐ百歳になるんだよ…」
「ジュウさんにはまだお迎えが来ないの?」
「お迎えって?天国とか、地獄とかいう世界へ行くためのお迎えのことかな?」
「はい。私はその世界に人間をお連れする案内人なのです」
「ほほう。では、私の案内もしてくれるかな?」
「……」
ナナには答えることができません。
おじいさんの背後に見える光のかがやきが、まだその世界に案内する合図を出していないからでした。

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小さな子どもたちの光は、赤やオレンジ色にかがやいています。
大人になるにつれて、その光は青や紫色の光に変わっていきます。
歳をとって死が近づいてくると、まばゆい黄金に変わるのですが、ジュウさんの光は、まだ冬の陽ざしのように細い金色の光でした。
その金色がやがてまばゆい黄金に変わり、黄金が少しずつくすんで灰色に変わるとき、人はこの世を去るのです。
でも、そのことは絶対に人間に教えてはならないことでしたから、ナナは返事ができなかったのです。

「…ううん。次に私が案内する人はジュウさんじゃあないの。あそこのお家に住んでいるおばあさんなの…」
「あそこは、私と同い年のハチさんの家だ。長いこと病気で苦しんでいたが、もうすぐこの世を去ってしまうのだね…。哀しいことだが、早く行ってあげておくれ。そしてもう二度と苦しまないように、天国に連れて行ってあげておくれ…お願いする…」

ナナはしばらく黙っていました…。
それには、ある理由があったからでした。
一級天使は、この世に誕生するたくさんの赤ちゃんたちを、お母さんのもとに届ける役目なのですが、ナナのような二級天使や三級天使は、死者を別の世界に案内する役目だからです。


それがナナにはとても辛いのです。
死にゆく者たちの多くが、ナナを恐ろしい死神だと思っているのです。
ほんとうは、死神などいないのに。
人間たちが勝手に作りあげただけなのに。
天国や地獄もありません。
それも人間が考え出したものです。
生まれることも、生きることも、死ぬことも、すべての人に平等に与えられた天からの贈り物なのです。でも…。
「ジュウさん、私はいつも死神だと思われてしまうのです…。人間は私の姿を見て恐れ、怯え、失望に包まれてしまうのです。まるで私は悪魔のよう…」

でも、ジュウさんには可愛らしい天使にしか見えません。
まだ寿命が残されているからなのでしょうか…?
いえいえ、それには訳がありました。
それは、百歳を目前にしたジュウさんには何も悔いがなく、いつ死が訪れても平気だからです。
むしろ早くあの世に行って、ずっと昔にこの世を去ってしまったジュウさんの父さんや母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、兄弟姉妹たちに会いたいと思っているほどです。

ナナはジュウさんに質問をしました。
「ジュウさんには、どうして私が死神に見えないの?ほとんどの人が私を嫌うのに…」

「それは簡単なことだよ。私は今までの人生(いのち)に感謝しているだけだ。まだ生きたいとか、まだ死にたくないとか、あれをしたい、これもしたい、人生があと二十年、三十年あればもっと幸せになれると思っている人間には、ほんとうの姿が見えにくいのだよ…。誰もが人生を充分に、そして全力で生きてきたはずなのに、その素晴らしさを忘れてしまうのだよ。可愛い、可愛い天使さん、キミは自分を卑下することはないよ。キミの心の美しさが後悔となって、死にゆく者に反射してしまうだけなんだから…」

この世を去る者が、どうして後悔をしなければならないのでしょう?

誰もが与えられた人生を一生懸命に生きてきたはずです。
たくさんの辛い出来事があり、忘れられないほどの苦しみがあったかもしれません。でも、この世を去る者が、そのことに後悔をして何の意味があるというのでしょう。
苦しかったことも、悲しかったことも、辛かったことも、想い出のすべてが素晴らしい人生の証だということを、ナナにはなかなか伝えることができません。

ジュウさんの言葉をかみしめながら、ナナはハチおばあさんのところに向かいました。

「ハチおばあさん、こんにちは。私は天使のナナです」
「…ひゃあ!悪魔だ、死神だ。あっちへ行っておくれ!誰か死神を追い払ってちょうだい。きっと私を地獄に連れて行く気だよ!助けて…」
「ハチおばあさん、どうぞ怖がらないでください。今あなたの側には、あなたのお子さんたち、お孫さんたち、ひ孫さんもいますね。おばあさんはよく頑張りました。女手一つで三人の子どもたちを立派に育て、お孫さんやひ孫さんに囲まれた素敵な家庭をつくりましたね…」

ハチおばあさんは、それでも怯えた表情で子どもたちに話しかけました。

「私には、まだまだやり残したことがあるのよ。ずっと後悔だらけの人生だったわ…。私は三人の子どもが生まれた後に離婚した。亭主は博打好き、酒好き、女好きで金使いが荒く、借金だらけで生活費などほとんど入れてくれなかった。だから私は、おまえたちを抱えながら、毎日街頭で靴磨きをしていたのよ。お金が必要だったの。本当はね、おまえたちに十分な食事を与えたかった…。普通の生活をしたかった…。本当は、朝は夫や子どもたちを送り出し、毎日家で掃除や洗濯、夕飯の支度をしていたかった。食事をするときは、家族全員が揃って神様にお祈りしたかった。それが私の夢だったの。でも、そんなちっぽけな夢も叶わなかった…」

ハチおばあさんは、子どもの頃から平凡な生活に憧れていました。
ハチおばあさんの育った環境には、いつもそれがあったからです。
優しいお父さんとお母さんはとても愛し合い、娘のハチおばあさんをこよなく愛し、あたたかく見守り育ててくれました。
大きな夢ではありませんでしたが、両親がハチおばあさんに与えてくれた生活が、いつの間にか彼女の理想となっていました。でも、現実は正反対で辛いことばかりの人生だったのです。

「私は一人っ子だったから、子どもは何人いてもかまわないと思っていたわ…。子どもは産みっぱなしというわけにはいかない。贅沢はできないけれど、せめて子どもたちの命だけは守りたいと思い続けてきたのよ…」

ナナは、悲しい思いで話しかけました。

「私がまだ悪魔に見えますか?私はそんなに怖い姿をしていますか?」
「…あんたは、私を地獄に連れて行く死神そのものよ…」
「おばあさん、おばあさんはなぜ後悔しているの?立派に三人の子どもを育て、一生懸命に働いてきたじゃない?とても素晴らしい人生だったと、私は思いますよ」
「…何が素晴らしい人生だ!あの夫のせいで、私の人生はすべて狂ってしまった。やり直しはもうきかない、取り戻せない人生…。苦しいだけの人生だった…」

まわりにいた子どもたちは悲しそうにうつむいていました…。

「おばあさんには、何かひとつぐらい良い想い出はないの?」
「…」ハチおばあさんは考え込んでしまいました。
生まれてからの百年に近い年月をふり返るかえり、一つひとつの出来事を思い出してみましたが、やっぱり辛いことばかりで、良い想い出など浮かんできません。
そこでナナは、ジュウから聞いた話を伝えることにしました。
辛かったことも、嫌だったことも、苦しかったことも、すべてが感謝だということを。

「…ジュウさんだって?」
「はい、ジュウさんがそう話してくれました…」
「ジュウさんは、いまどこにいるの?」
ハチおばあさんは、ジュウのことを知っているようでした。

ナナが夕陽を眺めていたジュウをハチおばあさんの家に連れていくと、ハチおばあさんは泣き出してしまいました。ジュウおじいさんの目にも涙が光っています。

ジュウは、夫と別れた後のハチをずっと見守り続けていた人だったのです。
でもハチは、子どもを育てるのに精一杯で、ジュウの気持ちに応えることができなかったのです。それでもジュウは十分に幸せでした。

「ジュウさん、ありがとう。ごめんなさい。私はあなたにずうっと見守られていましたね。いつも心に余裕がなくて、あなたの気持ちをわかってあげられず…どうか許してくださいね」

ジュウは、ハチを愛していました。
ふり向いてはくれない彼女でしたが、ジュウにはハチの状況が充分に伝わっていました。

ジュウはハチの耳元で言いました。
「あなたに出会えて、私の人生はとても素晴らしかったよ…。それ以上の喜びがあるだろうか…。いま、あなたには素晴らしい家族がある。それこそが幸せで、それだけで十分すぎるほどの人生だよ。私はあなたを羨ましく思う…」

その言葉で、ハチの後悔はすべて消え去っていきました。
後悔よりも、得られた幸せの方がハチの心に染みわたってきます。
たったひとつの素晴らしい想い出…それは、ハチにとってもジュウとの出会いだったからです。当時のことが、ありありと想い出されてきました。
すると、たったひとつの想い出が、幾百、幾千、幾万の幸せに結びついていたことがわかるのです。もう何も悔やむことはなく、死ぬことへの恐れもなく、ただ、感謝だけが心に残るのでした。
そばにいるナナが天使に見えてきました。
「…おお、なんて可愛らしい天使だろう…。子どもたちも見えるかい?おまえたちのように美しく、可愛いい天使だよ…。ごめんなさいね、嫌ったりして…」
死神にしか見られなかったナナの目が涙とともに、喜びに光っています。

ハチの両手に、ジュウと子どもたちの手が添えられました。
ハチは天使ナナに導かれ、まぶしい光の渦の中に入って行きます。
音はなく、全身に光の粒が雨のようにあたります。
後ろをふり返ると、ジュウと子どもたちの笑顔が花束のように見えます。
ハチは感謝を胸に、いつまでもいつまでも手をふり続けました。

光の先では、大好きなお父さんとお母さんがハチを待っていました。
ハチはその光の世界で新しい人生を迎えます。
いつの日かきっと、子どもや孫がハチを訪ねてくれるでしょう。
何よりも嬉しいのは、もうすぐジュウが来てくれることです。

またひとつ仕事を終えたナナ・・・おやおや?
背中の羽が銀色に輝いているではありませんか!

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coucouです。みなさま、ごきげんよう!いつも読んでくれている人には感謝しかありません!ありがとう。私は大好きな父や母に会いたい、ナナにも会いたいと思っています。

世界の人口は約73億人、2050年までに約97億人、2100年までに約100億人を超すだろうといわれています。
世界中の死者の数は、一日に約146880人(年間約177一万人)いるといわれています。(1秒に約2人がこの世を去っているのですね)

世界中の赤ちゃんは、毎日約38万人(13870万人)生まれています。
日本では1日に約2794人(年間約102万人)が生まれ、約3452人(年間約126万人)が死んでいます。

みなさまはご存知でしょうか?

©Social YES Research Institute/ CouCou 

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