結果を出すリーダーはみな非情である (冨山 和彦)
(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
ちょっと刺激的なタイトルが目について手にとってみました。ミドルリーダーをテーマにしたリーダーシップ論です。
「論理的思考力」「合理的判断力」「戦略・組織論」等、章立てとしては特段目新しくはないのですが、現代の日本企業の沈滞に対する危機感を基軸に、変革の時代の担い手として企業のミドルマネジメント層をターゲットに据えた、著者の実践的なアドバイスが開陳されています。
特に、企業再生の現場の実体験から発せられる著者の言葉には、リアリティとパワーを感じますね。
リアリティという点では、「意思決定とコミュニケーション」に関して語ったこんなくだりがあります。
どんな優れた戦略であってもそれが実行されなくては何の意味もありません。
決定を個人や組織の行動に具現化するため、著者が勧めるのは、「しつこく根負けを誘う」という方法。日本的な情緒的関係を所与の前提として、それに適応したやり方です。
時間のかかる地道な方法ですが、日本的情緒結合組織に対して、米国流/MBA流のトップダウン剛腕的方法は、よほどの危機的状況でない限りはその後遺症の方が大きくなります。
「対象の特性を的確に把握し、それに合せて対応を柔軟に変化させる」というやり方は、実は極めて「合理的」な方法なのです。
また、「日本企業の戦略性」についてのコメントも、実感に近いという点で私にも納得感がありました。
さて、本書で紹介されている「ミドルリーダー」への具体的な示唆には首肯できるところが数多くありますが、そういった類以外でも著者流の物事の捉え方の中には、いろいろと興味深いものがありました。
たとえば、「GNH(国民総幸福量)」というコンセプトについて。
このGNHは、昨年のブータン国王の来日を契機に一躍注目された概念で、世の中には概ね好意的に受け止められました。が、これに対する著者の評価はこうです。
経済成長の否定は今後の高齢化社会を担う若い世代の負担増を考えると非現実的な結論であるし、また、「幸福」という概念を定量化することについても疑問があるというのが著者の考えです。
幸福度を測るということは「価値基準の一律化」を必須とすることから採り得る方向ではないということですね。
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