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結果を出すリーダーはみな非情である (冨山 和彦)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 ちょっと刺激的なタイトルが目について手にとってみました。ミドルリーダーをテーマにしたリーダーシップ論です。

 「論理的思考力」「合理的判断力」「戦略・組織論」等、章立てとしては特段目新しくはないのですが、現代の日本企業の沈滞に対する危機感を基軸に、変革の時代の担い手として企業のミドルマネジメント層をターゲットに据えた、著者の実践的なアドバイスが開陳されています。
 特に、企業再生の現場の実体験から発せられる著者の言葉には、リアリティとパワーを感じますね。

 リアリティという点では、「意思決定とコミュニケーション」に関して語ったこんなくだりがあります。

(p132より引用) 意思決定の段階においては情緒を極力排除しなければならないが、コミュニケーションの段階で情緒を否定してしまうと、伝わるものも伝わらなくなる。・・・決断は論理的に正しくても、それを組織に納得させ、実行に移すことができない。コミュニケーションの本当の難しさはそこにある。

 どんな優れた戦略であってもそれが実行されなくては何の意味もありません。
 決定を個人や組織の行動に具現化するため、著者が勧めるのは、「しつこく根負けを誘う」という方法。日本的な情緒的関係を所与の前提として、それに適応したやり方です。
 時間のかかる地道な方法ですが、日本的情緒結合組織に対して、米国流/MBA流のトップダウン剛腕的方法は、よほどの危機的状況でない限りはその後遺症の方が大きくなります。
 「対象の特性を的確に把握し、それに合せて対応を柔軟に変化させる」というやり方は、実は極めて「合理的」な方法なのです。

 また、「日本企業の戦略性」についてのコメントも、実感に近いという点で私にも納得感がありました。

(p213より引用) よく「日本企業が戦略性に欠けるのは、トップのリーダーシップが弱いからだ」という教科書的な批判がある。しかし、私はアメリカのCEO独裁モデルやアジアのオーナー経営者専制モデルが、そのまま日本で機能するとは思っていない。・・・日本企業の固有の強み、DNAと言ってもよい強みは、やはりすり合わせ力、ボトムアップ力に裏打ちされた、集団としての現場力、実行力にある。これを活かしつつ、経営のダイナミクス、意思決定力を取り戻すには、まさにミドルレベルの要所に、ミドルリーダーを呼べる人材が配置されていることがカギとなる。

 さて、本書で紹介されている「ミドルリーダー」への具体的な示唆には首肯できるところが数多くありますが、そういった類以外でも著者流の物事の捉え方の中には、いろいろと興味深いものがありました。

 たとえば、「GNH(国民総幸福量)」というコンセプトについて。
 このGNHは、昨年のブータン国王の来日を契機に一躍注目された概念で、世の中には概ね好意的に受け止められました。が、これに対する著者の評価はこうです。

(p85より引用) ブータンのGNHの話も、経済成長の追求を頭から否定する議論に使われることには、非常に違和感がある。

 経済成長の否定は今後の高齢化社会を担う若い世代の負担増を考えると非現実的な結論であるし、また、「幸福」という概念を定量化することについても疑問があるというのが著者の考えです。

(p86より引用) 幸福度などは、国家に決めてもらう類のものではない。自分の頭の中の幸福観に他人を巻き込むようなことは、国家であっても個人であっても、決してするべきではない。私は、GDPやGNI(国民総所得)のような経済指標のほうが、そこに余計な価値観が入り込まないぶん、はるかにましな指標だと思う。

 幸福度を測るということは「価値基準の一律化」を必須とすることから採り得る方向ではないということですね。



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