日本人へ 危機からの脱出篇 (塩野 七生)
(注:本稿は、2014年に初投稿したものの再録です)
この塩野さんの「日本人へ」のシリーズは、1作目の「リーダー篇」、2作目の「国家と歴史篇」ともに以前読んでいます。
本書は、その3作目。現代社会の「危機」に対する構えについて、例のごとく塩野さん一流の歯切れのいい主張が紹介されています。
具体的な内容は「文藝春秋」のコラムをベースにしたものなので、その時の世相を反映した小文の集合体という体裁です。採り上げられているテーマは、やはり、イタリアや日本を舞台にした政治的なものが多いですね。
たとえば、「世界中が『中世』」というタイトルの章では、多くの国家が集う国際会議を材料に、そのなかでのリーダー役の要件について論じています。
このあたりの着眼や言い回しは、まさに“塩野流”ですね。
もうひとつ、新首相(当時は民主党)のリーダシップについて語ったくだり。
日本大震災直後の東北地方の復興プロセスにおける政治&政治家の役割を指摘しているのですが、短いフレーズで的確ですね。
こういった視点にみられるように、本書では、前著からの流れを引き継いだリーダー論・統治論を綴るにあたって、「東日本大震災という未曽有の大災害に直面した日本の政治・社会」という切り口が加えられています。
その中から、特に私の印象に残った部分をご紹介しましょう。
仕事で日本に帰国した塩野さんは、自分の目で見るために震災の被災地を訪れました。
現地の宮城県庁がれき処理担当の方との話は、塩野さんにとっては、何とも情けなく、また、居たたまれないものだったようです。
当時の東京都の対応についての報道です。
私は、石原前知事の基本的な政治観について賛同するものではありませんが、このケースは、言い方はともかく、あるべき姿に向かったひとつのリーダーシップの発揮形態として評価されるべきだと思いますね。
最後に本書を読み通しての印象です。
今後の塩野作品としては、小文の再録ではなくて、それなりのボリュームでの随想を期待したいです。本書を含めた3部作は、元が雑誌のコラムであるがゆえに、その執筆時のトピックを意識したタイムリーなものなのですが、そういう時勢に囚われない “真正塩野的「日本人論」” をゆったりと説き起こして欲しい気がしました。
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