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長旅に出ると決めた

私は、帰る日を決めずに放浪していたあの旅を忘れられずに今も生きている。
今は日本にいて、ちゃんと職場へ毎日出勤して、割と責任ある立場として働く社会人に擬態して生きている。
これまでは、時々、有給休暇を駆使して3週間連休を毎年必ず取って旅に出て、それ以外にも合間にちょこちょこ1週間くらいの休みをもうけては軽めの旅を挟んで、なんとかあの旅のようなものを追いかけて生きてきた。
コロナの大流行により世界がガラッと変わってしまい、私からすれば鎖国時代に近い状況となり、海外に旅に出るのを止めた。
読んでた本を急にパタンと閉じるように音がした。
パタン。
今でも海外へ旅に出ている人たちは一定数いるにはいるが、私はそれを選択しなかった。
仕事のため?自分のため?国のため?しない方がいいだろうという空気のため?よく分からないが、この選択は正しいと今も思っている。
よく分からないがと書いたが、本当はここでは書かないが、理由はよく分かっている。それに、あの状況で旅に出たって、楽しめないのは間違いないからである。

そうやって、海外旅がお預けとなり、コロナの野郎の隙を突いて国内を旅したり、ソロキャンプという楽しみを見つけて、繰り返してきた。
これは間違いなく新たな楽しみとなったのだが、はっきりと分かっていることがある。
それらは、海外への旅の代わりとしての役目は全然果たせていないということ。
むしろ、海外へ長期で旅したいというどうしようもない欲求、いや衝動が心の奥底で蠢いてきているのである。
今iPhoneでこのnoteを書いていたら「うごめく」が「蠢く」という漢字に勝手に変換されたのだが、春の下に虫が2匹いることを改めてまじまじと見て、私の心の下の方にもこの漢字のように虫がいるなあと、漢字の成り立ちに感心したのはさておき。
この衝動はきっと無視できない。
コロナがなければ、もしかしたら、これまで通りの3週間旅を毎年続けながら、納得していたかも知れない。そのうち、気づいたら今より体力が衰えて3週間の旅もしんどくなっていたりするのだろう。
だけどもうその世界には生きていない。

急に旅を取り上げられたことで、パタンと本を閉じたことで、騙し騙し気づかないふりしてきた、自分の下の方にいる虫2匹が動いているのに気づいてしまったのである。

それは先週行ったみんぱく(国立民族学博物館)で、色んな世界の文化を一気に触れて、一日かけて博物館の中の世界一周をしたことや、
天正遣欧少年使節の本を読んでることや、
家にある世界一周の本をもう一度片っ端から読み始めてしまったことなどに呼び寄せられたのか、いやこれらのことを自ら呼び寄せているのか分からないが。
そういうカードが揃ってきている。

テレビを見ていても、竹野内豊が事務所を退所した時の「五十歳を節目とし環境を変えてみたいという突き上げられる思いを感じ」というワードに引っかかった。
マツコデラックスが身の引き際について考えていて「本当の大事な魂まで売りだしたら...」というワードにも引っかかった。
40代後半の自分の立ち方についてずっと考えている。
生き方というほどの大きなものではなく、過ごし方というようなクリアなものでもなく、なんとなく、自分が数年後、どう立ってるのかもしくはどこに立っているのかということをぼんやり考えている。

長々と書いてみたものの、心はもう、少し前から固まっている。
私はまた長旅に出ることを決めた。
決めたのである。
今すぐじゃない。
でも、ぼんやりとした「いつか」じゃない。
少し先ではあるが、明確に期限を決めたので、それまでに旅に出る。
明確な期限以外に決めたのは、貯金をすること、そしてその目標金額の設定。我ながら金額設定が低すぎてびっくりする。そのわずかな金額で仕事を辞めて世界を旅しようとする魂胆に感動すらする。そして私の年代の働く人ならすでに持っているべき金額でもある。もうちょっと貯金しろよ私とは思いつつ。
世界の情勢が変わって今よりも落ち着いていたら、その期限までに旅立つ。
家を買ってすぐに、仕事をいずれ辞めて旅に出ることを決めた私。
むちゃくちゃなようで、私の中ではものすごく辻褄が合っている。
そうと決めてからの毎日は、旅に出るまでの準備期間となった。
どんな旅にしようかこれまでよりも具体的に考え始める日々。
世界一周の旅に興味はなかったが、訪れたい場所をいくつか辿って旅したり滞在したりしながらいつの間にか地球を一周してしまった、みたいなそういう旅がいいなあとか、今はそう漠然と思い描いている。
とりあえず、インドに飛んで、スペインを歩いて、ポルトガルに行くとして、それから南米に行けば、めちゃくちゃ偏ったルートとは言え、実質世界一周になるし。まあ一周するかどうかは別にいいとして。
帰る日を決めないで長い旅をする。
また、そんな旅が「したい」と思って生きてきたのだが、それを「する」のだということをとりあえず決めた。
長旅と言っても期間も決めていないが、どうせ私はそんなに貯金ができないだろうから、長くても半年くらいかも知れないけど。
でも、とりあえず決めた。




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