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フジロックで見かけたロックな女

フジロックの中止の誤報が出て、誤報を謝罪する文が出る騒ぎがあった。
オフィシャルからの発表をただ黙っておとなしく待つしかないし、どんな結果であれ、まだ粘って悩んでくれているだろう日高さんには感謝しているし、フジロックを毎年夏のライフワークにしている私は祈るような気持ちでステイウェイトしているのだけど、
フジロックで思い出すのは、3年前にキャンプサイトで朝ごはんを食べているときに、横で食べていた20代後半〜30代くらいの男女のことだ。

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また雨なのは仕方ないとして。


朝食のサンドイッチをそれぞれ食べながら、
今日は何を見たいか、という話を熱心に女の子が男の子にしていた。
別々のテントで寝ていたらしく、
「寝心地はそっちはどうだった?」なんて話をしていたので、友達関係なんだろうなと思って、
私は隣でホットドッグとフライドポテトを朝8時から食べながら、聞き耳を立てていた。

実は私も男友達と2人で1999年のフジロックに参戦した経験がある。
たまたま地元で中学卒業以来7年ぶりにばったり再会した同級生と音楽の話になり、Rage against the machine を1997年の第1回のフジロックで見た武勇伝を私が語り(ブログに書いてtwitterにあげたら予想外に拡散されてバズってしまった思い出あり)
なぜか2人でフジロックに一緒に行くことになったという経緯だ。
一緒に18きっぷで大阪から電車で向かい、寝袋で別々に寝て、見たいライブも少し違っていて割と別行動だったが、レイジだけは一緒に見ることになった。
レイジを一緒に見ていて盛り上がり、途中で私が、
「じゃ、ノリノリゾーン行ってくるわ!」と彼に別れを告げて、一人で前のノリノリゾーンに乗り込んでいったのを覚えている。
レイジが終わってから、
「この後どうすんの?」と男友達に聞いたら、
「一晩中踊ってくるわ。帰ってこなかったらナンパした女の子といると思っといてくれ。お前がおるとナンパでけへんからな。」とか言って去っていった。
中学時代、地味な印象しかなかったその男子は、チャラい男になったのだと20代の私は知った。
そして私は苗場で一人で川で頭を洗う女になっていた。(この川で洗った思い出↓)

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翌朝、普通にテントの外で友達は酔っ払って力尽きて寝ていたから、ナンパは成功しなかったようだった。
帰り道は、
彼が見たunderworldの入場制限をくぐり抜けて聞いた「born slippy」の時の神々しい話や、
私が見たハイスタで、今や伝説となっている、偶然出た本物の虹の下で「Mosh under the rainbow」を歌いながら巨大なモッシュに飲み込まれた奇跡みたいな話などで盛り上がった。
私も彼も全く恋愛感情がない単なる地元の中学の同級生だったから、そういうことは何もなく、それぞれのペースでフジロックを楽しみ、それぞれの世界で楽しく終わった。大阪に帰って来てからも、フジロックの打ち上げと称してその後数回飲みに行ったが、それっきり今に至るまで会っていない。


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この男女もそんな感じなんだろうと思いながら聞いていたら、
どうやら違うようだった。
男の子の方は不安そうに、
「ねぇ本当に別々で行動するの?」
と何度か女の子に聞いて、
「一人でも楽しめるから大丈夫!」
と女の子に言われて話を流されていた。

私もふむふむ聞きながら、この男子、ウザいな、一人で楽しめよな、と心の中で女の子に同調していた。
そのうち不安がる男の子に私より先にイラついた女の子は、
「そういうこといつまでも言わないで。一緒に来るって決めた時からそういう約束だったでしょ」
と言いだした。

はいはい、なるほどね。
男の子が女の子に惚れてて、よく分からないまま好きな子とフェスに行きたい一心で気軽について来たんだなと、私は盗み聞きしながらニヤリと含み笑いをしていた。そして盗み聞きはまだ続く。

朝ごはんを食べ終わって、フジロックのメインゲートに向かおうか、と立ち上がる直前に女の子はおもむろに、
「私と付き合うってそういうことだから」と言って、
男の子の唇に軽くキッスをかました。
朝っぱらからのフライドポテトも、思わず私の手から地面に落ちた。

おお!見事だ。

帰国子女か?
ここはイタリアか?
日本の教科書にはそんな技はどこにも載ってないし、学んでいない。
公衆の面前での朝一番からの接吻。
海外じゃないし、夜じゃないし、ノンアルコールだ。
これは極上の女だ。
レベル高すぎる。

しかも片思いかと思いきや、付き合ってるのか?
付き合っているのに全く別行動か?!
そこは少し妥協してやったらどうだい?女の子よ、
と男の子にいささか同情した。

そして
「トリのAPHEX TWINは間違いなく見ると思うから、その時には会えるかもよ」と言って、男の子の手を取り、手を繋いでゲートへと歩いていった。
APHEX TWINて21時からやし、まだ朝の8時やし。

しかしまあ見事だ。
これは、この男の子の手に負えそうにない極上のロックな女だよ。
格好いいよ。
自分のペースをあくまで守る。
とんだジャングルに飛び込んだね、男子よ。
ロング盗み聞きは、私に相当のインパクトを与えた。
21時までどうするんだろうか男子。
どうせ何度もLINEして「今どこ?」と彼女に聞いて、
フジロックを満喫している彼女からことごとくスルーされるんだろうな。
彼氏も一人で楽しめたらいいけど。

多分、この彼女は、社会ではひどい女認定されるかも知れない、
とふと思った。
おそらく協調性がない、変わり者でわがままな女で社会不適合者と思われているに違いない。
もし私が彼女のようなことをして、私の友達にその話をしたら、間違いなく「一緒に行ったんだから一緒に楽しんだらいいやん」って言われて説教されるだろう。っていうか「一緒に行くなよ、一人で行けよ。」と言われる、きっと。
そして、そもそも、私は別行動できない人とは一緒に行かない。友達の言う通り一人でどこへだって行く。
邪魔されたくないし、自分の世界に無理やり連れて来て、彼氏も楽しめるかどうか分からないし、一緒だと別物になるしな。
同じ趣味で一緒に楽しめればいいだろうけど。
そんなわけで私は、推し(Radiohead)が出るライブだけは、これまでワンマンだろうとフジロック、サマソニだろうと、一人参戦している。これは譲れない。
そして、滅多にないが私が誰かと旅する時は別行動、つまり一人の時間を必ず要求している。必ずだ。
何だか、私とその女の子のどっちが、社会不適合者か分からなくなってきた。
みんなで楽しくウェーイ!な人たちにはきっと分かってもらえない。
彼女と2人で飲みに行って、無性にその辺の話をしたいと思ってしまった。

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だけど、彼女は誠意を持って、
最初にそうなると彼に説明していて
彼も分かって来ているのだから、彼の責任だ。
彼女に対してつい、
妥協してやれよ、と思ってしまったが、
やっぱりしなくていい。
突き進んで行って欲しい。
我が道を突き進む中で、
男の子を夢中にさせるスキルがあるんだから、
無敵、最高。
久しぶりに格好いいロックな女を見たよ。
ありがとう。

最終的に、
盗み聞きをしていただけで、
キスもされていないのに、
私も何故だかその彼女に
すっかり夢中になっていたのだった。




ちなみに、
ちょびっとバズった2年前のツイートはこちら。

私のブログに書いた、1997年の第1回天神山スキー場で行われたフジロックの話はこちら↓
1997年の天神山にいた人とも、いつか苗場で会って一緒に飲みながらあの日の話をしたい。



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