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完璧な一日 【Hontanas,Spain】

旅に出ていない間、今までの旅のことを思い出す時に、ああ、あの日は完璧な一日だったな、と思い返す日がいくつかある。
特に事件が起こった訳じゃなく記憶の彼方に消えていってもおかしくないけど、絶対に忘れたくなくて、忘れないように時々思い出す、なぜか覚えてる一日のこと。
思い出すだけで何だか今を頑張れそうに思える日のこと。

私のhontanas(オンタナス)の思い出

2016年5月3日。
1年前の続きを歩くべく、スペインのログローニョから西へまたカミーノの道(下線部はリンク貼ってます)を歩き始めて1週間ちょっと経っただろうか。ブルゴスからメセタと呼ばれる、何もない台地が何日もひたすら続くゾーンに入った。
これが噂のメセタかと思いながら何もない道を歩き、日陰になるような場所もなく、後から出発したみんなが、トロトロと歩く暑さに弱い私を抜かしていく。
一緒の行程を歩いているメンバーとは顔見知りを経て仲間と呼べる間柄になっていて、みんなが私を抜かすたびに「あと10kmだよ」「Hontanasで待ってるよ」と励ましてくれたのでなんとか頑張ってほぼ1人で歩き続けることができた。
こんな何もない空の青と緑しかない場所に、誰もいなくなって1人ぼっちだけどそれが寂しくなくて、ここが地球じゃないみたいな不思議な感覚がした。

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そして朝から歩いて30km越えたあたり。
暑さで疲れ切った体に急に突風が吹いた。

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そこに、くぼんだ場所から幻のように突如要塞みたいな古い町が現れた。とっても小さい町。
この瞬間のことは忘れられない。
本当に急に目の前に現れた幻のような町だった。
15時半頃。
ここがHontanasだった。
町の入り口には、道に椅子とテーブルを並べただけのバルがあり、いつもの顔ぶれがとっくにシャワーを浴び終えて外でワインを飲んでいて、私の名前をみんなが呼んで笑って出迎えてくれた。

「ここは満室だよ!」という、巡礼者を地獄に突き落とすようなジョークを言うベルギー人のスタン。大きく腕でバツをして宿に入れさせず、「次の街まであと5km歩け」という意地悪な遊びだ。時々本当にそういう時もあるから本当かなとビクビクする。
スタンのジョークを聞いた後、スペイン人のスザンナがスタンを軽く叩き、「嘘よ、こっちだよ」と私の手を引っ張り、ようやくチェックイン。スタンが高笑いして後ろからバックパックごとハグしてくれた。
部屋に入り、2段ベッドの上に上がる力が残ってなくて、フラフラでハシゴに登れずにいたら、先に着いた韓国の兄貴が自分のベッドが下の段だから下を使いなよ、代わってあげるよ、と言ってくれた。
シャワーを浴びて、洗濯物をイタリア人親子のデヴィッドとユーリと私とで一緒に洗濯機へ。疲れていたので手洗いする元気もなかったし代金を3等分できてラッキーだった。
スペイン人のスザンナたちが作った伸び切った味のしないトマトパスタと、太っ腹なあの人が、町に一つしかない酒屋で買ってきたというワインとワイングラスを持って道へ出て乾杯。

20時半になってもサマータイムでまだ明るい夜の町を2人で少し散策。小さな町だったのですぐに宿に戻れてしまった。戻ったら今度はイタリア親子の作った完璧なトマトパスタでディナータイムをしていた。イタリア人の食事はいつも大人数でちょっと遅めだ。恨めしそうに見てたら、分けてくれた。パスタに関しては明らかにイタリア人の勝ちだった。
そこで一緒にまた飲んでいたら洗濯機と乾燥機が終わり、デヴィッドパパが洗濯物を分けてくれた。私のおパンツと一緒に、ホクホクのユーリのパンツがこちらに混ざっていたのでちょっと照れながら返却しにいった私に、「一緒に洗濯機に入れる関係はもう家族だ」とパパ、デヴィッドが言う。
宿の奥には、窓のない隠れ家みたいな、洞窟みたいな小部屋があって、そこで何人かで集まって、「明日どこまで歩く?」とか話してるうちに、1人ずつ「お休み」を言って消えていった。
声が響く小さな部屋だったため、内緒話のように小声でスタンと私が最後の2人になっても話していて、最終的に話題は、ユーリがどんなに私に優しいかということと、エリザベスは俺に気があるのかな、とかそういうくだらない話だった。
こっそり2人で深夜に部屋に戻ると、韓国の兄貴が床で寝袋に包まれていた。2段ベッドの上が柵がなくて危険だったようだ。まだ起きていたので、私と代わったせいでごめんねと伝えると「My pleasure 」と兄貴は寝袋から顔だけ出して言った。
スタンと2人でいたことに焼きもちを焼いたスザンナが、自分のベッドに私を連れ込もうとしたり「お詫びに私にキスしなさい」と言ってきて、スタンが調子に乗って「俺にもしろ」と言い、寝ているデヴィッドと紳士のユーリ以外のみんなが口々に「beso!」と言い出して私を寝かせまいとしてきたので、声を殺して笑った。
深夜なのになぜみんな起きていたかというとデヴィッドのいびきが凄かったからで、それはもう地を這うような響き方だった。
みんながセキ払いしたり困り顔で目配せ。
デヴィッドだけが熟睡をしている中、
クスクスと今日1日のいろんなことを思い出して笑いながら、耳栓とアイマスクを装着し就寝。
みんなまた明日ね、と言って、
こんな日がずっと続けばいいなと思って眠った。

これが私の完璧な一日。

思い出して書いてみたけど、いわゆる普通の日で本当に何も事件は起こっていなかった。その証拠に、この日は残念ながら写真をほとんど撮っていない。
でも、思い出すと全部繋がって風景が浮かぶ。
何もかもが。
歩いた道、空の青と緑、
幻のように出現した小さな町、
町の雰囲気、夜の散歩、
伸び切ったパスタ、
ホクホクのパンツ、
小声が響く小さな奥の隠れ家みたいな部屋、
デヴィッドのイビキまで、
どれも完璧だった。

忘れたくない。
日記を書いていてよかったし、日記をなくしたときのためにnoteに書いておく。

もう二度と同じ日はやってこないけど、
たった一日でもこんな日を過ごせたと思うと
私の人生も捨てたもんじゃないと思えるくらい
完璧な一日。




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