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風の歌を聴け/村上春樹 考察5

考察5になります‼︎

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引き続き、なぜ知らない主人公の僕が彼女の部屋に泊まっているのか、目覚めた彼女に説明しているシーンから入ります。端的に言えば、ジェイズバーの洗面所に泥酔して寝転がっていた彼女を介抱して家まで送り届けたのですが、彼女曰く、なぜそのまま泊まっていったのかについて不服に感じているようです。それについて僕は、昔、酒を飲んで帰った後に急性アルコール中毒で死んだ友人がいたことで心配になっての行動であると答えています。彼女は、「ずいぶん親切なのね?」と皮肉を込めた様子で言ってますが、これについては、女の子の家に上がる為の口実だと完全に疑っている様子ですね。しかも隣で看病するだけで本当に何もしていなかったのかも怪しいところと思っているようです。

本文では、主人公の僕はこの説明を時系列を追って自分や他人の気持ちを詳しく交えながら説明しています。私の考察では、いくつかのポイントに着目を当てることによって話の繋がりが見えてくるので、今から説明していきたいと思います。

暑いけれど気持ちの良い一日だった。僕は午後じゅうプールで泳いで、家に帰って少し昼寝をしてから食事を済ませた。8時過ぎだね。それから車に乗って散歩にでかけたんだ。海岸通りに車を停めてラジオを聴きながら海を眺めてた。いつもそうするんだ。

…彼女には全く関係のない話ですよね。それなのになぜわざわざ僕の一日の行動について説明したのでしょうか?私が思うに、僕は誰かにその一日の出来事を共有したかったのでしょう。それは僕の一日を成り立たせる術として、その行為を伝えることが必要不可欠であったと考えます。皆さんも1人で映画を見たり買い物したりして一日を満喫したら、その内容を誰かに話したいって思いますよね?それはSNSでも同じことです。でももし誰にも話さずひっそりと次の日を迎えて、また1人で過ごし、それが自分以外の誰にも伝わらなければ、自分の行動がまるで何もなかったように感じませんか?つまり主人公の僕は普段クールで強がっていますが、根は寂しがり屋な事が伺えます。だから1人で酒を飲む度に頭の中でカチンと音がして、存在意義なんて考えないように消えて楽になりたいと考えるのだと思います。でも本当はその話し相手として鼠を望んでいたのは明白ですよね。

さらに説明は続き、ジェイズバーでビールを飲みながら待てど来ない鼠に苛立った末に、電話までかけてみたが、鼠の様子が明らかにおかしいことに気付き、さらに嫌になってビールを飲んだと言っています。鼠の様子がおかしい点について考えてみましょう。

でもね、電車に出たのは女だった。……変な気がしたよ。奴はそういったタイプじゃないんだ。たとえ部屋の中に50人の女を連れ込んでグデングデンに酔払ってたとしても自分の電話は必ず自分で取る。わかるかい?

この話から、鼠が女を連れ込んでいたこと、さらに正常な神経ではないことが分かります。普段必ずとる電話を取らない=投げやりな状態であることが分かりますよね。多分、何かの出来事で自暴自棄になり、どうでも良いような女を連れ込んだのではないでしょうか?それについて僕は、親友の自分よりもどうでも良い女と一緒にいる鼠に嫉妬に近い感情を抱いたのだと推測します。そこについて本文では「(電話を)切ってから少し嫌な気分になった。何故だか分からないけどね。」と書いています。そんな感情に戸惑っていることが分かります。

続けて彼女にしてもバーで泥酔するほど一人で飲むには何かしらの理由があることが伺えます。僕に鞄に入っていた葉書を読んだか聞いているあたり、彼女をそうさせた理由がその葉書に書かれている可能性が考えられますね。

彼女の口調には僕を苛立たせる何かがあった。もっともそれを別にすれば、彼女は僕を少しばかり懐かしい気分にさせた。古い昔の何かだ。もっとごく当たり前の状況でめぐりあえたとしたら、僕たちはもう少し楽しい時間を過ごせたかもしれない。そんな気がした。

彼女は、他人に無関心な僕を苛立たせる=感情的にさせる何かを持っている。それは懐かしい気分にもさせたと。つまり、主人公の僕は長らくの間どうでもいい女としか出会えなかったことを示唆しているように思います。でも彼女に関しては、どうでもいい女ではない、いつまでも懐かしみのある昔の思い出話に登場するような女と同じ雰囲気を持っているように感じたのでしょう。だから、ちゃんと出会えていたら恋人になれたかもしれないと考えたのかもしれません。

その後、彼女は急いで顔を洗い、着替えと髪ブラシを済ませて仕事へ出掛けようとしています。僕はその姿を「諦めに似た空気があたりに漂っている」と感じ、「僕の気持ちを幾らか重くさせた」とまで書いています。彼女の気持ちを推し量るくらい、彼女をある種特別な存在と見ているように思えます。そして何か自分に出来ることはないかと、彼女を車で送ろうと言い出したのでしょう。もしどうでもいい女ならば、そんな事はしないと思います。

「ねぇ、昨日の夜のことだけど、一体どんな話をしたの?」車を下りる時になって、彼女は突然そう訊ねた。「いろいろ、さ。」「ひとつだけでいいわ。教えて。」「ケネディーの話。」「ケネディー?」「ジョン・F・ケネディー。」

彼女を車で仕事場へ送る際に会話した内容です。昨夜の夜にケネディーの話をしたと言っていますね。あれ?確かその前にもケネディーの話題が出たことがありますよね。そう、鼠が考えた小説の中で沈没船から海へ投げ出された女と鼠が数年後にバーで再開した時に話しました。いわゆる鼠と元彼女の会話ですよね。これについては、鼠の元彼女=僕が介抱した女性なのかなと思ったのですが、後の話の中でこの女性はジェイズバーで鼠に出会いますが、顔見知りではなさそうでした。しかしケネディーの会話を再度持ち出すあたり何か繋がりがあるように思えます。これについても後のストーリーを追いながら考えていきましょう。

では、引き続き考察6に続きます。



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