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インドで絶対にインド人を信用するなってインド人が言ってた~インド旅行記9:反抗期

2010年11月9日 
で、朝がきてまだ雨だったので
「あーほんとバラナシっすこれ、さようならっすゴア、よろしくっすバラナシ!」
とまるで毎日の習慣だったような自然さで宿の主人に話しかけ街に行く手配を整えた。
出発の時、レストランで働く青年に話しかけられる。
彼の物腰の柔らかさや顔や穏やかな目からなにかインド人ではない気がしていたが 彼が「ネパールには来たことはある?」と言うので、きくと青年はネパール人だった。
なぜ今インドに?彼いわく、ここは海があって素晴らしいし英語の勉強もできる、とのことだった。
「そっか、ネパールは山だもんね」
「そう、山。ははは」
「ネパールにも行ってみたいと思うよ。神秘的な国だと思う、素敵だ」
彼ははにかむように笑った。
この青年がとんでもなくネパール内で異質でない限りなんとなくネパール人とは仲良くできそうだ。ギラギラがない。自分の国を愛しつつ、他の国、海のそば、インドで生活をする青年。
二度と会うことは無いのだろうけど、彼の穏やかな暮らしを願った。

タクシーでの移動中、またも次の場所に行くことが、どこかに行けることが楽しくてわくわくしていた。
目的が定まり、「今、自分はそれに向かっている!」
その事実が私に気力をくれ、昨日の憂鬱さが嘘のように私は元気だった。躁鬱でいくと完璧な躁状態だ。
「イャッホー!」とかいいながらキャプテン翼とボールが走り回る感じである。
鼻息で車内の窓が曇りそうだった。
基本的にいつでも飛行機の中でも異様に気持ちが昂るので、移動中に一番純度の高いわくわくを感じる、気がする。
人生もずっと移動中、ずっと移動してると思うとわくわくする。
街につき、ゴアからムンバイへのバス料金を調べると500ルピーだった。
なぜここゴアからバラナシに行かずに、来た道を、ムンバイへ戻るのか。単純にバラナシに行くには一度ムンバイに戻らねばならないからだ。
行きは600ルピーだったわけだが、ボラれたのか、あそこでの相場だったのかはわからない。
まあいい。餞別だ。
なんたって私はバラナシに行くのだ。
今も刻一刻とバラナシに近づいているのだ。
雨もあがった。追い風だ。
世界が私を応援している。待っていてくれバラナシ。

バスチケット売りの店内で待っていると、店の主人が話しかけてきた、ゴアの他のビーチには行かないのか、ここはとてもナイスだと。
そうだねえ、でも今度にする、と答えた。
ああ、自分の住む土地を好いている人はいい。
自分を軽く肯定できているみたいで。
少し余裕の出てきた私は、バス待ちの間に周りの店を見てみる事にした。
歩くともれなくジロジロみられる。未だに一人もアジア人に、日本人にも出会っていない。
おかしい。
あんなに日本人はインド旅行記を書いていてインドはポピュラーな旅先なはずなのに。 あからさまな注目に慣れてはきたが、見張られてるようで写真を撮る動作がためらわれて写真が撮れなかった。
ジロジロ視線を受けながら、私のほうの視線も一つの店に止まった。

視線の先には、やってるんだかやってないんだかわからない一軒の店。
入るとメニューを手渡された。まず喉が渇いている。
メニューにはチャイが無かった、しかしある筈だ。
「チャイはある?」
「これだけどいい?」
店員が指差したのはファミレスにあるドリンクバーのマシーンだった。カップを置き、ボタンを押せばドリンクが注がれる。
それのオンリーチャイヴァージョンだ。
ツーっとチャイは注がれた。紛れもなくチャイだった、あったかくて美味しいチャイ。
8ルピー。いいぞ、好調な滑り出しだ、このまま!
そう、私は気付いていた、インドに着いて4日、依然、まともな食事、固形物を一度も摂取していない事に。
昨日の憂鬱はエネルギー不足からくるものである可能性に。
食欲は無いがそろそろここらでちゃんと食べなければいかんだろう。
でないと、死にやすい。肉体的にも精神的にも。
そんな本能的危機感から店から店へと見て回るのだが、食べたい、食べられそうなものがない。
探すうちにだんだんお腹が空いてきた。早く何か食べたい、ダルとかカレーとか。
ふと、遠目にショーケースに並ぶサンドイッチらしきものが目に飛び込んできた。
サンドイッチ!
特に好きでも嫌いでもないけど今は食べたい!
ショーケースに頬杖をつくやる気の無さそうな店員に近寄ると彼は両耳にイヤホンをして両目を閉じていた。
やる気は無さそうでは無く、無かった。
まあいいと、サンドイッチを選ぼうとショーケースを見ると、全てのサンドイッチは客側から中身が見えない様に背を向けて陳列されていた。
熟語で表すなら「拒絶」だろう。
サンドウィッチの背のみを見せつける陳列スタイル。
日本のあの、三角サンドイッチの断面、色とりどりの中身が並ぶ陳列に慣れ親しんだ私には衝撃だった。
パン。ただパンとパンが密着して並んでいる様子。
これがサンドイッチの背中。
これが反抗期。

S気も感じる。M気のある私はコンコンとショーケースを叩いた。
店員はどろんとした目でイヤホンを片耳だけ外した。シャカシャカシャカシャカ。
「これらのサンドイッチはどういう種類、具ですか?」
「どれ?」
どれが何かわかんないから聞いているんだが、適当にひとつを指差した。
「これ」
「…それはキャベツとバター」
なんだその具…きいたことないよ…
「…他のは?」
「全部いっしょ」
じゃあお前の始めの「どれ?」は何だったんだよ!
どういうことだよ!
無言で突っ込みながらも決めた、いいだろう
見せてもらおうか、インドのサンドイッチのキャベツとバターとやらを…
「OK.それちょうだい」
うんともすんとも言わず店員はごそごそとキャベツとバターのサンドイッチを取り出しぶらぶら奥に引っ込んでいった。

袋に入れるのかな?何を
「ガチャ」「ウィーン………チーン」
チンされてる…私のサンドイッチ…問答無用で…
そしてうんともすんとも言わず店員から、ラップにつつまれた、チンされたがホカホカでもなく、なまぬるいキャベツとバターのサンドイッチが手渡された。
「冷めかけのホットサンド…これは冷めかけの焼いてないホットサンドを買っただけだから…」
正気を保つために呟きながらバスチケット売りの店に戻り椅子に座る。

ラップを開けると、パンの表面は少し乾き、バターがほのかに香った。パンをめくれば短冊切りのキャベツがしんなりと、いた。心なしか恥ずかしそうに。
何となく見てはいけないものな気がしてすぐに閉じた。
キャベツとバターのサンドイッチ、日本なら選ばない、チンもさせない。
期待はしない、だが食べる!
がぶりといくと、悔しいことにこれが4日も食べていないとあってめちゃくちゃ美味しかった、美味しく感じた。
しかも一口咀嚼して気付く。
悲しいことにこれが4日も固形物を、噛んで食べていないと、口が、舌の付け根が、めちゃくちゃ痛いのだ。
舌の筋肉か衰えているのだ。
ゆっくりしか顎に力が入らない。
固形物を飲み込むことも忘れているのか、飲み込もうとしても痛い。
筋肉がうまく動かず思うように飲み下せず、詰まってえずく。
そしてパン。ちょっと水分を飛ばされたパン。喉を通りにくい。水を持っていてよかった。
閉じた喉を押し開くようにしてパンが下っていく、鈍痛。
ゥご…う…うぐう…
リハビリだった。
人間はこんな風に…4日食べないだけでこんな事に…?こんなふうになるのか…身体ってほんと生きてるんだ…
痛みを感じながらゆっくり咀嚼し、えずくように、呑み込み。
一つのサンドイッチを30分程かけて食べた。

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