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【小説】ごわさん(16)

踊り人の訪れ


地見屋、碇は港の防波堤の突端に腰かけ、空を見ていた。
碇は微動だにしない。
擦り切れたズボンの裾から出たゴボウに似た足を海側へ垂らしていた。
腰さえ浮かせば、そのまま海にすとんと落ちるような、そんな身軽さだった。
突然、踊り人となったあの日から、碇は姿だけを地上に残し、中身は宙に吸い込まれたかに見えた。

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