マガジンのカバー画像

1話完結の短編たち。

4
短編という物語なのか詩なのかは読み手に委ねる。 詩も小説も、大した差はないよ。
運営しているクリエイター

記事一覧

愛のかたち

愛のかたち

「君って俗っぽくないところが良いね」
 いつか言われたこの言葉を超える嬉しいセリフはいまだに見つからない。
 かわいいね、好きだよって言われるたびに、冷めていく感情。はらはらと心の破片が落ちていった。好きだよって言われるたびに彼に言われたその言葉を思い出した。いつだって私は過去に囚われている。
 夢のなかも現実も大した差はないって気づいてから、すべてに現実味を感じなくなって、だから孤独って生まれる

もっとみる
S・H

S・H

 恋愛とか友情とか、そういう区別はよくわからないけれど、結局のところ一緒にいたい理由は人間性と精神面の一致でしかない。とわたしは思う。外見にたいした重要性なんかないって、本当はみんな知ってるはずだった。
「でもさ、俺ってお前にとって優良物件だと思うんだけど、どうよ」
 レモンから一番離れた場所にある唐揚げをつまみながら、高いのか低いのかよくわからない声で彼は言った。だいぶ気の抜けたビールをくいっと

もっとみる

パーラメント

渋谷を好きになったらお終いだ。そうやって渋谷にたまっている人を馬鹿にしながら池袋を彷徨っている。
行く宛もなく、ふらふらと同じ道を行ったり来たり。赤い髪をしたお兄さんが「ねぇねぇ」と後ろから近寄ってくる。
「ねぇ、かわいいね」
擦り切れてそうな微笑みが、あたしに向けられていた。ブーツに黒い革ジャンが似合う男。嫌いじゃないけど、好きにはなれない人種。
ねぇ、待ってよ。無視して通り過ぎるあたしのあとを

もっとみる

一味の世界

濡れた髪から流れた雫が静かに服に染み込んでいく。体が冷えて震えているのに、どこか火照っている気がした。
天気予報では晴れと、誇らしげに言っていて、珍しく家から出たと思えば雨。
なんとなく察していた、不条理に思える世界を僕は恨んでなんかいない。
そう、恨んでなんかいない。

吸いこみきれない雨が、アスファルトを踏みつけるたびに跳ねて、きらきらと弾ける。
溢したため息は誰にも聞こえない。

握りしめ

もっとみる