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#小説
「世界と世界をつなぐもの」第1話
【第1話 プロローグ】
みんな、どうして泣いているの?
美羽?なんで起きてこないの?
ねぇ、いつもみたいに話そうよ。
なんでずっと黙ってるの?
私と話す時が一番楽しいって言ってたよね?
ねぇ美羽? 美羽!
※
「大丈夫? 青葉?」
その声にふと我に帰ると、目の前に美羽の顔があった。ちょっと驚いたが、その表情は私を心配したものだとわかった。
学園祭のフィナーレを飾る花火を美羽と
「世界と世界をつなぐもの」第2話 ①
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【第2話 学祭実行委員、再び】
「数カ月で落ちるほど安い腕はしてませんので。センチョーこそ腕が落ちたんじゃない?」
私、桜小路青葉はゲーマーだ。ゲーム女子と言えばいいのか。
「たった一回で決めつけるな、桜小路! お前は俺の前にひれ伏すことになるのだ! 覚悟しろ!」
私の好敵手、センチョー。本名は川津来人。ゲーム愛好会『センター』の部長だから略して『センチョー』と呼んでいる。
どこ
「世界と世界をつなぐもの」第2話 ②
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私は美羽に手を振った。
「美羽? どうしたの?」
「青葉~! は~い、これ! とうとう来週から始まるからね!」と、美羽は笑顔で私に一枚の紙を渡してくる。
『次年度学園祭テーマについて』
という表題。
確かに昨年、欠員補充で臨時の学祭実行委員として活動をした。でもそれは昨年だけの話のはずだ。
「私、前の学祭の助っ人だよ? 3年生の送別会まではいた方がいいと思っていたけど、今度の
「世界と世界をつなぐもの」第2話 ③
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確かに楽しかった。
苦労した分、充実感も半端じゃなかった。
フィナーレの花火の時は涙が出た。
またこういう経験をするのも悪くないかも、とも思った。
しかし以前に戻り、怠惰な生活を楽しんでいる今、『もう一度あの忙しい日々に戻れ』と言われてもすぐに『うん』とは言えない。
「ねぇセンチョー。実行委員の仕事がどんだけ大変か知ってる?」
「でもその先に達成感と充実感がある。それを新田
「世界と世界をつなぐもの」第3話 ①
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【第3話 学祭テーマ】
陰キャ全開の私が、なぜか前学祭実行委員長の長谷川さんからは高評価を得ている。
なぜ?
そんな疑問を抱えながら、美羽が持ってきたプリントに目を落としていた。
学祭テーマはいつもみんなのアイデアを持ち寄って決めているらしい。
『1人1つテーマを考えてくること』
それが今度の会議までの宿題だ。
会議が間もなく始まるのに、まだ決めていない。
テ
「世界と世界をつなぐもの」第3話 ②
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会議に行くと、入口でテーマ案の提出を要求されたので、さっき思いついたテーマを書いて提出した。
「ねぇねぇ、青葉なんて書いたの?」
「え? あぁ……」
美羽に言おうとしたとき、誰かが近付いてきた。
「桜小路、あのときの活躍をまた頼むよ」
前学祭実行委員長の長谷川さんだ。
次の実行委員長は、このミーティングで立候補者が出揃い、その中から決まることになっている。採用されたテーマの提案
「世界と世界をつなぐもの」第3話 ③
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テーマ会議の議長は2年生の小島絢里さんが務めていた。
小島さんは美羽の陽キャ仲間で、人前に立って話すことを生きがいにしている。その割にフワフワした夢見心地な雰囲気をまとっているのが特徴である。文学部の日本文学科を専攻していて、将来アナウンサーになるのが夢らしい。だから、このような場を仕切る勉強をするために議長に立候補したと以前に美羽が言っていた。
会議はまず、来年度の学祭を開催す
「世界と世界をつなぐもの」第3話 ④
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「はい」
呼びかけに応じて立ったら、今日最大級の
おおおおおお〜
というどよめきが起こったが、なぜか今の私に動揺はない。
「キレキレ青葉だ!」
美羽のつぶやきが聞こえた。
ふと見ると、期待に満ちた目で美羽が見ている。
今の私は、それを見ても微笑む余裕があった。
「私は昨年、グランドフィナーレの花火の時に疲れからか、めまいがしました。隣にいる美羽と同じタイミングで。その
「世界と世界をつなぐもの」第4話 ①
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【第4話 学祭実行委員長選挙】
とうとうこの日が来てしまった。
私に投票する人はほとんどいないだろう。そうすれば、美羽と池畑君が委員長、副委員長。私はお役御免。晴れて平の実行委員になれる。
それでも立候補者スピーチをしなければならないのが私の気を重くする。でも……
今日はやりたいことがある。
そのために何回も練習した。
ドキドキバクバクだけど絶対成功させるぞ!
「皆
「世界と世界をつなぐもの」第4話 ②
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深呼吸をした。
少し落ち着いた気がする。
下手でもなんでも自分の言葉で話すんだ。
「皆さんは新田さん……いえ、いつも通り美羽と呼ばせていただきます。美羽がいつも笑顔なのは何故か分かりますか?」
私、意外と落ち着いて話せている。
みんな驚いた顔をしているのが見えた。
ザワザワし始めるのが聞こえた。
「ただ明るいだけじゃん?」
「陽キャだから? あはは」
「天然だから!」
「世界と世界をつなぐもの」第4話 ③
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「あ……地震?」
「なんだ? 変な揺れ……」
「めまい……? じゃないよね?」
みんな周りをクルクル見て色めき立っている。
私と美羽だけじゃない。みんなが感じている。
程なく揺れは収まった。
「今揺れたのなんだ? 地震?」
「でも床も揺れていたかなぁ?」
「揺れたんじゃないの? よくわからないけど」
「それでは新実行委員長の新田美羽さんに就任の挨拶をお願いします」
それ
「世界と世界をつなぐもの」第5話 ①
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【第5話 前期活動報告】
「蕪本慎太郎、法学部行政政策学科です。高校のときのあだ名は『シマエ』でした。よろしくお願いします」
「……?」
みんな一瞬沈黙した。
新入生歓迎会恒例の新入生自己紹介での一幕だった。
「しつもーん! なんで『シマエ』?」
誰かが発したこの質問は、多くの人が感じた疑問だ。名前のどこにも『シマエ』はない。強いて言えば『しんたろう』の『し』くらいだ。
「世界と世界をつなぐもの」第5話 ②
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※
学祭実行委員会の入会数、昨年が9人だったのに対して、今年は新入生57人、2年生が10人。急増にも程があるこの現象を、多くの人が『美羽効果』と呼んでいた。
明るくて元気。黒目がちのクリクリぱっちり二重にさらさらロングヘア。そんな美羽が実行委員長として挨拶するのだから、多くの男子が興味を持つのも無理はない。
それを聞いた前実行委員長の長谷川さんは「どうせ俺は魅力ないですよ」と、
「世界と世界をつなぐもの」第5話 ③
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部署分けの日、蕪本君を見かけるとすぐに美羽は行動を起こした。
「シマエく~ん、ちょっと」
蕪本君を手招きする。
「え? 俺っすか?」
驚く蕪本君。シマエナガも驚いたらこんな顔なんだろうか? と思うと笑える。
「あ、いいなぁ」美羽に呼ばれた蕪本君を羨む声。
「何かしたんじゃないの?」と笑う声。
「幹部そろってんじゃん!ある意味怖えぇ」と畏れる声。
様々なざわつきの中、蕪本君は私と美